「じゃあ、予定通りよろしく頼む」


「分かった」





そう言って伊東は立ち上がり、部屋を後にした。


廊下から「またどうぞー」との声が聞こえ
俺は猪口に注いでいた酒を煽り、立ち上がる。


部屋を出て、がいつも食器を片付けているところに向かう。








『うむ、それはどうするでござるか?』


『これはですね・・・こうするんですよ』


『ほぉ、こうでござるか?』


『そうです。万斉さんは器用なんですね』


殿の教え方がいいのでござるよ』






向かう途中、なにやら楽しげな二つの声がした。
俺がそこに着くと、と、その隣に万斉が立って何かしていた。

しかも万斉のヤロー・・・の手を馴れ馴れしく握ってやがる。








「万斉」




「あっ、晋助さん」

「何用でござるか晋助」






俺が声をかけると、は気づいたように振り返る。
万斉はというと何事もないような表情をして俺を見る。






「時間だ。行け」


「人遣いが荒いでござるな晋助」


「グダグダ言う暇あったらさっさと仕事して来い」


「やれやれ、承知したでござるよ。・・・・・・では殿、また」


「はい。またどうぞ」






に別れの挨拶をして、万斉は俺の横で足を一旦止め
小さく声を出す。





「何もしておらぬから心配しなくてもいいでござるよ」


「手ぇ握ってただろ」






小さく俺と万斉は会話をする。
どうやら俺が嫉妬していたのが分かったらしい。

悪ぃか。嫉妬して。






「伊東とお主が話しておる間、殿が退屈と思って話し相手をしてただけでござる」


「じゃあ何で手ぇ握ったァ?」


「スキンシップでござる」


「さっさと行きやがれ!」





万斉の言葉に俺はヤツの背中を蹴って、そこから追い出した。


何がスキンシップだ。
おらぁ自分の所有物に触られるのが一番嫌いだ。

モノだろうと・・・・・・それが、好いてる女だろうと。






「万斉に何もされてねぇか?」


「え?・・・あ、はい。万斉さんは特に何も」






に尋ねると、普通の答えが返ってきた。
好きでもない男に手を握られて「特に何も」っていう返答をした
俺は少々腹立たしかった・・・が、あえて言わないでおこう。

嫉妬したと思われると、自分が情けなく思えてしまう。





、ちょっと来い。酌しろ」

「え?・・・あ、はい」




これ以上惨めな自分を見せたくなかった俺は、を呼び
酒を注がせることを頼んだ(いや、もうこらぁ完全に命令だな)。

普通ならさせない。むしろこんなこと店側に知られたら、が大目玉モンだ。
極力俺はに「できる範囲でいいからしてくれ」と前もって言っている。


が俺の隣に座り、徳利を持ち猪口の中に酒を注ぐ。
それを俺は一気に煽った。




「あんまり、飲みすぎないでくださいね晋助さん」


「分かってらぁ。ほら・・・注げ」




猪口を差し出し、徳利から酒が注がれ、一気に煽る。




「さっきのメガネの方・・・偉い方なんですか?」


「聞いてたのか?」




すると突然がそんなことを聞いてきた。
もしかしたら、話の内容を聞かれたかもしれねぇ・・・と内心俺は焦る。





「いえ、何となく・・・雰囲気的に」


「フッ・・・・そう、だな。まぁ偉いやつといえば、そうかもしれねぇな」





しかし、の口から零れた言葉に俺は安堵した。

さすがに話せまい・・・これからあの男がする事を。
そして俺たちがその手助けをすることも。




「でも、あの人・・・何処となく、寂しそう」


?」


「あっ・・・ご、ごめんなさい・・・ちょっと、思っちゃっただけです」






は慌てて俺に謝罪の言葉を零した。


俺は何度も伊東には会っている。
しかし、は伊東に会ったのはほんの1・2回程度。
会った回数は俺よりもかなり少ない。しかもその中でコイツは伊東の”何か“を感じ取った。



人を見る目があるのは、俺か・・・それともコイツか。



そう思ったとき、思わず失笑した。





「晋助さん?」


「悪ぃ・・・いろいろ考えてたら思わず笑っちまった」


「そうですか」


「なぁ、


「はい?」




俺は猪口を膳の上に置き、徳利を持ったの手を握った。







「少し抱きしめさせろ」



「え?」



「何もしねぇよ。・・・なぁ、いいだろ?」





俺の突然の発言にの顔がみるみるうちに赤くなる。

だが、何もしないと信じているのか
は持っていた徳利を膳の上に置いた・・・ようするに、それはしてもいいという合図。


何も言わない、無言の合図で俺はを引き寄せ抱きしめた。
小さくか細い手が俺の背中に優しく絡みつき服を握る。




「どうしたんですか、晋助さん」


「何でもねぇよ。ちょっと抱きしめたくなったんだ」


「寂しくなったんですか?私が万斉さんや、さっきの人の話をしたから」


「違ぇよアホ」




いや、そうかもしれないと・・・俺は思った。
むしろあながち間違いではないだろう。


が俺以外のヤツの話をしたりするから・・・そうなったのかもしれねぇ。





伊東にも、こういうヤツが・・・心許せるヤツが、居たら・・・・・・。




そう思ったら、また笑ってしまった。






「ククククク・・・・ッ」



「し、晋助さん・・・あの、くすぐったいですから・・・あんまり笑わないでください」



「悪ぃ・・・思い出し笑いだ」





笑うのを堪えて、俺はを離した。

すると、外から花火の音が聞こえてきた。俺が障子を開けると
空に大輪の花が、咲き乱れていた。







「わぁ〜・・・花火。綺麗ですね」


「そうだな」


「そういえば、私晋助さんと花火見るの初めてですよね。何だか嬉しいです」









外の花火が咲き誇り、俺の目の前にある穢れない花も
薄汚れた俺に咲くように笑いかけてくれた。





「何日かしたらまた花火あるんで、そのとき・・・・・・」



「何だ?」



「え?・・・あ、いえ・・・ちょっと、また一緒に見たいなぁとか・・・・・調子乗っちゃっただけです・・・ごめんなさい」



「いいぜ。花火一緒に見るくらい・・・おめぇにはいつも世話になってるからな」



「晋助さん・・・ありがとうございます」





煙管を取り出し吹かしながら、また花火を見てもいいと答えると
は嬉しそうに笑いやがった。惚れた弱みだよ、こんなのはよぉ。



そして二人で、会話を交わすことなく
花火が終わるまで見ていた。


のヤツは嬉しそうに花火を見ていた。

俺は紫煙を吐き出しながら・・・空を見上げてた。



暗闇に咲く大輪の花。

だが、その花はすぐ散り・・・また再び大きな花を咲かせる。



しかし艶やかな花は、時として・・・・無残にも散り行くもの。

空に咲くあの花も、また・・・生まれては消え、消えては生まれ。




綺麗に咲き誇るモノほど、散り行く時はあまりにも無残なものだと・・・俺は知っている。




うたかた花火
(彼は知っていた、花火と人の命は紙一重と)

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