「お〜い、ちゃんいるか〜い?」
「松平様」
ある日晴れた日。
松平がの家を訪れた。出迎えたのは使用人のトネだった。
「おいおいちゃんは?」
「お嬢様なら・・・」
「どうしたい?」
松平が尋ねると、トネは表情を曇らせた。
「足にお怪我をして、ここに戻ってこられた日以来・・・お嬢様の様子がおかしくて」
「どういう意味でぃ?」
「お仕事にも行こうともせず、毎日縁側に座って空を眺めるばかり。
松平様・・・・・お嬢様に何があったというのでございましょうか?何かご存知なら教えてください」
トネは松平に必死な思いで頼み込んだ。
幼いころからの世話をしているトネからすればの変化には
心配せずにはいられない。
松平はそんなトネの言葉にため息を零した。
「屯所に行ったら姿は見えねぇし、近藤から聞いてこっちに来てみたらどうやら大分引きずってるみてぇだな」
「松平様」
「あの子は・・・・・・大事なヤツを失っちまったんだよ。どれくらいの位置にいたヤツ知らねぇけど
あの子にとっちゃきっと大事な位置に居たんだろうよ」
―――――――伊東鴨太郎っていう人間はな。
「・・・・・・・・・」
は縁側に居た。ボーっと空を眺めている。
空を映していた目線を落とし、彼女の視界に入ってきたのは
包帯の巻かれた左足。
は肩を落として、顔を伏せた。
「いい加減仕事行かなきゃ。近藤さんに迷惑かけっぱなしなる」
ボソッと呟くもの体が動かなかった。
足はもう十分に完治して歩くことだってできるはずなのに――――――。
「立ち上がれない」
は笑いながら言う。
握り拳を作って、精一杯の力をこめて立とうとしているのに
それができない。
「立てない・・・・・立て、ないよ・・・・・・・・・鴨さんっ」
そう言いながらは泣いた。
はあの日のことを思うと涙が止まらない。
だけどあの日、伊東の亡骸を見たあとのことを彼女は覚えていない。
正確には”思い出したくない“から無理やり、それを記憶から消し去ったのだ。
覚えているのは、自分を家まで連れてきてくれた・・・銀時たちだけ。
家に着くまでの記憶は今・・・彼女の中にはない。
あるのは、伊東を抱きかかえ泣き続けた自分の姿だけだった。
うたかた花火
(何も覚えてない、思い出せない。あの日あの後のこと)