「最近来ないネ」


「きっと仕事で忙しいんだよ。さんはお役所勤めしてるんだから。ねぇ、銀さん」


「そーだな。最近が来てくれなくて寂しいよ、おらぁ。ついでに息子も寂しがってるっつーの」


「しんみりした空気に何言ってんだアンタ」







真選組の内乱から数日後。



新八は部屋の掃除をし、神楽はソファーで大好物の酢昆布を頬張る。

銀時に至っては仕事用の椅子に腰を深く沈め、足を伸ばし机の上に乗せていた。


つまり万事屋の面々は相変わらず暇の一点張りの生活をしていた。



いつもなら、此処に見回りがてらサボりに来るを待っているのだが
彼女が扉を開ける音もしなければ、現れる気配すらなかった。









『どーも。サボりに来ちゃいました』







の何気ない声と笑顔で、万事屋の空気は明るくなる。

それまでも明るかったけれど・・・が来る度にこの場所は更にうるさくなり、賑わい、楽しい空気が流れる。


しかし、此処数日。
が一向に姿を見せない。


来ない理由を、三人は分かっていた。







さん・・・大丈夫ですかね」


「さぁな」


「足の怪我治ったカナ?」


「さぁな」






新八と神楽の問いかけに、銀時はやる気なく答える。



数日前の、真選組内乱。

土方が伊東を処罰し、その直後にが駆けつけた後の事を
三人は、思い出していた。

























「鴨さん・・・鴨さん、目を開けてください・・・鴨さん・・・っ」





未だに伊東の亡骸を抱き、泣き続ける


そんなに土方はただ背を向け、何も言わず立っていた。






「ったく、あのバカ」





すると、沖田がため息と言葉を一緒に零しに近づこうとした。
伊東が過激派攘夷浪士達と手を組み、謀反を起こした罪は周りの光景からして事実明白。

いくら「仲間だった」とはいえ、それも現実。
受け入れなければならない時もある事を土方に代わり、沖田がそれを教えに行こうとしていた。





「待て総悟」


「近藤さん」





しかし、近藤がそれを止めた。







「今、行ってみろ。俺らが何て言ってアイツの傷を癒してやれるって言うんだ」


「止めないで欲しいでさァ近藤さん。伊東は俺ら真選組を潰そうとしたヤツですぜぃ。
その事実はにも言わなきゃいけねぇ事ですし、も隊士なら受け止めなきゃならねぇ事でさァ」





沖田の言葉には一理あるものの、近藤は一向に彼の動きを止めたままだった。





「近藤さん」


「それは俺も分かってる、だが、の奴ぁ、自分を失っている。
確実に俺らが近づいたらん中の”鬼“が起きて、暴走しちまうだろうし、俺や総悟の声も届かねぇだろよ」

「・・・!!」






近藤の言葉に沖田はハッ、とし未だ伊東の側で泣き続けるを見た。


仲間の死、という不安定な状態で今のに声を掛けたりしてしまえば
それこその中に巣食っている”鬼“が目を覚まし、仲間を殺しかねない。


そうなってしまっては、近藤も沖田も、ましてや土方でさえもに刃を向けなければいけない事になる。





「むしろ、俺や総悟が”鬼“を止める目的でに刃向けても、トシは多分に斬られる覚悟をしてるはずだ。
局中法度に添ってだが伊東を斬ったのはトシだ。がどんくらい伊東を信頼してたなんて、俺には分からねぇけど
だからこそ・・・トシはに斬られる覚悟をしてるんだ。にとっちゃ伊東は、きっと」


「じゃあどうしろって言うんでさァ」







淡々と話を進める最中、近藤と沖田の横をある1人の男が通り、泣いているの元へ行く。






「あ、お、おい!!お前っ、今行ったら殺されるぞ!!」


「うっせーな、黙ってろゴリラ」







近藤の声もガン無視でに近付き―――――。

















泣いている彼女の肩を叩いた。




彼女を呼ぶ声が発せられた瞬間、伊東の握っていた刀をは握り
声を掛けてきた人物を斬ろうとしていた。





”鬼が覚醒(めざ)める“


誰もがそう思ったが、の動きは止まる。



握った刀の柄(つか)を手で押さえられ止められていた。



血走った目では止めた相手を睨みつけるが――――――。







「銀、さん」






血走った目が、徐々に正常に戻る。



の目に飛び込んできたのは銀時だった。


正気を失いかけた所にやってきた白銀の光。
その光に、は段々と暗闇の中から這い上がってきていた。

握っていた刀をゆっくりと下ろしたの姿を見て
近藤はホッとため息を零し、肩を撫で下ろした。








「立てるか?」


「え?」


「え、じゃねぇよ。左足、怪我してっだろ。ったく、そんな足で馬走らせてたとか、どんな神経してんだおめぇは」


「あ・・・ああ」






銀時に言われて、我に返る。

そして自身気がつく・・・自分が左足を怪我していることに。







「アハハハ・・・そ、そうですよね。す、すいません」







は軽く笑う。

そう言いながらも、彼女の膝の上には伊東の頭が置かれていた。


まだ、彼女自身立ち上がることが出来ないのだ・・・体も、心でさえも。







「ほら、手ぇ握れ」







立ち上がれないに、手を差し出す銀時。
だがしかし、差し出された手をは一向に握り返さない。






、手ぇ握れって。銀さんが立ち上がらせてやっから」


「す、すいません・・・もう少しだけ、このままで居させてください」


「もうそいつぁただの屍だ。生きちゃいねぇ」


「分かってます」





「鴨さんだって、私には大切な仲間でした。だから、だから・・・っ」






の言葉に銀時はため息を零し、痛む膝を曲げ目線をの高さに合わせる。

そして、の頭を撫でる。
ただ、何も言わず・・・銀時はの頭を撫でていた。


彼の無言の優しさに、は歯を食いしばる。
そして頬からは粒ではなく、雫が流れる・・・そう、涙の。









「・・・っ、銀、さっ」








何度と呼んだ彼女の名前を銀時が言うと、は彼に抱きつき
そして大声を出して泣いた。

抱きついてきたの体を銀時は簡単に受け止め、ようやく伊東の遺体から離れた事を確認すると
を抱き上げ立ち上がる。









「とりあえず、家まで送ってやっからそれまでに泣き止んどけよ。じゃねぇーと、おめぇんトコのばばぁがうっせぇからな」








銀時がそう言うとはただ、頷いた。







「おーい。は俺らが送るけど、いいのか?」







銀時はを抱きかかえながら、未だ背を向けている土方に言う。
しかし、土方は無言。

「ったく」と銀時は言葉を零し、土方を見る。







「おい、話聞こえてんのかマヨネーズ」



「・・・・・・」




「女の扱いもできねぇてめぇらだから、俺がを家まで送るっつてんだ。
俺の個人的判断でやっていいなら、いくらでも送ってやっけど、一応真選組の方々がいらっしゃる手前。
真選組紅一点の隊士を無断で連れて帰ったら俺がパクられっからな。礼儀で言ってんだ」



「・・・・・・」



「てめぇの部下だろ、何とか言いやがれってんだ」









何も答えない土方に銀時は苛立ちを感じ始める。






「おい、マヨネーズ」



「すまん万事屋。を頼む」



「ゴリラ」






すると何も答えない土方に代わり、近藤が銀時の問いかけに答えた。







「今の俺達にゃあ、ちと怪我してるを送る自信ねぇんだ。まぁ俺達も大概手負いではあるんだがな。
頼んでもいいか?」


「・・・・・・あいよ。じゃあ責任持ってを家に送り届けてやるさね」







近藤の苦笑を含んだ言葉に銀時はようやく動き出す。



銀時は泣き続けるを腕に抱きかかえながら少し歩き、止まる。








「男ってのはホント、不器用な生きモンだよな。例えそれが糖尿病寸前の男だろうが、田舎くせぇ男だろうが
国民から税金泥棒って言われる男どもだろうが、泣いてる女になんて言えばいいのか分からねぇんだからよぉ」







銀時の言葉に誰もがそう思い、そして誰もが彼の言葉を返さなかった。

そしてはただ、ただ・・・銀時の腕の中で泣いていた。






「新八、神楽、帰ぇるぞ」

「あ、は、はい」

「分かったネ」



「万事屋。てめぇも手負いだ。一台乗っていけ・・・・・送らせる」







新八と神楽に声を掛け、帰ろうとした途端
それまで黙り込んでいた土方が声をかける。

銀時が首だけを土方の方に向けるも、彼は未だに背を向けたままだった。






「そうだな。怪我人も居ることだしよ、真選組副長殿のお言葉に甘えるとすっか」






そして一台のパトカーが四人の前に止まる。

新八が後部座席の扉を開け、神楽が先に中に入り
銀時が抱きかかえていたを入れ、そして自分も中へ入った。

中に入ると銀時は泣き続けるを自分の元へと引き寄せる。









「でぇじょうぶだ。心配すんな神楽、帰り着くまでには泣き止むさ」


「銀ちゃん・・・うん」





先程から泣き止む様子もないを心配する神楽。

そんな神楽に銀時は「大丈夫」と声を掛け、頭を撫でる。





「何処にお連れしましょうか?」


「とりあえずん家まで頼むわ。新八、神楽・・・俺らもの家で降りるぞ。
そっからでもウチに帰れるしな」


「そうですね」


「とにかくの家に行くヨロシ。安全運転しろよナ」









銀時の言葉にパトカーは動き出し、車はの家へと走りだした。


走りだした車の中でも、はまだ泣き止まず
ただ彼女の嗚咽だけが虚しく響いている。


そんな中でも、銀時は無表情でありながらもの頭を撫でる手を止めなかった。




しかし、新八と神楽は気付いていた。


先程の銀時が近藤達の前で言い放った言葉を含め、今の彼が思うこと・・・。








「(一番ツライのは、土方さんもだけど・・・きっと、銀さんもおんなじだ)」




「(銀ちゃんは嫌なだけアル。銀ちゃんは・・・の笑顔が一番好きネ)」











泣いているあの人−−の顔は彼−銀時−にとって、胸を締め付けられるほど痛いってことが。


























「あ?んだよおめぇら」




数日前の事を思い出して、新八と神楽は銀時を見る。


異様な視線に気付いたのか銀時は相変わらず死んだ魚のような目で2人を見た。




「何?俺の顔に何かついてる?鼻くそでも付いてんのか?」



「早くさんが元気になって此処に来るといいですね」

「じゃないと銀ちゃんの足りない病が発病してみっともない大人が丸出しになるネ」





銀時に気を遣って2人は笑って言葉を投げる。


2人の気遣いに銀時はため息を零し、机の上に乗せていた足を下に下ろし頭を掻く。





「そうだな」




そう答えたのだった。




だが、彼は・・・思い、悩んでいた。







「(もうあんなの泣き顔見たかねぇ。だったら尚更、自分でどーすりゃいいんだか。
ホント・・・女って、厄介な生き物だよな)」








いつまでも泣き止むことのない声と表情を
どうやって、いつもの笑顔に戻せばいいのか・・・困惑していた。






うたかた花火
(彼女が消し去った記憶を辿る三人) inserted by FC2 system

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