-------RRRRR・・・!!
万事屋で久々に電話の鳴る音がした。
「はい。万事屋銀ちゃんで」
銀時は鳴った電話をすぐさま取り、店名を言うも何故か言葉が途中で止まった。
途中で止まることのない言葉がいきなり止まり
其処に居た新八と神楽が不思議そうな面持ちで銀時を見る。
しかし、2人の表情が目に入っていないようで銀時は耳から受話器を離さず
真剣な面持ちで、言葉を発せずに居た。
「ぎ、銀さん・・・?」
あまりのことで新八は心配になり、声を掛ける。
「失礼致します」
だが、新八が銀時に声を掛けたのも束の間。
居間兼応接間の扉の所に、ある人物が立っていた。
「あ、貴女は・・・さんの所にいる、使用人のトネさん!」
「ババァ・・・何しに来たアルか?」
立っていたのは、の家で使用人をしているトネだった。
「本日は依頼がありまして、こちらにお伺いしました。坂田様はいらっしゃいますか?」
「・・・いらっしゃいますよー。何の用だ、クソババァ」
すると、銀時は電話を終えたのか受話器を置いてトネを嫌味全開で迎えた。
「銀さん。さっきの電話は?」
「何でもねぇーよ、気にすんな」
先ほどの電話の内容を新八が尋ねるも、銀時は何でもない、と電話の内容も相手も曖昧な言葉で濁した。
気にするな、と銀時本人は言うものの気にするなという表情ではないことが
新八も神楽もすぐさま理解できたが、自分達が問い詰めた所で
彼が喋ってくれるわけもない事は分かっていた。
「それでババァ、何しに来たんだよ。いよいよ死期が近づいてきたか?テメェの遺言書ならいくらでも預かっておくぜ」
「たわけ天パ!ワシはまだまだ現役じゃ!」
「じゃあ何だよ。を嫁に貰ってくれとかのお願いにでも来たのか?まぁを嫁に貰って欲しいならおらぁは一向に構わな」
「人の話を聞かんか、糖尿病寸前のクソガキがあぁあ!!」
「ぐはっ!?」
銀時の言葉に、トネは彼の頭を鷲掴みし、顔面からそのまま机の上に叩きつけた。
「お、落ち着いてくださいトネさん。あ、あのそれで依頼と言うのはどういった内容なんですか?」
「まさか、の事アルか?」
すると神楽が意表をつくような事を言い放つ。
神楽の言葉にトネは目を閉じて、薄く開いた。
「はい。実は此処数日、お嬢様のお体の具合が宜しくないのでございます」
「具合が悪いって。お医者さんには診てもらったんですか?」
「医師に診せても無駄でございます」
「無駄って………まさか、重い病気なんじゃ」
「そうではございません。実は数日もの間、お嬢様は仕事も休まれて毎日縁側で物思いに耽り
それどころかお食事もなさらないんです」
「そんな。さんが仕事も行かなければ、食事もしないなんて」
トネの話を聞いて、新八は心配そうな面持ちになる。
「、どうしたアルか?まさかババァ、お前がイジメたアルか?!何してんだよおめぇ!」
「んなわけあるか!!話を聞けやボケェ!!むしろ話聞いてたかこのクソチャイナ!!」
新八の心配を他所に、神楽はボケをかますもトネはそれに鋭くツッコミを入れる。
「ですから!お嬢様が唯一お心を許しておられる坂田様にお頼みしに伺った所存にてございます」
「お心を許しておられるねぇ〜」
トネの真摯な言葉に、銀時は耳の穴をほじりながらやる気のない声を上げる。
そんな銀時の態度が気に喰わないのかトネは眉間にシワを寄せ銀時を睨みつけた。
「人がこうやって、老いた体に鞭打ちながらやって来て誠心誠意込めて
頼んでおるのになんじゃその言い方は」
「ババァ、此処まで来れるなら元気な証拠じゃねぇか。
歩いてこれる元気があるなら、その元気、に分けてやれよ」
「老いぼれの力じゃどうにもならんから来たんじゃろうが!
とにかく、このままではワシは食事を作るどころか、お嬢様の事が心配で夜も眠れませぬ!」
トネの必死な頼みにも銀時は相変わらず耳の穴をほじり
言葉を右から左へと受け流しているようだった。
そんな銀時の態度に新八はため息を零し、彼を見た。
「銀さん。さんのためと思って」
「ほっとけ。そのうち元気になるだろ。いくらアイツが俺のこと好きだろうが
俺がアイツの事好きだろうが、俺が何かしてやっただけで、どうなるってんだ」
そう言いながら、耳の穴をほじり終え銀時は椅子に深くもたれかかる。
「はぁ〜こやつに頼んだワシが悪かったようじゃな。もうよい、邪魔したな」
「あ、トネさんっ!銀さん、いいんですかマジでこのままじゃさん、本当に餓死とかしちゃいますよ!」
銀時の態度に呆れたトネは踵を返し、帰ろうとする。
いつもなら「のためならしゃーねぇなー」などと言いながら腰を上げて
行動を起こすのだが、今回ばかりはそうでない事に気づき新八は慌てて説得を試みた。
「だーかーら、ほっとけって。ババァが今まで育ててきたんだ、俺よりも色々知ってるだろうよ。
ババァの知恵絞ったらいくらでも手立ては見つかんだろ。俺の出る幕じゃねぇーよ」
「でも、銀さん・・・っ」
しかし、説得も虚しく新八は銀時に返す言葉が見つからない。
「もうよい、メガネ。そやつに何を言っても一緒じゃ」
「でもトネさん」
「すまぬな、邪魔をして。失礼致しました!」
そう言ってトネは凄まじい音で、万事屋の戸を閉め去っていった。
銀時はため息を零し、新八と神楽は机の前に立った。
「銀さん、本当にいいんですか?」
「、元気ないなら銀ちゃん行った方がいいアル。銀ちゃん行けば、きっと元気になるネ」
「アホか。めんどくせぇお役ばっかり俺に回すんじゃねーよ。あー、変な話聞いちまったぜ」
すると、銀時は椅子から立ち上がり玄関先へと向かう。
「銀さん、何処に?・・・まさか、さんの」
「バカたれ、パチンコだパチンコ。今日はなんだか勝てそうな気ぃすんだよ。新八ぃ、神楽ぁ、留守番頼むぞー」
「銀さん!」
「銀ちゃん!」
そう言って、銀時は新八や神楽の声を他所に万事屋を出て行った。
万事屋を出て街をフラフラと歩く銀時。
「ホントによぉ……どいつもこいつも、俺に押しつけやがって」
銀時は空を見上げ、思い出す。
『鴨さん・・・か、もさっ・・・鴨さん!なんで、何で・・・約束、破らないでくださいよ!
鴨さん・・・鴨さん・・・!!!』
あの日、あの時の・・・大好きな女の、あの涙。
そして――――――。
『万事屋。最後に1つだけ頼みてぇことがある………の側にいてやってくれ。
今の俺じゃあ……何てアイツに言ってやったらいいのか、分からねぇ』
「最後もクソもあるかよ。ぶっちゃけ、てめぇのために行くわけじゃねーからな」
言葉を言い表せない人からの依頼−願い−。
でも、それは・・・銀時本人も望んでいたきっかけ−願い−。
「(のあんなツラ、二度と俺は見たかねぇんだよ。
笑って楽しそうにやってるの顔がおらぁ好きなんだ。
俺はただ惚れた女の笑顔取り戻しに行くだけだ。てめぇのためじゃねぇんだよ…………マヨネーズバカが)」
誰かのためではなく、自分のために・・・銀時は心の中でそう言う。
困惑し続けていた想いを、今、空へと放ち
そして大輪の花−笑顔−を取り戻しに・・・彼は、歩き出した。
うたかた花火
(互いの願いが重なった時、それは動く”何か“に変わる)