「土方さん、アホでしょ?よりによって何で、万事屋の旦那にの事頼んだんでさァ?」
「うるせぇぞ総悟」
夜。
屯所の縁側で煙草を吹かしながら、庭を見ている土方に対して
柱に寄り掛かり嫌味を言い放つ沖田の姿があった。
土方が謹慎を解かれて数日。
相変わらず屯所に姿を表さないに土方が取った手段。
万事屋坂田銀時にの事を任せるのを選んだ。
昼間、銀時の店に電話を掛けている土方の姿を
偶然にも沖田は目撃してしまい、今々彼は昼間の事を土方に言い放ったのだ。
沖田の中で最初から電話の事を抵抗するのかと思いきや
抵抗どころか、あっさりと電話したことを認めた土方の姿に彼は
つまらなさそうにため息を零す。
「最強にして最大の恋敵である旦那に、最悪にしてウゼェ恋敵である土方さん。
俺にとっちゃどっちも恋敵なことには変わらないでさァ」
「お前・・・俺の部分、何か癪に触る単語使うんじゃねーよ。おめぇの方が最悪でウゼェよ」
嫌味の一つや二つでいつものように沖田は言い放つ。
もちろん、彼のその言葉に土方もいつものように返した。
なんとかいつものやりとりが出来る、と分かった沖田は
小さく笑みを浮かべるも、すぐさま真剣な面持ちに切り替えた。
「土方さん。が伊東に懐いてたからって、あの人は真選組を潰そうと目論んでた人ですぜィ。
あの男はが大切とする俺らに刃を向けた相手。好きだ何だ云々差し置いても
にちゃんと言い聞かせるのは旦那じゃないはず」
「・・・・・・」
相変わらずの本題に入ろうとすると、土方は黙り始める。
此処数日。
が屯所に姿を見せないのは沖田だけではなく、近藤も心配していた。
本来なら部隊長として沖田が言い聞かせる役目だったのだが、近藤がそれを止めていた。
にも立ち直って欲しい、という
近藤の思いなのか沖田は動くのをやめていた。
むしろ、近藤は土方が動き出すのを待ったいたようにも沖田は思っていたのだ。
だが動き出したのは、彼−土方−ではなく――――別の男−銀時−だった。
それを促したのは土方本人、というのに正直沖田は呆れ返っていた。
昼間、万事屋に電話を掛けている所を目撃して。
「はぁ〜あ。旦那がオイシイ所持っていきやがったから、かなり差が広まったじゃねぇか。
いっそ今から、土方さんを殺っちまおうかなァ」
沖田は刀を抜き、土方の首に向ける。
しかし、土方はそれを払わない。
いつもなら罵声を出しながら沖田の刀を払うのだが、今はそれをしようとしない。
「局中法度に置いたにせよ、伊東を斬ったのは俺だ。
あのヤローだって、にとっちゃ大切な仲間だったはずだ。もしくは――」
"それ以上"という言葉を零しそうになった土方はそれを言うのをやめた。
仲間以上の想いをは伊東に向けていたのかもしれない、と土方は心の中で思っていた。
それは伊東の遺体を泣きながら抱きしめるの姿が
土方本人の脳裏から離れないのが何よりの証拠にもなっていたのだから。
「今の俺にゃあ、アイツに何て言えばいいのか分かんねぇ。頼りたかねぇがあのヤローに頼むしかなかったんだ。
伊東を斬った俺が、になんて言ゃあいいんだよ。万事屋の言うことは一理あったんだ」
『男ってのはホント、不器用な生きモンだよな。例えそれが糖尿病寸前の男だろうが、田舎くせぇ男だろうが
税金泥棒って言われる男どもだろうが、泣いてる女になんて言えばいいのか分からねぇんだからよぉ』
あの日、銀時の口から言い放たれた言葉に
その場に居た誰もが苦虫を噛み潰すような思いだったに違いない。
泣いている一輪の花−−に、声すら掛けれなかったのだから。
「やっぱりオイシイとこは旦那に持って行かれたってワケかィ。はぁ〜あ、まぁ俺も人に言えた義理じゃねぇーですけど」
「総悟」
「斬るのやーめた。こんな土方さん殺しても面白くねぇーや」
沖田は刀を鞘へと収め、夜空を見る。
ふと、其処に花火が上がる。
夜空に色とりどりの大輪の花を飾り、耳に残るように鳴り響く。
「・・・・・・、早く戻ってくるといいですね」
「・・・・・・あぁ」
ボソッと呟かれた沖田の言葉に、土方はただ返事だけを返したのだった。
うたかた花火
(この花火も今、お前は見ているだろうか?)