「・・・・・鴨さん」




夜。

は相変わらず縁側に座っていた。
そして、空に打ち上がっている花火を見上げていた。






「おーい。いつまでそうしてんだ?」


「銀さん」







すると、庭に銀時が現れた。
突然の登場に戸惑うも、彼女は苦笑を浮かべて彼を見る。







「こんな夜に女性の家に無断で入り込むなんて、不法侵入でパクりますよ」



「パクれるもんならやってみろ。玄関先で呼んだのに返事を返さねぇのは何処のバカだ?
入ってください、って言ってるようなもんだろ。だから庭から入ってきた」



「前半は正論述べてるくせに、後半完全に犯罪まがいな言葉をサラッと
言わないでください。返事しなかったのは謝ります。ばぁや、丁度買い物に出てて居ないんで」



「成る程な。おめぇに差し入れだ・・・ホラよ」





すると銀時はにあるものを投げやった。
彼女はそれをうまい具合にキャッチする。





「花火セット?」



「パチンコの景品で当った。ガキのお前にゃあピッタリだろうよ」



「ありがとうございます。でもお生憎と、花火は間に合ってますから」





は笑顔で空を指差すと、夜空に大輪の花が咲き誇っていた。






「んだよ、今日は花火大会だったのか」



「まぁまぁ。この花火は有り難く頂いておきます。今度みんなで・・・――――」







『鴨さん、今度は皆で花火見ましょう!局内の皆と』


君』


『何日後かにまた花火大会があるんですよ。その時に皆誘って、縁側でお酒飲みながら。
やりましょう鴨さん!』


『・・・・・そう、だな、約束しよう』


『はい、約束ですよ。土方さんが嫌いだからって、ドタキャンなしですからね!』


『これはこれは。まったく、君には敵わないな』








?」





ふと、内乱が起こる少し前の事をは思い出す。
しかし銀時の声で我に返り、すぐさま笑顔を取り繕って銀時に笑ってみせる。






「この花火は私1人でやります。銀さんがせっかくくれたモノですから」







そんな彼女の顔を見て銀時はため息を零し、の隣に腰掛け空を見上げる。







「そんな笑い方すんな。気持ち悪くてこっちが大笑いしたくなっちまうだろ」



「銀さん」






銀時の言葉に、は取り繕った笑顔を見破られてしまい
苦笑を浮かべながら彼と共に花火を見上げていた。






「いつからだ?」



「はい?」



「いつから、あの男に惚れてた?」







銀時の問いかけに、はクスッと笑う。







「銀さん、それヤキモチですか?」



「バーカ違ぇよ。で……どうなんだ、真選組の女隊士サン?」








銀時の突然の質問には困惑することなく空を見上げた。

そんな彼女の顔を横目で銀時は見ていた。






「”惚れてた“は間違いです。惚れてたというより、尊敬してました。
鴨さんは……兄のような人でした。私、兄弟とか居なかったんで。
だから・・・だから、鴨さんは私にとっては厳しくもあり、優しくもあった……兄のような存在だったんです」






『これをやろう。これで髪を結んでおくといい』







は手のひらに乗せた、伊東から貰った髪ゴムを見つめる。
しかしもうそれは、切れていて髪ゴムの意味を成さなくなっていた。





「嫌な予感はしてたんです。内乱が起こるちょっと前、鴨さんが江戸に帰ってきたくらいです。
変なこと聞かれたんで」



「変なこと?」



「えぇ。”もしも、僕が近藤さん達に刃を向けたら、君はどうする?“って。
私は、近藤さんや土方さん、総悟に山崎……みんなの事が大切だから……そんな人たちに刃を向けるなら
私は鴨さんに刃を向けるって……答えました」



「おめぇらしい答えじゃねぇか」



「原田さんからは”だからお前は弱いんだ“って、言われましたけどね」



「別に弱かねぇよ。お前がそう考えてんなら、それでいいんじゃねぇの」





銀時の言葉には微笑む。




「そうですね。でも、あの時に鴨さんを止めてあげれたらって今更ながら思ってるんです。
嫌な予感がしてたのに、それに気づかないフリをして……私は鴨さんを殺してしまいました」



「ありゃあ元々、あの男が仕組んだことでおめぇは何にも悪かねぇよ。おめぇが止めてても動いていたさ、あの男なら」



「そう・・・ですよね」




は顔を伏せ笑う。

銀時はそんな彼女を見つめる。
彼女の答えた声が、微かに震えているのが何となく銀時には分かっていた。






「か、鴨さんきっと…最期に土方さんと戦えて、よかったんですよね。私があの場にいたらきっと、きっと2人を止めて・・・っ」






は堪えきれず涙を流す。しかし悟られないように必死に涙を拭う。

すると、頭を優しく引き寄せられた。








「え?・・・ぎ、銀さん?」







銀時の大きな手での頭を引き寄せ、彼は自分の肩に彼女の頭を置いた。
あまりの事で目を見開かせ、銀時を見上げる。






「何強がってんだよ」



「ぇ?」



「強がるくれぇなら泣いとけ。泣いた分だけおめぇは強くなれる。
意地張って我慢するよりか、泣いて……泣いた分だけ強くなりゃいい。
人間誰しも泣きながら強くなっていくんだ、強ぇ奴なんか1人もいやしねぇ。みんな泣いて、そっから強くなっていくんだよ」



「ぎ、ん……さっ」



「だから泣いていいんだよ。大切な奴失ったんなら泣いていいんだ、強がるこたぁねぇさ。
おめぇが泣きてぇなら、おらぁ胸だろうが肩だろうがいくらでも貸してやるよ」



「ありがとう……ございます」





そう言っては堪えてた涙を零し始める。

銀時はただ黙って彼女の頭を撫でていた、あの日のように。









「約束……約束したんです、鴨さんと」



「約束?」








そして、は銀時に
伊東と交わした最期の約束のことを話し始める。







「今度、今度……みんなで花火見ようって。鴨さんと約束したんです。鴨さん……笑って、いいよって答えて」



「そうか」



「約束したのに……ホント、ヒドいですよね」



「そうだな、ヒデェ男だぜ。こんな美人との約束破るような男にぁロクな奴はいねぇ」



「まったく……そうですね」








銀時の言葉には笑いながらも、涙はとどまる所を知らなかった。

涙の止まらないを見て、銀時は花火の上がる空を見る。







「今日はたくさん泣いとけ。俺もそうだが、新八や神楽もおめぇがウチに来ねぇから心配してんだぞ?
神楽に至ってはグズグズ言ってうっせぇんだよ。今日はずっとおらぁ此処に居てやっから。
テメェとの約束破った何とかの分までおめぇと一緒に花火見てやっから・・・だから」







すると、銀時はの体を腕の中へと収め
強く抱きしめる。











「もう、泣くな・・・おめぇの涙見るのは辛すぎらぁ」



「銀、さん」



「笑ってくれ、頼むから」









抱きしめる力の中に感じる、震え。

銀時の腕が微かに震えていることには気付き
は、銀時の肩に顔を埋める。







「良かったです。今日、銀さんが此処に来てくれて」



「そぉかよ」



「明日から、ちゃんと笑います。あの、だから・・・今日まで、弱い私で居ていいですか?」



「これ以上に強くなられたら、銀さん男としての立場無くしちまうけど・・・泣いて落ち込むのは今日までにしてくれ。
誰かのために泣くのも今日までにしてくれ。明日から―――笑ってくれよ。俺の大好きなお前の笑顔、見せてくれ」



「・・・・・・はぃ」





銀時の言葉に、は彼に抱きついて思いっきり泣いた。




明日、立ち上がれるように。


明日から、笑顔に戻れるように。




銀時はを強く抱きしめて・・・空を見上げた。




そして、彼は思ったのだ。
もしかすると今日がと伊東が交わした約束の日だったのかもしれない、と。






うたかた花火
(果たされる日に、果たされなかった約束) inserted by FC2 system

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