「やはり・・・来てくださってのですね坂田様」
「ったりめぇだろ。のためならいくらでも来てやらぁ」
縁側で花火が終わった夜空を1人見ている銀時に
トネが酒の入った徳利と盃の膳を持ってやって来た。
「バァさん・・・この前は世話になったな」
「別に構いません。それに、手負いの人間を追い返すほど鬼ではございませんゆえ」
銀時が言う「この前」とは、彼らがをこの家に
連れて帰ってきた時のことを指していた。
本来なら、足に怪我を負ったを送り届けたら
銀時達はそのまま帰るつもりだったが手負いのまま帰せないとトネは言い
彼らを手当し、其処に一晩泊めたのだった。
「お怪我の具合は如何ですか?」
「おらぁ大概の人間と比べて回復力だけは高いんでね。もうすっかりだよ」
「それはよぉございました」
膳を縁台に置き、銀時が盃を持つと、トネは徳利を持ち酌をした。
「酌する人間が、美人じゃねぇのがちと残念だな」
「かれこれワシも昔は誰もが振り返る美人だったわい、舐めるなよクソガキ」
「年寄りは思い出保性が激しくていけねぇな」
盃に酒が注がれ、銀時はそれを一気に飲み干し
今度は自分で盃に酒を入れて、飲みだす。
「お嬢様は」
「ん?」
「お嬢様は、大丈夫なのでしょうか?」
トネの言葉に銀時は酒を飲み干し、盃を膳の上に置き
障子の閉められたの部屋を見つめる。
花火を見ていたあの後、は泣き疲れて眠ってしまい
銀時が布団の中へと入れてやったのだった。
「もうは十分に泣いた。十分に泣いたから、心配するこたねぇ」
「坂田様」
「は伊東を慕ってた、兄貴のようにな。真選組っていう中で伊東の存在はにとって
マヨネーズヤローとは違うポジションだったに違ぇねぇ。まぁ伊東がの事、どう思ってただなんて今となっちゃ知りゃしねぇがな」
「ですが・・・もしかしたら、伊東様はお嬢様を坂田様同様、大切に想っていらっしゃったのかもしれませんね」
「あ?どういう意味だババァ?」
トネの言葉に銀時は眉間にシワを寄せ、怪訝そうな顔をする。
すると、トネが懐から手紙らしきものを取り出し銀時に渡した。
銀時がそれを受け取り、まじまじと見る。
宛名には「様」と達筆な筆字で書かれており
それを裏返すと、差出しの所に「伊東鴨太郎」と書かれてあった。
「おい、コレ。いつ届いた?」
「坂田様達がお嬢様を連れて帰ってこられた次の日です。
皆さんが帰られた後くらいに真選組の隊士の方がこれを持って来られました。
伊東様の遺品を整理してる時に見つけた、と。隊士の方はきっと伊東が渡すはずのものだった、と仰っておられました」
銀時は手紙を見て、の眠っている部屋を見て数秒
向きを直らせ手紙を開ける。
「坂田様何を!?それはお嬢様宛の・・・っ」
「うっせぇな。伊東が俺同様に想いを寄せてたってことは、ラブレターだったらどーすんだよ。
せっかく俺が傷癒してやってんのに、塩塗るような真似ごとされてたまっか」
「しかし・・・っ」
トネの制止の声も振り切り、銀時は封を開けて手紙を読み始める。
しばらくの間、其処に沈黙が流れる。
銀時は手紙をジッと読み、トネはそんな彼の姿を心配そうな面持ちで見ていた。
数分後、手紙を読み終えた銀時が元通りに便箋を折り曲げ始める。
「坂田様・・・伊東様のお手紙には、何と?」
「頭のいいボンボンの書いてる事は、出来の悪い俺には分からねぇよ。読んで損した」
便箋を折り曲げて、それを封筒に戻す時銀時の動きが一瞬止まる。
「坂田、様・・・?」
「チッ。俺の女にいじらしいことしてくれやがって、あの男。
との約束破ったくせに主人公の俺よりカッコいいことしてんじゃねぇよ」
「坂田様・・・一体?」
「バァさん。コレ、の枕元に置いといてやれ・・・起きた時にでもが読むようにしとけ」
銀時は手紙を封筒の中に入れ、それをトネに投げやった。
そして徳利から酒を盃に注ぎ入れ飲み始める。
「坂田様」
「おらぁ今日は此処に居るってに言ったんだ。追い出されても帰るつもりはねぇからな」
「・・・お風邪だけは引かれまするな。お嬢様が大層ご心配になられますゆえ」
「ババァよりも体は頑丈にできてっから大丈夫だよ」
「では、私はこの辺で」
そう言うとトネは一旦、の部屋に入り手紙を
銀時の言われた通り枕元に置いて障子を閉め、銀時に一礼をしてその場を去っていった。
其処に残ったのは、銀時ただ一人。
空に浮かぶ月を見上げ、酒を煽る。
盃を持ちながら、首だけを後ろに動かし障子の向こうの眠っているを見る。
「ちゃんと笑えよ。俺もアイツも・・・おめぇの泣き顔なんてもう見たかねぇんだからな」
そう呟き、酒を煽った。
気付けば酒の入っていた徳利は空になり
銀時はその場に眠りこけていた。
「・・・ん・・・あー・・・眩しっ」
眠りこけて、次に目を開けると朝日が顔を出して一日の始まりを告げていた。
銀時はいつの間にか縁側に
預けていた体を起こし背伸びをして、欠伸をし、頭を掻く。
「こんな所で寝てたら、風邪引いちゃうのに」
「言っただろ。おめぇの側に居るって」
後ろから聞こえてきた声に銀時は、ほんの少しやる気のない声で答えた。
「側に居る意味がいつもと違いますけど、どういう風の吹き回しですかね?」
「流石に泣いてる女の横に寝たら、俺だって何するか分かんねぇーよ。
最近シリアス空気ばっかりだから意外に飢えてんだぜ。ハッチャケてイチャイチャしてぇんだよコノヤロー」
「アハハハ・・・じゃあ、そろそろそういう空気、終わりにしましょうか」
ふと、聞こえてきた笑い声に銀時は振り返る。
後ろに立っていたのは――――真選組の隊服を身に纏っただった。
「すいません銀さん」
「いいよ。仕事、行くのか?」
「ええ。これ以上近藤さんに迷惑かけっぱなしにはいかないんで。けじめもつけてこなきゃいけないし」
「そぉかい。なら俺はお家に帰るとするわ」
の姿を見た銀時は立ち上がり、再び背伸びをする。
「銀さん」
「んー?」
「花火、また一緒に見てくれますか?」
の言葉に、銀時は頭を掻きながら
彼女の前に小指を差し出した。
「え?」
「ほら、よくやるだろ?小指」
子供じみたやり方にはクスッと微笑しながらも
銀時の小指に自分のを絡めた。
『 指切り、げんまん、嘘ついたら、針千本のぉーます・・・指切った! 』
声を重ねながら、2人は約束を立てた。
「これで約束破れねぇだろ。また花火、一緒に見ようぜ」
「・・・はい、銀さん」
銀時の言葉に、は満面の笑みで答えたのだった。
そしてキラキラと眩しく輝く髪ゴムがしなやかな彼女の髪に結ばれていた。
うたかた花火
(一夜明けて、ようやく陽が昇った)