-----------ピピッ!
「・・・・・・・・・じゃ、行ってきま」
「お待ちくださいお嬢様!!何処に行くというのですか!?」
「仕事」
「その前に」
「その体温計を、トネにお見せください」
とある日の朝。
家でちょっとした攻防が続いていた。
朝、を起こしに行ったトネがの顔色を見るやいなや
体温計を出し、に計らせていた。
体温計が体温を測り終えた音を知らせ、は体温計を取り出し
それをマジマジと見つめ・・・そのまま仕事に向かおうとした。
「・・・い、いや」
「いけません。さぁお見せください」
体温計を見せずに、仕事に向かおうとしたをトネは呼び止め
見せろといわんばかりの態度をする。
トネのそんな態度に、はため息を零し渋々体温計を渡した。
「・・・・さんじゅう・・・は・・・38!!!」
「あー・・・うるさい。頭に響くでしょうが」
「お嬢様!!どういう神経していらっしゃるんですか!!38度も熱があるのにお仕事に向かわれるのですか?!」
「当たり前でしょ。熱出してる暇ないんだから」
の持っていた体温の高さにトネは凄まじい声を出した。
その声にはうるさいと言わんばかりに耳を塞いだ。
「いけませんお嬢様!!今日ばかりはお仕事に行かず、安静になさってください!!」
「報告書大量に残ってるんだから、休むわけにはいかないの」
「それでもいけません!!」
そう言いながらトネはの腕を掴む。
「離せやクソババァ!」
「そうはいきません!!」
「私は・・・仕事に、行くって言ってんの!」
「あ、お嬢様っ!?」
トネの力も振りほどき、はズカズカと廊下を歩いていく。
が。
バタン!!
「お嬢様っ!!」
あまりの熱の高さに、はその場に倒れたのだった。
「うぅ〜・・・何でこうなるのよ〜」
「トネの話を聞かないからです。自業自得です」
結局は仕事を休まざる得ない状況になり、現在布団に寝かしつけられていた。
もちろん、おでこには水で冷やされた濡れタオルが乗っていた。
「屯所のほうには、ご連絡しておきました。もう今日という今日は安静になさってください」
「高々風邪じゃない・・・騒ぎすぎよばぁや」
「風邪を甘く見てはいけませんお嬢様!治ったとみせかけて、ぶり返したりするんですよ!」
「いや、それ知ってるけどさ」
「ですから、安静になさってください。お嬢様のお体は、お嬢様だけのものではないんですから」
「ばぁや」
言葉が胸にしみたのか、今まで反抗的な言葉を発していた
が途端大人しくなった。
トネはのおでこに乗っているタオルを取り、水へとしみこませ絞り
それを再びのおでこにと乗せた。
「お疲れの体に、無理が祟ったんでございましょう。たまにはちゃんとお休みくださいお嬢様」
「・・・・・・はい」
「ばぁやが体に良いもの作って差し上げます。では、失礼いたします」
そう言ってトネはの部屋をゆっくりと出て行った。
彼女が出て行くとはおでこに乗ったタオルを顔全体に被せた。
「・・・・・・あっちぃ」
誰も居ない部屋で、はただそう呟いたのだった。
それから時間は、一刻一刻と過ぎていった。
はあまりの熱の高さに、眠ってしまったが・・・ふと、目を覚ました。
ぼんやりと視界に入ってくる・・・見覚えのある顔。
霞んでいたのがどんどん、クリアなものに変わっていく。
「おーいー、生きてるかーぃ?」
「総、悟」
の顔を見ていたのは、沖田総悟・・・彼だった。
「お、起きたかぃ?」
「アンタ・・・何しにきたの?人の寝顔見るとか悪趣味にも程があるわよ」
流石に上司を前にして、寝転んだままでは格好が付かないのか
は気だるい体で起き上がろうとする。
「おいおい風邪引いてんだろ?・・・無理すんなって」
すると、そんなを沖田が支えながらゆっくりと起こした。
あまりに突然の事で、彼の顔を見る。
普段の彼ならするはずないのに・・・と、は驚いた表情で沖田を見ていた。
「ん?何でぃ?」
「いや・・・総悟、お前・・・・・熱あるんじゃないの?私を支えながら起こすとか、お前に限ってありえないし。
むしろ何か悪いもんでも食べたか?拾い食いでもしたか?」
「おめぇ、どんだけ俺に悪いイメージ持たせようとしてんだぃ」
「とりあえず読者が理解する程度まで」
「おい」
の言葉に沖田はため息を零す。
がちゃんと起き上がったのを確認すると、沖田は彼女の隣に腰掛けた。
「で。熱の具合はどうなんでぃ?」
「知らん。でも朝よりは大分楽。つか、何上がりこんでんのよ?」
「ババァのヤツが見当たらなかったから勝手に上がらせてもらったぜぃ」
「アンタそれでも警察か。不法侵入で奉行所に突き出すぞ」
相変わらずの無作法というか、・・・とは心の中呟いていた。
まぁこれが「沖田総悟」という人物なのだから
仕方ないのだろうとはため息を零した。
「ま、おめぇが風邪引くとか珍しいから・・・見物に来た」
「帰れ今すぐ」
は枕元に置いていた自分の刀を取り、鞘から抜こうとしていた。
「冗談に決まってんだろバーカ」
「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよバーカ」
沖田の言葉を普段どおりに切り返しながら、は刀を収めた。
しかしあまりにも普段どおりかそうでないかの状態で沖田が自分に接してきているから
下がりかけている熱が少しだけ上がったように、は思えていた。
多分彼女の心の中「さっさと帰れ」と思っているに違いない。
「んで、何しにきたのよ」
「まぁ・・・その、なんで・・・ホラよ」
すると、沖田は何処からともなく花束を出しの膝の上に置いた。
しかも真っ赤なバラがたくさんと咲き誇っている大きな花束だった。
「え?・・・そ、総悟?」
「見舞いっつったら・・・花しかねぇし・・・食いモンやってもおめぇ食えねぇし」
「総悟」
どうやらこれを渡しにくるために、沖田はわざわざ忙しい時間を割いて
の元へとやってきたらしい。
彼自身、こういった事をするのが恥ずかしいのかから視線を逸らしたまま
ぶっきらぼうな言葉を投げる。
「部下心配しちゃ悪ぃかよ」
「え?あ・・・い、いや・・・そういうワケじゃ」
「なら、ありがたくもらえよ」
「ぅ・・・ぅん、ありがと」
語尾の「う」を言おうとしたは気づいてしまった。
バラの花束。
その茎の部分。
思いっきり棘が付いている事に。
膝の上に乗せているとはいえ、布団という分厚い壁で棘の痛みは
肌への刺激を防いでいたが、花束を持ち上げようとしたらはその存在に気づいた。
茎の部分に無数にも生えた、棘。
は多分、棘が一番少ないであろう一番下の部分を持ち――――――。
「ねぇ、総悟」
「あ?な、なんでぃ」
「このバラ、何処で買ったの?」
「はぁ?花屋に決まってんだ」
「花屋で買ったんならちゃんと棘抜いてもらってこいやこのクソサドが!!」
「ごふっ!?」
花弁の部分から、沖田の顔面に勢いよくバラの花束を叩き込んだ。
凄まじい力に押され沖田は障子を破り庭へと
放り出された。
勢いよく当てられた花束の圧力プラス棘の攻撃かつ
庭に放りだされた瞬間に地面に頭をぶつけた衝撃で沖田は伸びていた。
「まったく。相変わらず上げて落とすんだからアンタって男は」
「なーにやってんだ、おめぇら」
「!!・・ひ・・・・・土方さん!!」
すると、其処に土方登場。
またしてもの珍客には驚く。
「使用人のババァ居なかったから勝手に上がらせてもらったぜ」
「そろそろ奉行所に電話する頃合でしょうか?」
沖田同様な不法侵入まがいな事をやった土方に
はそろそろ奉行所に本気でこいつ等を突き出してやるか、それとも
松平に頼んでこの世から抹消してもらおうか、などと考えていた。
「んだよ。元気じゃねぇか」
「元気もクソもないですよ。庭に転がってるアホのせいで熱が上がりそうです。ていうか何しにきたんですか?
ウチに大量のマヨネーズは置いてませんよ。マヨネーズ買うなら帰ってください、むしろ出て行け」
「マヨネーズ関係ねぇだろ!むしろ出て行けってなんだおめぇは!!」
「そのままの意味ですよマヨラー」
「とにかく安静にさせて欲しい」とは心の中で思う反面
何故不法侵入されるかもしれない状況を作ったであろうトネに対して
腸(はらわた)が煮えくり返るような思いであった。
「土方さんまで、何しに来たんですか?」
「おめぇが風邪とか珍しいからな・・・まぁ、俺からの見舞いだ」
すると、土方はの隣に座り膝の上に白い箱を乗せた。
それを手で包み込むと、ひんやりと冷たい。
「土方さん、コレなんですか?」
「まぁアレだ・・・ケーキだ、ケーキ。お前・・・甘いもん好きだろ」
「土方さん」
鬼の副長と呼ばれていても、やはり部下で自分を慕っている相手なのか
土方は頬を少し染めながらに箱を渡し、顔を逸らしていた。
そんな彼の優しさに、沖田とは比べものにならないほど感銘を受けていた。
「あの・・・いただいても、いいですか?」
「おめぇ風邪大丈夫なのかよ?」
「ナマモノですから早く食べないと。それに甘いものは疲れに良いってよく言うじゃないですか!
だから早速頂きますね」
「まぁそう言うんなら・・・・・・無理せず食えよ」
「はい」
そう言いながら、は膝の上に置かれた箱を
嬉々とした表情で開ける。
しかし、開けた瞬間その表情が一瞬にして固まり――――――。
「土方さん」
「どうした?食わねぇのか?」
「いえ。あの・・・何ですかコレ?」
「ケーキに決まってんだろ。だが甘いだけじゃ疲れなんて吹っ飛ぶわけねぇよ。
もっと疲れ吹っ飛ぶように俺が上からマヨネーズをかけまくっ」
「普通のケーキに何さらしとんのじゃこのマヨラー!!!」
「ごぼっ!?」
ケーキの箱ごとを土方の顔面に叩きつけた。
土方が持ってきたケーキは、ケーキはケーキでも・・・そう
可愛らしいデコレーションのクリームの上に
彼の大好きなマヨネーズが「これでもか!」といわんばかりにかけられていた。
それを見たは当たり前のように食えるわけがない。
先ほどの沖田同様、箱ごと持ち上げ土方の顔に叩きつけ庭へと放り出した。
「はぁ・・・まったく。だから熱が出るわけよ・・・こんな上司共相手にすっから」
は頭を抱えながら、ため息を零す。
「てか・・・フラフラする。完全に熱上がった・・・ったく、ばぁやのヤツ・・・何処行ったのよ」
沖田や土方のおかげで、熱が上がり
の息遣いは少々荒いものになっていた。
外に2人を放り投げた?ことではあるし、再び寝て熱を下げようとしていた。
「さーん、お見舞いに」
「ザキ」
「来まし、とわっと!?」
すると、部屋に入ってくる山崎。
しかし何もない場所でこけた山崎・・・すると、あたり一面に何か散らばり、の布団の上にも
転がり込んできた。
はそれを手に取る。
山崎はすぐさま起き上がり、散らばったものを袋の中に戻し始める。
「あ。さん、すいません。ちょっと散らばっ」
すぱーん!!!
とあるものが、山崎の顔に激突。
山崎そのまま庭に転倒。
もちろん投げたのは。
「あんぱんなら、風邪治ってから食べてあげるから今いらない。つか食えるか」
山崎の顔に投げつけたのはあんぱん。
彼が持ってきたのは大量のあんぱんだった。
もちろん、それを食らった山崎は庭に転げ落ちた。
「お嬢様、申し訳ございません。お昼の準備に手間取りまして」
すると、小さな鍋をお盆の上に乗せたトネが
の部屋の前へとやって来た。
「・・・・・・あら?沖田様に土方様に山崎様じゃございませんか」
「ばばぁ・・・居なかったうんぬんは聞かないであげるから、とりあえず其処のゴミ共片付けて」
「障子も直した方がよろしいでしょうか?」
「30分でやって。できなかったら居なかったうんぬん問い詰めてやっから覚悟しろ」
「かしこまりました」
の言葉にトネはそれだけを返事して、後始末をしたのだった。
もちろん30分以内に。
風邪を引いた時はなるべく安静に!
(じゃないと、確実にぶり返してしまいます)