トネが沖田、土方、山崎の三名を片付けた後
昼食に体にいいものを拵(こしら)え、はそれを平らげた後
薬を飲んで眠っていた。
しかし、先ほどの三人の振る舞いにより
の熱は朝よりも少し上がっていた。
「・・・ね、眠れない・・・」
熱が上がってしまったせいで、は薬を飲んだにも関わらず眠れない状態であった。
体が熱く、着ている服にさえ汗が滲むのが早い。
「ば・・・ばぁや・・・ばぁや〜・・・・・・・・・・・・聞こえてねぇーし」
寝ている体でトネを呼ぶだったが、声が弱いのか
部屋から離れているトネの耳に届くはずがない。
は汗が染み込んだ服を着替えたいのだが・・・と思うも熱のおかげで
声すら思うように出ない。
「ったく・・・気のきかないばばぁ」
そう悪態を付く。
すると、廊下をこちらへと歩いてくる音がする。
「もしや、気づいた?」とは思いながら障子の方を見る。
障子がゆっくりと開き―――――。
「ちゃん。風邪のほうは大丈夫?」
「ーっ、具合はどうアルか〜?」
「お妙さん、それに神楽」
障子の向こうから現れたのはお妙と神楽だった。
自分が風邪を引いた事を知るはずもない二人の登場に
は目を見開かせ驚いていた。
「2人とも、なんで・・・?」
「いつもの見回りの時間になっても来ないから、何かあったのかと思って」
「ウチで待ってても、お前いつまで経っても来ないから心配してたヨ」
「とりあえず話をかみ合わせて2人とも」
発熱で脳内がショートしてしまったには
お妙と神楽の口から発せられた言葉の理解が出来なかった。
「それで神楽ちゃんが心配して私の所に来て、ちゃんが風邪を引いたって真選組の下っ端どもから聞いてきたの」
「確実に脅して聞いたんですね、お妙さん」
笑顔で言い放つお妙に、はため息を零しながら答えた。
お妙の笑顔はある意味では殺意ある笑顔にも見える。
言葉からしては「この人、下っ端たちを脅して聞いた」と脳内で簡単に理解した。
「ー・・・大丈夫アルかぁ?」
「まぁ・・・多少なりと」
「ウチのお店の人たちも心配してたの。だからハイこれ」
するとお妙は、どこからともなく風呂敷に包んだ重箱を出した。
「な、何ですか?」
「お店の人たちからのお見舞い。いつもちゃんには私達の周辺とかの見回り、お世話になってるからって」
重箱の蓋を開けると、様々な食品が詰め込まれていた。
しかしどれも体に良いものばかり。
先ほどの沖田や土方、山崎のモノとは比べものにならないほどまともなモノだった。
「これがお見舞いの品だろうが」と今もしこの場に
彼らが居たとしたら見せ付けてやりたいくらいだとは心の中で思っていた。
「・・・銀ちゃんは知ってるアルか?が風邪引いてるって」
「え?いや、多分・・・知らないと思うけど」
むしろ「お前伝えてこなかったのか?」と、思わず心の中で神楽にツッコミ。
「じゃあ銀ちゃんに知らせてくるネ!きっと知らせたら、あの天パ凄まじい速さで飛んでくるヨ!」
「えっ?あっ・・・いや、神楽・・・まっ」
「ちょっくらひとっ走りしてくるネ!待ってるヨロシ!!」
「か、かぐ・・・らぁ・・・って・・・・・・・・・・・・・行っちゃった」
の声も耳に入れないほど、神楽は凄まじい速さで
彼女の部屋を出て行き、銀時を呼びに万事屋へと戻って行った。
「ウフフ・・・・まぁいいじゃない」
「よくはありません。もし風邪うつしたらどうするんですか?お妙さんも神楽もですけど」
「大丈夫よ。・・・さてと、銀さんも来ることだし・・・そろそろお暇しようかしら」
神楽が知らせたら、確実に凄まじい速さで
の家に銀時が来ることは明白、とお妙は分かっているのか
邪魔者は退散した方が無難と言わんばかりに、その場を後にしようとする。
「あの、待ってっ!」
「え?」
お妙が立ち上がろうとしたとき、が彼女の着物を掴み動きを止めた。
「、ちゃん?」
「あの・・・ぁの・・・・・・い、行かないでっ」
「え?!」
熱のせいでほのかに赤い頬で、目を潤ませながらお妙に「行かないで欲しい」と訴える。
そんなに対し、お妙は思わずドキッとしてしまう。
多分彼女が胸を突き動かされたのはいつ以来のことだろうか?
しかし、何とか平常心を装うお妙。
「ちゃん、でも・・・っ」
「行かないで・・・・・・さ、寂しいよ・・・」
「(や、やだ・・・私、何ドキドキしてるの?え?何のなのコレ?)」
同性だというのに、の行動や声に胸が高鳴るお妙。
彼女自身の体温まで上がってしまいそうになる。
男性にこれほどまで胸がときめいた事はないのに
女性で、しかもあのストーカーゴリラの部下だという子に胸を熱くさせられていた。
「ぎ、銀さんが・・・来るまでなら、居てあげる」
お妙は、そんな気持ちがバレないようにゆっくりと言葉を選びながら言う。
するとその言葉に満足したのはは、笑みを浮かべ―――――。
「・・・・・ありがとう・・・・・」
天使のような微笑で彼女に言葉を返した。
ずっきゅーん!!
お妙の心に、矢のようなものが突き刺さった。
の天使のような微笑で、お妙の心に矢が刺さり
心拍数を上げていく。
「ぎ、銀さんが来るまでだからね」
「はい・・・えへへ」
「(はぁ〜・・・何て可愛らしいのかしら)」
お妙は完全に、風邪を引いて色香を増したに骨抜き状態。
本人は完全に風邪のおかげでそんな気は
まったくないのだが、その色香にお妙は当てられ、危ない世界への橋を渡ろうとしていた。
そんなことははまったく気づいていない。
そしてお妙は頬を真っ赤にしながらの頭を撫でていた。
「ちゃん。汗とか大丈夫?」
「え?・・・あぁ。服、ちょっと汗染み込んじゃって・・・気持ち悪いです」
「そう。じゃあ」
「私が汗拭いてあげるから、服・・・脱ぎましょうか?」
「え?」
お妙の笑顔で言い放たれた言葉に、・・・血の気が引く。
何か嫌な予感が彼女の背筋に走った。
「いや・・・あ、あの・・・け、結構です!!」
「あら?いいじゃない。女性同士なんだし・・・汗拭いて、お洋服着替えさせてあげる」
「あの、いやホント・・・いいです!!」
「大丈夫よ。新ちゃんが小さい頃もよくしてたから」
「そうじゃなくて・・・っ!」
ぐいぐいと力でを押していくお妙。
熱のおかげで思うように力が出せないのか、はたまた
お妙の凄まじいまでの力に自分が負けているのか。どっちとも言えない恐怖を
は味わっていた。
「ほぉら・・・脱いで、ちゃん」
「いや、あのお妙さん!だ、大丈夫ですから!私、ホント大丈夫で」
「それくらい元気があるなら、だったら俺の汗を拭いて欲しいくらいだ」
「「・・・・・・・・・」」
すると、何処からともなく聞き慣れた声。
障子の方を見ると、見慣れたゴツい仁王立ちしたシルエット。
瞬間障子がすごい勢いで開き―――――。
「お妙さーん!!俺の全身から吹き出た溢れる愛の汗拭いてくださーーい!!」
「近藤さっ・・」
近藤が現れた・・・・・・しかも全裸で。
あまりの登場の仕方に、は白目。
何をしに来たかと思えば、相変わらずお妙に対してのストーキングかつハレンチ行為。
これが真選組局長、そして自分の上司だと言うのをは
今すぐにでもこの世から、その事実を抹消したい気分であった。
「お妙さーーん!!拭いてくださ、ごぼっふ!?」
「薄汚いゲテモノ晒して来てんじゃねぇよ!イイトコ邪魔すんなやワレェェエ!!」
飛び掛ろうとしていた近藤の腕を掴み、そのまま空の彼方へと放り投げたお妙。
空の彼方、近藤は吹っ飛ばされ・・・星になった。
「ふぅ」というため息をついたお妙は
ゆっくりと、障子を閉めた。
ふと、・・・我に返る。むしろ「しまった」と後悔。
「さぁ・・・ちゃん」
「ひっ!?」
ゆっくりと振り返るお妙に怯える。
「お・き・が・え・・・しましょ?」
「え?あっ・・・そ、そのっ・・・」
笑顔で自分を見つめるお妙に、はもはや熱どころじゃない。
完全に目の前に居るお妙はいつものお妙でないことが分かってしまった。
「一体彼女に何が起こった!?」と思うだが、突然の彼女の変化に
自身が戸惑う。
「さぁ、ちゃん脱いで」
「い、いやぁ〜!お、お妙さっ・・・あの、マジ勘弁してください!!」
「女の子同士でしょ?大丈夫、何にもしないから」
「すいません!その言葉が凄く信じられないんです!!」
「銀さんに体許せて、私に許せないのっておかしいじゃない、ずるいじゃない」
「いえ全然おかしくないですし、ずるくもありません!!」
「すぐ終わるから。ちょっと・・・・・・銀さんが付けた跡消すだけだから」
「明らかに何かしようとしてますよね!!明らかに何か危ない世界に私を引きずり込もうとしてますよね!!」
「そんな態度も可愛いんだからちゃん」
「可愛く言わないでください!逆に恐怖です!!」
女性同士の攻防が続く。
危ない世界から逃れようとする。
そんな彼女を引きずり込もうとするお妙。
しかし、今現在のは風邪を引いて熱もある。
凄まじい力を持ったお妙に勝てるはずがない。
呆気なく両手を掴まれた。
「ウフフ・・・さぁ、綺麗になりましょ?」
「ひっ・・・ひぃいぃい!?」
お妙の唇がゆっくりと、に近づいてくる。
「誰か助けて!」と心の中でが叫んだ。
「姉上ー、居るんでしょ?さん、だいじょう、ぶ」
「おーい、。大丈夫かぁ〜?銀さんお見舞いに来た・・・ぞ」
途端、障子が開いた。
現れたのは新八と銀時・・・しかし、部屋の光景に2人とも言葉が止まった。
そして――――――。
「おぃいいぃい何してんだおめぇのねーちゃん!!」
「姉上なんてことしてんだアンタはぁぁあああ!!」
すかさず2人を引き離した。
銀時はを抱きしめお妙から引き離し、新八はお妙をから引き離した。
「新ちゃん、イイトコよ。邪魔しないで」
「イイトコじゃないですよ!!何しようとしてんだアンタは」
「何って・・・秘密の花園に行こうとしてただけじゃない」
「完全に危ない世界にさん連れて行こうとしてたんじゃないですか!!」
新八、来て早々お妙をお説教。
「おーい・・・何でもいいから、とりあえずねーちゃん連れて頭冷やして来いや」
「すいません、銀さん。ホラ、行きますよ姉上」
「え〜・・・イイトコだったのに」
「頭冷やしてください」
銀時の言葉に、新八はお妙の背中を押し部屋を出て行く。
二人が出て行き、銀時はため息を零し腕の中に収めたを見る。
彼女は恐怖のあまり震えている。
「おい、大丈夫か?」
「こ、怖かった・・・で、です」
あと少し遅かったら確実に、は危ない世界に引きずり込まれていたに違いない。
「間一髪だったな」と銀時は口には出さず、心の中で呟いた。
「ほぉ〜ら・・・もう大丈夫だって。銀さん来てっから大丈夫だよ」
まるで幼い子供をあやす様に、銀時は恐怖で震えているを抱きしめ
優しく言葉を投げかけながら背中をさする。
すると、安心し始めたのか徐々にの震えが治まっていく。
ようやく震えが治まり、銀時はの頬を包みおでこをつける。
「危なかったな」
「怖かった、です銀さん」
「熱、やっぱ上がった?」
「・・・多分」
は銀時の問いに曖昧に答える。
「多分じゃねぇだろ。熱いってーの」
「抵抗してたので・・・熱、上がった、かも・・・です」
「だろうな」
そう言いながら、銀時は怯えていたの目に溜まった涙をキスで拭う。
「着替えるか?服やべぇぞお前」
「・・・はぃ」
銀時の言葉には逆らわないのか、は素直に返事をする。
「服は、タンスの・・・」とが指を差すと銀時は立ち上がりその方向へと行き
引き出しを開け、代えの服を取り出し元居た場所に戻る。
服を持って戻ると、は着替えようとするのか
帯に手を掛ける・・・も、中々解けない。熱のせいもあるのだろう。
「あーもう貸してみろ。俺がやってやっから」
「す、すいません銀さん」
そう言うと、銀時は帯に手をかけすぐさま解いた。
ふと、チラつく・・・の肌。
銀時、思わずそちらに目が行く。
「(いかんいかん・・・耐えろ、耐えるんだ俺)」
思わず誘惑に負けそうになるも、必死に理性を保とうとする銀時。
風邪で弱っている人間を襲うほどそこまで酷くはない、と自分に言い聞かせ続けていた。
しかし、やはり目がに、そして彼女の体に行く。
熱で赤くなった頬と、潤みを帯びた唇。
衿からチラつく白い肌と、胸の谷間。
汗がつぅーと滴り落ち、聞こえてくる色香を含んだ吐息。
視線を合わせれば、とろけた眼差しが心を鷲掴みにしていく。
「(こらぁ、あの女もおかしくなるわけだわ)」
ようやく、お妙の異常行動が風邪を引いてしまったにあると気づいた銀時。
思わず深いため息が零れた。
「銀、さん?どうかしましたか?」
「いや・・・何でもねぇ」
そう言いながら、何とか平常心を保たせつつを見る銀時。
ふと、首を一筋の汗が滴る。
銀時はそれに手を伸ばし、優しく触れ拭う。
拭った手を離そうとした瞬間、がその手に触れた。
「?」
「銀さんの手・・・冷たくて・・・気持ちいいですね」
の(無自覚による)天使の微笑みが銀時に放たれた。
「(我慢・・・できねぇ!)」
放たれた微笑に、銀時の張りつめた糸が、切れた。
「っ!」
「銀さっ・・・きゃっ!?」
張りつめていた糸が切れ、銀時はを押し倒す。
布団の上に組み敷かれた。
もちろん、服の間からは白い肌が見え隠れ。
彼自身を追い詰め、煽るには充分すぎる材料が揃っていた。
「ぎ、銀さん・・・あ、あのぅ」
「なぁ、。風邪治すのに一番いい方法知ってっか?」
「え?いえ、知りません、けど」
「なら、教えてやるよ」
そっと、銀時はの耳元まで近づき―――――――。
「いっぱい汗かいて、気持ちイイことすんだよ」
「あの・・・そ、それって・・・」
「任せとけって。俺がたっぷり、看病してやっから」
そう言って、銀時はに始まりの口付けをするのだった。
風邪を引いたヤツが居たら、お見舞いに行きましょう
(そしたら、あ〜んなことやこ〜んなことが起こる、かも?)