「選ぶ相手、間違えてねぇか?」
「いえ、多分間違えてはないと思います」
「完全に間違えてんぞお前」
突然に「ちょっと付き合って下さい」と言われ
内心焦りながら付いて行き、ワケを聞くと
どうやら俺は万事屋のヤローの誕生日プレゼント選びに付き合わされる事になった。
前もって総悟から「いいですか?が誘ってきたら絶対断っちゃダメですぜぇ土方さん」と
総悟らしくない事を言ってきたから、何か俺を陥れる罠でも
仕掛けているのかと思ったのだが・・・どうやらその線は、アイツの誘いで無くなった。
(しかしその際総悟が不敵に、そして楽しそうに笑ってたのかが気になるところだ。)
隊服でそんな事をしていたら、一般人に何言われるか分かったもんじゃねぇ。
とりあえずお互い私服に着替えて街を歩く。
「つか、何で俺が万事屋の誕生日プレゼント選びに付き合わなきゃいけねぇんだよ。
本人呼んでこい本人」
「総悟にも言いましたけど、それじゃあびっくりさせる意味ないですから」
びっくりっつーか、テメェから誘われた俺がビックリだよ・・・と
言葉を返したかったが、何故ですか?なんて普通に返されるのがオチだから言うのをやめた。
俺にはコイツに知られちゃいけねぇ気持ちってもんがあるんだ。
側に居るだけでいい。
背中を護ってくれるだけでいい。
俺にはそれ以上の気持ちをにした時点でアウトだ。
いや、すでに持っているけれど・・・見せたらおしまいだと、自分自身に何度も言い聞かせている。
今、多分・・・こうやって、仕事以外で
肩を並べて歩くこと自体何だか嬉しくてたまんねぇんだよな。
「土方さんって、どういうのが好きですか?」
隣を歩くアイツの声に、俺はものの数秒足らずで―――――。
「はぁあ?愚問だぞお前。マヨネーズに決まってんだろ」
大好物のマヨネーズ、と即答した。
しかし、隣に居るアイツは呆れたような溜息を零しながら
俺に返した。
「いや、マヨ以外でお願いします」
完全に俺個人のことだったが、今は俺じゃなく
俺の一番大嫌いな奴の誕生日プレゼントを考えるために駆り出されたんだよな、と我に返った。
総悟もこれに付き合わされたんだろう。
付き合わされた上で、何で俺に白羽の矢を立てたのかが気になるところだが
多分、万事屋の奴と歳が近いだの何だのとに言ったに違いねぇ。
しかし、マヨネーズ以外俺は貰って嬉しいもんはない。
ああ、断言してもいいな・・・殆ど無い。
それこそマヨネーズをダンボールで10箱貰ったら
泣いて喜ぶところだ。
万事屋のヤローだって、多分甘いもんの一つや二つやりゃ
大抵喜ぶに決まってる・・・むしろ、があげりゃなんでも喜ぶだろう。
嫌でもその光景は目に入ってくるし、知っている。
知っていても、認めたくはねぇし・・・喜ぶ様なんて想像もしたかねぇ。
「何でもかんでもマヨネーズかけりゃいいってもんじゃないですよ?」
俺の先ほどの返答に、は説教モードに入った。
常日頃の俺のマヨラーっぷりにはアイツも呆れて物が言えない感じだった。
だからだろうか、此処ぞとばかりに俺を嗜める。
「いや、マヨネーズは何にでも合うんだよ」
「だからって、自分の体のこと考えて下さい。体壊されたら、私が困ります」
「お前」
隣で、んな事言うなよ。
しかも何だか物寂しげな感じで言われたら
言い返すにも言い返せない。
は「仕事上」で俺に体を壊されちゃ困るという意味で言ったんだろう。
だけど、お前は気付きやしない。
俺の気持ちにも・・・お前を想う気持ちにも。
その言葉が俺にはどう聞こえただなんて、死んでも言いたかねぇ。
ただ、一つ言えるのは・・・――何でお前はあんな奴-万事屋-を好きになっちまったんだよバカ、とだけだった。
「うーん・・・土方さんだったら、銀さんと歳が近いし参考になると思ったんだけどなぁ。
総悟のバカ。人選ミスすぎるわ。筋金入りのマヨラーに何聞いたって
ほしい物って言ったらマヨネーズダンボールで10箱とか言いそうだし」
「おい」
「空耳です聞き流して下さい」
「聞き流せるか!!丸聞こえだアホ!!」
完全に俺の欲しいモノと、個数が手に取るように理解され
何だか恥ずかしくなり反論をする。
だが、しかし・・・の言うとおり人選ミスだ。
ふと、思い出す。
「だ、だったら近藤さんに聞きゃいいだろ?」
「筋金入りのマヨラーの次はゴリラの筋金入りのストーカーですか?
あの、こっちは真剣に悩んでるんでもうちょっとまともな人選でお願いしますよ」
「筋金入りのストーカーと言えど、俺達の中で一番の経験豊富と言えば、近藤さんしか居ねぇだろうが。
俺や総悟に聞いてみてる段階でおめぇは間違ってんだよ」
「・・・確かに」
俺は煙草に火を点け、紫煙を吐き出しながらそう言う。
「近藤さんには俺から伝えておく。あの人もの事だったら力になってくれるだろうよ」
「おぉ!流石土方さんですね。じゃあ、近藤さんに伝えておいて下さいよ必ず!」
「はいはい」
「私、もう少し物色しますんで先に屯所に戻ってていいですからね」
「はいはい」
そう言って、は1人で何処かへと走り去っていった。
俺はもう一度煙草を吸い、紫煙を吐き出す。
「これでいいのか?」
「さっすがは土方さん。鬼の副長でもやりゃ出来るんですねぇ」
「舐めてんのかテメェは?」
歩いて、通り過ぎた電柱の陰から総悟が出てきた。
「ったく。俺で躓いたら近藤さんを紹介しろって・・・何がしてぇんだよ総悟」
総悟から、俺にアイツの誘いを断るなと言われたと同時に
もし自分で躓いたり、モノが決まらなかった時は近藤さんに白羽の矢を立てろ、という事を聞き
俺はそれを不本意ながら実行した。
「なーに、ちょっとしたクーデターでさァ」
「クーデター?」
すると、総悟は俺達が歩いてきた道を見てニヤリと笑う。
その道に何かあるのか?と思い見るも・・・何もない。
ただ、人達が通り過ぎる風景しかない。
「まぁ、とりあえず・・・土方さんが近藤さんにバトンタッチしてくれたお陰で
まだまだ楽しめそうでさァ」
「お前・・・何か遊んでねぇか?」
「んまぁ・・・当たらずとも遠からずって事でぇ。とにかく、土方さん。
近藤さんにアイツの事伝えといてくだせぇよ?その後はまた俺が近藤さんに一言添えるんで」
そう言いながら総悟が手を振りながら、反対方向へと歩いていく。
本当にあのガキゃ何がしてぇんだか分かんねぇよ。
総悟の次に俺が来て、その次に近藤さん。
一体何がしたいって言うんだか。
「・・・近藤さんの時に、見てみっか」
総悟が一体何を企んでいるのか、クーデターの意味が知りたくなり
俺はとにかく屯所に戻る道を歩き始めた。
知らぬ反乱に付き合わされた、鬼の心情は?
(俺の次は近藤さんって、どういう事だ?)