『最近、銀さん塞ぎこんでるけど・・・何かあったのかな?』
『知らないネ。パチンコで大負け続いてるせいじゃないアルか?』
『いや、そんな事されたら此処がどんだけ火の車になるか分かってる神楽ちゃん?』
朝。
布団から出るのも億劫だった。
むしろ部屋から、そして家から出るのすら億劫だった。
出てしまえばまた、が俺の知らん男と仲睦まじく
歩いている光景を目にしそうで怖かったのだ。
だったらもういっその事、引きこもっていたほうが無難に違いないと悟り
今現在俺は布団の中、毛布を被って蹲っていた。
『ホント、こんな状態で仕事の電話とか来たら』
――――――RRRRRR・・・!!
『電話ネ』
タイミングが良いのか、それとも悪いのか。
話をしている時に黒電話が部屋中に鳴り響いた。
『仕事だったら、神楽ちゃん・・・銀さんの布団剥ぎとってね』
『アイアイサー!』
居間でそんなやりとりをする新八と神楽の声を聞き入れるも
俺は布団の中から出ようとせず、ただ声に耳を傾けていた。
『はい万事屋です。あ、どうも。え?あぁ、銀さんなら居ますよ。ちょっと待っててくださいね』
電話を取った新八が、相手方と軽いやりとりをしたのも束の間
どうやら電話の主は俺と話したいらしい。
新八の足音が部屋に近づき―――――――。
「銀さん」
襖が開き、新八が俺を呼ぶ。
「銀さん、電話です」
「お腹痛くて動けませんって言っとけ」
安っぽい嘘だと新八もハナから分かっている。そんな嘘にアイツはため息を零し――――――。
「さんからですけど、切っていいんですか?」
「何だと!?」
電話の相手がだと新八の口から伝わり、俺は被っていた毛布を払いのけ飛び起きた。
「さんから電話です。忙しい中掛けてるんですから、出てください」
「お、おぅ」
新八の声に俺は布団から
部屋から出て机に置いてある黒電話の元に向かう。
受話器を取り上げ、耳に当てた。
「も、もしもし?」
『あ、銀さん。ご無沙汰しています・・・お元気ですか?』
「ま、まぁな」
電話元のは俺の声だと分かると
いつもの明るく可愛らしい声で返してくれた。
それを聞いただけで、何故だか胸にできている蟠(わだかま)りが解けていく。
『最近忙しくて、なかなかそちらにいけないから・・・』
「ま、まぁ・・・俺も元気だし、新八も神楽も元気だよ。お、おめぇこそ仕事し過ぎて
体壊すんじゃねぇぞ?嫁入り前の女の子の体は大事にしとかなきゃいけねぇからな?」
『ウフフ・・・そうですね。大事にしときます。銀さんも甘いモノ食べ過ぎないでくださいね』
「余計なお世話だよクソガキ」
『ウフフ・・・ごめんなさい』
おかしいくらい、話が弾んでいる。
電話元のは笑って俺の声に耳を傾けている。
もちろんそれは俺も同じようなもんだ。
あれだけ、酷いほど自分自身のメンタルをズタボロにされていたのに
の声を聞くだけで、壊れていたモノが癒やされていった。
単純に出来てる自分が本当に情けねぇ。
でも事実そうだ。
他の男と歩いている姿を見て1人でヘコんでいた。
奈落の底へと叩き落とされていた。
だけど、いざ俺はに優しくされたり、声をかけられたりするだけで
気持ちは舞い上がって、テンションも跳ね上がる。
「それでおめぇ・・・何でわざわざ電話なんか寄越した?」
気分も浮かれている中、わざわざ電話をしてきたに尋ねる。
『今、仕事が忙しくてもうしばらくの間はそちらにお邪魔出来ないことをお伝えしたくて』
「・・・あ、そ、そうか」
アレ?
なんだろうか。一瞬にして気分が落ちた。
ふと脳裏を過るのは肩を並べ歩いていた男達といるの姿。
仕事が忙しいも、俺の所に来れないのも・・・あいつらとの付き合いがあるからって事か?
そう考えたら・・・何だか気分が段々と落ち込んでいった。
だから・・・俺は、いっその事言葉にしようと思った。
「あのさ・・・お前」
『あ、はい、何でしょう銀さん?』
言えば、楽になれるかもしれない。
言えば、を苦しめることもないかもしれない。
何で俺以外の男と肩並べて歩いてたんだ・・・って、言えば・・・もう。
「悪ぃ・・・何でもねぇわ」
『あ、は、はい?』
お互いラクになれると思ったのに、言えなかった。
言っても嘘をつかれるのは明白だ。
女は嘘を付くのが上手い生き物・・・なら余計、綺麗な言葉を並べて
俺を納得させるに違ぇねぇ。
事実を知ってて、嘘をつかれるのは少々今の俺には残酷すぎる。
メンタルはもう立ち直れないほどやられまくっているのだから。
『あと少ししたら仕事が一段落するんで、それが終わったらお伺いします』
「ああ」
『すいません銀さん。あの、新八に代わってもらえますか?ちょっと話したいことがあるんで』
「新八に?」
の言葉を聞いて、俺は受話器を耳から離し、新八を見た。
「・・・おめぇと話したいことがあるんだと」
「え?ああ、はい。もしもし、代わりました」
新八に受話器を渡し、俺はフラフラと部屋に戻り、再び布団の中に潜った。
の仕事が一段落したらウチに来る。
多分、その時にでも「別れて欲しい」って話を切り出されるはずだ。
いっその事、陽が昇り朝が来なければいいと思う。
こんな辛い毎日送るくらいなら・・・ずっと夜だけが続けばいいように思えてくる。
から別れを切り出されるくらいなら・・・・・・――――――。
「朝なんて、来なきゃいいんだよ・・・コノヤロー・・・ッ」
そう呟いて、みっともなく・・・枕が濡れていった。
明日なんて来なきゃいいと、最近思う
(だって、もうつらい思いはしたかねぇんだ)