「うん。善は急げって言うしね」




近藤さんと別れた後、私はすぐさま屯所に戻って
電話機の前に立っていた。

新八に誕生日プレゼント選びで付き合ってもらうのを頼むがてら
銀さんの声も聞いておこうとういう、見え透いた魂胆だ。







「銀さん、元気にしてるかなぁ?」





最近、万事屋に行っていないことに気づく。
もちろん仕事も忙しいけれど、一番は誕生日プレゼント選びで忙しい。

おかげさまで今回も相変わらず銀さんの口から
「だーかーら!!お前は仕事と俺!!どっちが大事なんだよ!!」って
文句をグダグダ言われるに違いない。







「ま、いっか」





苦笑を浮かべながら私は受話器を取り、万事屋の番号を押す。



通話中の音が耳に鳴り響く。







―――――――PRRRRR・・・ガチャッ!







『はい、万事屋です』



「新八?私だけど」








繋がる音が聞こえた途端、電話に出たのは新八だった。
いつもなら銀さんがいの一番に出るはずなのに、と思っていた。








『あ、どうも』



「あのね、銀さん・・・居るかな?」






もしかしたら、銀さんは仕事で出ていて
新八や神楽はお留守番をしているのかもしれないと思って尋ねてみた。








『あぁ、銀さんなら居ますよ。ちょっと待っててくださいね』







そう言うと新八は一旦受話器を多分机の上に置いて
銀さんを呼びに行った模様。

つまり、部屋の主は部屋の何処かに居る・・・ということになる。


しばらく無言状態が続いて―――――――。







『も、もしもし?』




「あ、銀さん。ご無沙汰しています・・・お元気ですか?」




『ま、まぁな』








電話に出た銀さんは少しよそよそしくも、私の声に答えてくれた。
やっぱりあんまり顔を見せていないせいなのだろうか?なんて思ってしまった。







「最近忙しくて、なかなかそちらにいけないから・・・」



『ま、まぁ・・・俺も元気だし、新八も神楽も元気だよ。お、おめぇこそ仕事し過ぎて
体壊すんじゃねぇぞ?嫁入り前の女の子の体は大事にしとかなきゃいけねぇからな?』



「ウフフ・・・そうですね。大事にしときます。銀さんも甘いモノ食べ過ぎないでくださいね」



『余計なお世話だよクソガキ』



「ウフフ・・・ごめんなさい」







よそよそしく始まった会話だけれど、話してみたら
案外いつも通りの銀さんで内心ホッとしていた。

むしろ、いつもの駄々っ子が出てこないからびっくりはしている。









『それでおめぇ・・・何でわざわざ電話なんか寄越した?』







突然の銀さんの質問に、私は何とか良い答えを頭の中から引っ張りだす。
誕生日プレゼントの事をほのめかしてしまえば、びっくりさせる意味がなくなる。

此処は駄々をこねられる前提で――――――。







「今、仕事が忙しくてもうしばらくの間はそちらにお邪魔出来ないことをお伝えしたくて」




『・・・あ、そ、そうか』







アレ?



おかしいと思った。

いつもなら「えー!!」とか駄々っ子大人が出てくるはずなのに
どうしてだろうか・・・反応が薄い。

私、何か気に障るようなこと言っただろうか?









『あのさ・・・お前』


「あ、はい、何でしょう銀さん?」






ふと、銀さんに呼ばれ返事をする。
しかし電話元の銀さんは突然黙り込んだ。








『悪ぃ・・・何でもねぇわ』


「あ、は、はい?」







言葉が途切れ、会話が無くなった。

やっぱりなんだろうか・・・気に障るような事を言ってしまったに違いない。
でも私が「すいません」とか謝ったところで
銀さんは「は?何のこと?」なんて返すことだって考えられる。



だから、できるだけ・・・―――――。







「あと少ししたら仕事が一段落するんで、それが終わったらお伺いします」



『ああ』






早くプレゼントを見つけて会いに行かなきゃ。







「すいません銀さん。あの、新八に代わってもらえますか?ちょっと話したいことがあるんで」



『新八に?』




新八に代わってもらうよう促すと、電話元からやりとりが聞こえてくる。







『もしもし、代わりました』



「あのさ、新八。ちょっと予定空いた日でいいから・・・買い物に付き合って欲しいんだけど」



『え?僕が、ですか?』





電話元の新八に私は事情を話す。





「ほら、もうすぐ銀さん誕生日でしょ?何贈ったらいいのか、分からなくて。
銀さんの身近にいる男っていったら、新八くらいしかいないから」


『いいんですか?僕なんかで?』


「銀さんをびっくりさせたいの。ね?お願い」


『まぁ、僕が何かお役に立てるのでしたら喜んで』


「ありがとう。じゃあ日は追って連絡するわ」


『分かりました。ではまた』


「うん。あ、銀さんには内緒にね・・・びっくりさせたいから」


『了解です』






そう言って、通話を切断した。








「あと、5日・・・何かいいの、見つかればいいなぁ」







大好きな人の産まれた日まであと5日。

それまでに、何かいいのが・・・見つかることを願うしかなかった。




電話の裏側の話。

(でも、あんなことになるなんて思いもしなかった) inserted by FC2 system

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