「おめぇとはもう・・・付き合いきれねぇよ」
「え?」
「ち、違うんです銀さんコレには」
「何が違うって言うんだよ。嘘ばっかつくんじゃねぇ」
もう我慢の限界だった。
家に引きこもってばかりいた俺は外に出た。
居間に珍しく忙しく動く新八の姿がなく、神楽に訊ねた所
「出掛ける」と行って居なくなったらしい。
ウルサイ小姑が居なくて、多少なりと気分も良かった。
何かと布団から出てこない俺にうるさく出ろと言い続けていたのだから。
だが、外をフラフラして・・・俺は見てしまった。
と新八が一緒に歩いているところを。
しかも新八のヤローはスーパーの袋なんか持っていた。
完全に料理の出来る2人が台所に立って、仲睦まじく料理をする様が目に浮かんだ。
なんて言うか、もう我慢の限界だった。
アレだけヘコみにヘコんだ。
の幸せを願うつもりで、何も言わず手を引いたつもりだった。
だけど、新八と歩くを見た途端・・・底知れぬ怒りだけが溢れ出てきた。
「さぁ・・・お前、俺って言う男が居ながら案外尻軽な女だったわけ?」
「ぎ、銀さん・・・何言ってるんですか?」
「とぼけんなって。俺が知らないとでも思ってんの?何もかもお見通しだって」
最初から俺は一人で舞い上がってただけだった。
を好きな気持も。
を独り占めする気持ちも。
に対する気持ち全部。
俺一人だけが思っていたことで
目の前の女はこれっぽっちも俺の気持ちになんて気づいちゃくれてなかった。
「男を取っ替え引っ替えにしてさぁ・・・何処の風俗嬢ですか?俺もその中の一人ってわけだろ?」
「そ、そんな・・・銀さん」
「銀さん!さんはそんな人じゃ」
「黙ってろ新八。テメェの出る幕じゃねぇ・・・口挟むな」
「・・・っ」
新八が口を挟んでくるのも俺はひと睨みで片付けた。
黙る新八の横に立つを見る。
血の気の引いた、真っ青な表情・・・絶望に満ちた、あの顔。
「俺を手のひらで転がして遊ぶ気持ちはどうだったよ?さぞ楽しかっただろ?」
「ち、違う・・・私、そんなんじゃ」
「はぁ?今更何言ってんのおめぇ。違う男と歩いといてそういう事言う?
彼氏が居るってーのに、違う男と歩いてたら浮気と変わりねぇよ」
は顔を伏せて、俺の言葉を受け止める。
信じてたんだ・・・の事、心底。
だってコイツはいつも俺だけを見ているとばかり思っていた。
だから俺も、ばかりを見ていた。
他の女も目に入らないくらい・・・惚れ込んでいた。
大好きだった。
滅多に出さない愛情だって・・・には与えてやっていた。
他人の目にも分かるくらい・・・に溺れていた。
誰に何言われようが、コイツへの想いは死んでも貫き通す覚悟で居た。
それなのに・・・それなのによぉ――――――。
「おめぇも、結局は俺を捨てるんだな」
知らん間に、愛情も何もかも手放された幼い頃。
結局はも・・・面倒になったんだ。俺が、俺という存在が。
「銀、さん・・・違う、違います・・・っ」
は顔を伏せ、その顔を手で覆い隠し首を横に振り
何度も「違う」と俺に訴える。
だけど、その言葉も俺の耳には入ってこない。
「言い訳は・・・聞きたかねぇ。金輪際、俺の前に現れんな」
「っ!!」
「じゃあな、末永くお幸せに」
そう言って踵を返し、俺は二人の前から去った。
もう、顔も見たくねぇ。
言い訳も、聞きたかねぇ。
全部・・・全部、は裏切っていった。
後ろから俺を呼び止める新八の声が聞こえるけれど
そんな声を聞き流すかのように俺は体を動かした。
重くて、ダルい。
今までもこんなことあっただろけれど
多分今が一番重いし、ダルい。
言いたいこと言って、スッキリしたはずなのに。
これでを俺の束縛から解放してやったはずなのに。
「ちくしょう・・・イテェな」
胸が痛んで、軋むのは何故だろうか?
間違ったこと言ったつもりはない。
此処数日のの様子を見て、俺は言ったまでの事。
だから、間違ってはいないはず。
それだというのに、胸は痛んで、ギスギスとした軋みが聞こえる。
胸を何度も叩いてそれを止ませようと試みるも
痛みは消えず、軋む音は周囲に聞こえてしまうかもしれないと思う程。
きっと、この痛みも、この軋みも
今までのへの酷い愛情が俺に返って来たに違いないだろう。
そう考えたら・・・はこんなに無理をしていたのかと思うと
更に胸は締め付けられた。
「コレで・・・いいんだよな」
愛情を失う前に、自分から手放してしまえばいい。
見捨てられ、捨てられる前に、自分から捨ててしまえばいい。
そうすればきっと、幼い頃に受けた想いもせずに済む。
だけど、何故だろうか・・・?
「ホントさぁ・・・コレ、イテェよ」
自分から全部手放して、スッキリするはずなのに胸の痛みは消えなかった。
「おい、いいのかよこういう展開」
「あちゃー・・・ちとやりすぎたでさァ」
「いや、やりすぎどころかドSメンタル死んでるって」
手放して、ラクになれたはずなのに。
(おかしいねぇ・・・胸が痛んで、軋むのは何故だろうな?)