『神楽ちゃん、静かにね』
『分かってるヨー・・・アーレー・・・ダビットソン!!』
『言ってる側から大きな音立てんな!!』
朝。
居間から騒々しい音が聞こえていた。
せっかく昼まで寝てやろうと思っていたのに
ガキ共が相変わらず騒がしい音を立てるから頭が起きちまった。
二度寝するのも何だか寝るに寝れない感じだったから
俺は布団から起きて着替える。
とりあえず俺の睡眠を妨げたガキ共を一発頭にゲンコツを食らわせるところから
俺の日常を始めようとするか、などと考え
着替えを済ませ、布団を直し襖に手をかけた。
「くぉらぁぁあクソガキ共ぉぉ!!今何時だと思ってんだ!?俺の眠り妨げんなやボケェェエ!!」
「あっ、しまった!?」
「気づかれたネ!」
襖を勢いよく開け、ガキ共に罵声を浴びせる。
そんな俺の声と存在に気づいたのか新八や神楽は焦りの表情を見せた。
いつもだったらそんな表情をする2人じゃねぇはずなのに、と俺は思いながら
口を開こうとした。
「新八、神楽・・・すごい音したけど、何か・・・・・・あっ」
「・・・・・・」
口を開こうとした瞬間だった。
台所から小袖を着てエプロンをつけているが現れて、俺の顔を見るなり目を泳がせる。
一方の俺はというと胸の中が痛み出して、アイツから顔を逸らした。
「銀さん・・・あの」
「何しに来た?もうおめぇの顔は二度と見たかねぇって言っただろ」
「・・・・・・」
空気が一変した。
和気あいあいと新八と神楽にあーだこーだ、文句を垂れ流して
馬鹿笑いしあうはずだったのに、その場にが居ると分かった時点でそんな空気にすらならず
居間は冷たい空気に包まれた。
机の周りで動いていた新八や神楽は心配そうな面持ちで俺を見ている。
「なら・・・私、帰ります」
冷たい空気を切り裂くかのように、が身につけていたエプロンを脱ぎ
それをソファーの上に置いて、ゆっくりと部屋を出て行った。
「待つネ!」
「神楽ちゃん。ダメだよ追いかけちゃ」
「でも、でも・・・ッ」
神楽がに声を掛けるも、それをやめるよう新八が神楽を止めた。
多分新八も分かっているんだ・・・俺が居る前でそういう事をするな、と。
玄関の閉まる音がして、は俺の言うとおり・・・此処から去っていった。
「あーあ・・・ったく。おめぇら朝から何やってんの?銀さん最近疲れてんの分かってんだろ?
俺も歳なんだから老体は労れっつーの」
の事を口に出さず、俺は頭を掻きながら台所にと足を進める。
その間、新八と神楽は何も言わず俺に視線だけを向ける。
何も間違ったことしちゃいねぇ・・・ああ、そうさ、これでいいんだ。
最低、と罵られようが・・・俺からしてみたらのほうが最低なことをしていたのだから
これでおあいこなんだよ。
何も間違っていない。
これで、いいんだ・・・お互いのためにも・・・これで。
「え?」
台所に足を進めた時だった。
空いてるスペースに置いてあった、白くて大きなモノが目に飛び込んでくる。
段々と近づくとそれがケーキだと分かり・・・その横には――――――。
銀さんお誕生日おめでとう、とチョコレートで文字が書かれた板チョコがあった。
「それ、さんが作ってたんです」
「銀ちゃん、今日誕生日だからって・・・、朝早くから来てそれ作ってたヨ」
後ろから新八と神楽の声が聞こえてくる。
ケーキの周りを見ると生クリームの入った絞り袋やら
ボールの中に入ったフルーツやらが置き去りにされていた。
つまり、まだデコレーション途中。
「さん・・・銀さんの誕生日にプレゼント何あげるか迷ってたみたいなんです。
他の人達にも一緒に考えてもらっていたらしいんですよ」
「え?・・・じゃ、じゃあ・・・は」
待て。
じゃあ、が俺以外の男と歩いていたのって
この日のために、プレゼントを何やるか考えるために・・・そうしてたってワケ?
「さんが浮気なんてするわけないでしょ?」
「には銀ちゃんしか見えてないネ。他の男好きになってたら、銀ちゃんとっくの昔に捨てられてるヨ」
「僕と一緒に居た日も、銀さんにケーキ作ってあげましょうって決まって材料を買いに行ってた途中だったんです」
つまり、今までのこと全部完全に俺の勘違い。
はこの日のためにアレコレ考えていた。
それは多分俺の喜ぶ顔が見たかったから。
そんなことも忘れて、俺は一人落ち込んで
挙句を酷いまでに傷つけた。
ちゃんと、あの時・・・の声に耳を傾けてさえいれば・・・こんなことには。
「銀さん!?」
「銀ちゃん!?」
そう思ったら体が勝手に動いて、玄関まで走り、裸足のまま扉を開けた。
出て行ったを追いかけよう・・・追いかけて引き止めたら、きっときっと――――――。
「帰ったんじゃねぇのかよ、アホ」
「・・・っ、だ、だって・・・っ」
まだ、間に合うって・・・誰かが言った。
扉を開けたら、壁に背をやり膝を立て泣いているが居た。
帰ったとばかり思っていたのに、追いかけずには済んだみたいだった。
声をかけたら、ひでぇ泣きっ面が俺を見上げる。
俺は膝を曲げて、と目線を合わせるも
彼女の目の前で腰を下ろし、顔を伏せた。
「ヒデェこと言ったよな俺」
「ぇ?」
「その・・・おめぇが、色んな男と歩いてるの見たら浮気とか思っててさ。
尻軽女とか、言って・・・の事傷つけちまったな」
「銀、さん」
「ケーキ・・・すっげぇ嬉しかった。つーか、作りかけのまんまで帰んなよ。
ちゃんと最後まで作ってから帰れや。だから・・・あの・・・さ」
言え。
言うんだ俺。
言えばきっと、目の前の女は――――――。
「ごめんな、」
きっと、俺のもとに戻ってきてくれるよな?
「もう怒ってませんか?」
言葉に一つ頷く。
「もう私を信用してないとか言いませんか?」
その言葉にも一つ頷く。
「じゃあ、中に入って・・・銀さんの誕生日パーティ始めましょうか」
「・・・ッ」
ちゃんと言えば、ちゃんと聞けば、ちゃんと話せば・・・分かってくれる。
そうだ!俺の可愛い年下彼女はそんな子だ!!
俺は立ち上がり、に手を差し出す。
するとアイツは嬉しそうな顔を浮かべ、その手を握り返してくれた。
を立ち上がらせ、そのまま自分のもとに引き寄せ
家の中に入る。
「うぉーい・・・銀さん、チャン連れてお戻りだぞぉー!出迎えくらいねぇのかガキ共ー」
「はいはい今行きますよ」
「銀ちゃんの誕生日だからナー・・・仕方ないネ」
玄関先から声を上げると、新八と神楽は渋々出迎えに来た。
2人揃って上がり、居間に戻ると机の上に豪華な料理が並んでいた。
「ホント・・・さんみたいな良い人の事誤解してどーするんですか」
「こーんな豪華な料理を作ってくれる彼女が居ること、銀ちゃん誇りに思うヨロシ!!」
「朝早くから此処に来て準備してたんです。仲違いしてたし、起きる前に全部仕上げて帰っちゃえば問題ないかなぁって思って」
「」
ああ、ホント俺って先走るよな。
ちゃんと話聞いといてやったら良かったんだよな。
が俺以外の人間好きになるわけねぇんだよ。
こんなに俺・・・コイツから好かれてんだから。
今度からは自分の行動を改めるようにしよう、と思った。
「銀さん」
「あ?」
すると、が俺を見上げる。
「産まれてきてくれて、ありがとうございます。貴方が居てくれたから、私が生きていれる。
貴方が居るから、私が居る・・・貴方の存在は、私の生きる希望です」
「っ・・・・・・ッ!!」
の言葉が嬉しくなり、俺はを思いっきり抱きしめた。
捨てられちまったけど・・・俺は生きててよかったんだ。
大切な仲間が居て、大切な女がいる。
捨てられても自分が少しずつ拾ってきたものが
こうやって分かるようになったから・・・それで、いいんだよなきっと。
「ちょっ、ぎ、銀さん・・・ッ!?新八や神楽も、い、居ますから!!は、離れて下さい・・・っ!!」
「もーチャン可愛すぎて銀さんまた惚れちゃうでしょ!どーすんの?どーしてくれんの?!」
「まぁまぁ銀さんとりあえずさんから離れて」
「ケーキ皆で食べ・・・アッ!」
ベチャッ!
神楽が台所からケーキを持ってくるまでは良かったはずなのに―――――。
「神楽ぁぁあぁあ何してんだおめぇぇえぇえ!!」
「神楽ちゃんんんんちょっせっかくのケーキをぉおぉおお」
何もないところであのガキは躓いて、に全部ぶち当たった。
おかげでは頭からケーキを被った形になり、全身クリームまみれ。
「あ、あ、・・・、ゴメンな。神楽がせっかくが作ってくれた俺のケーキを台無しにして。
しかもお前にぶちまけるとか、有り得ないよな?!神楽ぁぁ!!に謝れ!!俺のに土下座しろ!!」
「プッ・・・アハハハハハ・・・!!」
『へ?』
すると、は大笑いを始める。
だけど何故だろうか・・・それがちゃんちゃらおかしくて・・・俺達もつられて、笑った。
改めて産まれてきてよかった、って思う。
こんなバカな奴らと出逢って、大切な女と出逢って・・・きっと俺は宇宙一幸せモンだな。
神様・・・ありがとうよ。
坂田さん!誕生日おめでとうございます!!
(改めて自分の産まれた日を感謝した日)