次の日、私は詳しいことを聞くためにアニエスさんのところに向かった。
すると――――――。
「丁度良かったわ。付いて来て」
「え?あ、あの・・・っ」
私が来ることをまるで予想してたかのような行動。
アニエスさんのところに着くなり
かの人は私の声も聞かず、自分のデスクから離れツカツカと歩き出す。
私が呆然と立っていると「さっさと来なさい。バーナビーがそろそろ出社してくる時間よ」と言われ
見つかってしまえば元も子もないと思い、私はアニエスさんのの後ろを着いて行く。
そして2人でエレベーターに乗り込む。
密室の空間で私は口を開いた。
「あ、あの・・・何処に?」
「昨日電話で話したでしょ?広告宣伝部の同僚のトコに行くのよ」
「え・・・あの、私でも・・・・そのモデルとか」
「給料弾んでくれるって言ってんのよ。良い話だと思わないの?」
「思いますけど・・・私、モデルとかそういうのしたことないです」
「素人でも化けるときは化けるの。は何だか化けそうな気がしてね」
意味が良く分からない。
コレは業界用語なのか?と考えたがそうではないと思う。
しかし「化ける」って・・・私は化け物扱いか?と思っていたが・・・まぁNEXTっていう
人種な時点でそれを考えたら負けである。
一般人からすれば、NEXTなんて皆化け物だ。
エレベーターが甲高い音を鳴らし、目的の階に着いたことを知らせる。
アニエスさんがヒールの高い靴を鳴らし歩く後ろで私がパタパタと歩く。
そして着いた先は【広告宣伝部】。
「シェーン!」
「アニエス!」
アニエスさんが声を上げると、こちらに振り向く女性。
椅子から立ち上がりすぐさま私達のほうへとやってきた。
見た目からして、確かにアニエスさんと同い年っぽい。
「、紹介するわ。私と同期のシェーン・コリーよ」
「は、初めまして。・です」
「初めまして。アポロンメディア広告宣伝部主任のシェーン・コリーです」
今、聞いて良いのかという単語を聞いた。
広告宣伝部主任って・・・え?・・・すごく偉い人?
主任って・・・アニエスさんとかでいう、プロデューサー?
え?・・・偉い人?
「どうかしらシェーン?」
「いいんじゃない。イメージとしてはこういう子探してた」
「、良かったわね合格よ」
「へ!?え?え??」
私が色々頭の中で考えていると、更に話が進んでいた。
え?合格?な、何が合格なの?!
「こういう驚きっぷり。やっぱりこの子いいわ・・・さんモデル決定」
「え?・・・えぇぇええ!?!?!」
何だか知らない間に、私モデルする羽目になってる!?
焦る私を他所に2人は話を進めている。
でも多分此処で拒否をしても
私には地道な作業が待ってる。此処は一発覚悟を決めて
お給料弾ませておくのも悪くはない。
吉と出るか凶と出るか・・・やってみるしかないだろう。
「相手役ブルーローズだったんだ。驚いた」
「私も相手役がだったなんて驚きよ」
それから2日後。
ちゃんモデルデビュー、というか撮影の日。
その日バニーに「どこか出掛けるんですか?」と聞かれた。
まぁそうですよね・・・休日で普段家に居ますから。と心の中でツッコミを入れつつ
私は「う、うんカリーナと遊ぶ約束」と言ってそそくさと出てきた。
この前みたいに付けてくる様子はなく
私はとりあえず警戒しながら撮影される場所にとやってきた。
スタジオ?の中に入ると色んな機材があって
いろんな人が準備をしていた。
其処に一際目立つオーラ・・・そう、カリーナ・・・いやブルーローズが立っていた。
しかも、いつもは結ばれているアイスブルーの髪を解かれたままで。
「ブルーローズが相手役なの?」
「そうみたい。コンセプトは天使と悪魔だってさ・・・アンタが天使で、私が悪魔なんだって」
「へぇ〜」
私がボケーッとしながらカリーナの話に耳を傾けていると
彼女は私の顔を見てきた。
「アンタ、何も聞かされてないの?」
「聞かされたのは2日前です。詳細は聞いてない」
「ユニバースって化粧品メーカーの新しいリップグロスの広告なのよ」
「名前くらいは知ってるでしょ?貴女達女の子なんだから」
「シェーンさん、アニエスさん!」
私たちの会話に、シェーンさんとアニエスさんが入ってきた。
「ユニバースって高いので有名じゃない。名前くらい知ってる。でも子供が手を出すような価格じゃないわ」
「う、うん。そんな大きなメーカーさんのモデルに私やブルーローズを起用していいんですか?
ユニバースって・・・どちらかといえば、大人の女性向けっぽい化粧品ですよね」
大手化粧品メーカー・ユニバース。
化粧品の質も高く、値段もそれなりにする。
デザインは誰もが惹きつくようなデザインをしているから欲しいとは思う。
しかし、その値段から私やカリーナと言った高校生が手を出すような化粧品ではない。
むしろどちらかといえば、アニエスさんやシェーンさんといった
大人の女性の人が手にするようなもの。
「今回は、お嬢さんたち向けの化粧品を販売することになったの。それが、これ。
”エンジェル・スマイル“と”デビル・グロス“。両方とも若者向けに作られたリップグロスよ。
価格も若い女の子が購入しやすいようにお手ごろにしていく予定なの」
シェーンさんが見せた化粧品に私とカリーナは―――――。
「いいんじゃない、こういうの。キャップとかのデザインも若者向けって感じで」
「うん、良いと思います!それに、雰囲気に合わせて2種類っていうのがいいよね」
「人によって使う方が選べたりするのはいいわね」
「そうそう。何か人の顔つきとかによってこういうの選びたいよね。思うようなのが中々ないからこういうのは
結構ウケが良いと思います」
「生の意見凄いわね」
「今時の若い子の意見も新鮮ね、こうすれば」
私とカリーナの会話に大人女性二人は唖然としていた。
いやいや、こういう会話は学校に行けば日常茶飯事。
下手したら彼氏の話とかもしちゃうから、当たり前すぎである。
「とりあえず、2人とも衣装とメイクしてきてもらえる?もうすぐ準備終わるから」
シェーンさんにそう言われて、カリーナと私はそれぞれの衣装とメイクに向かう。
どんな服を着るのだろうと不安な反面、コレがもしバニーにバレたりしたら
とか思ってしまった。
まぁ確実にバニーのことだから「君が他の人の目に映るのは僕が一番嫌いなことです。やめてくださいそういうの」って
絶対言ってきそう・・・むしろ言うでしょ、あの兎なら。
でも、もし・・・・綺麗になった私を見たらバニー、どんな反応をするんだろう。
そう思いながら私は着替えに向かった。
−10分後−
「あ・・・あのぉ〜コレは、あの・・・は、恥ずかしい」
「いいんじゃない別に。そういうの、可愛い可愛い」
「ブ、ブルーローズはパンツだからいいよ!私、ス、スカート・・・か、軽いんだよ!!」
「ジャンプしたら見えちゃうわね〜・・・って何それガーターベルトしてんの?!うわっエロッ!」
「貴女の着てる服のほうがよっぽどエロイよブルーローズさん、鏡見てから言って」
10分後、用意された服に着替えメイクを終えた私とカリーナ。
しかし、私は自分の着替えた服に驚愕。
なんというか・・・・・・軽いとしか言い用のないヒラヒラしたスカート。
胸のアンダーのあたりを軽く締め付けられて、無い胸強調されてます。
仕舞いには足・・・まさかの人生初、ガーターベルトなるものを付けられた。
もう何ていうか恥ずかしくて今にも死にそう。
「可愛いじゃない。まさに”天使“と”悪魔“って感じで」
「うん。私の目に狂いは無かったわね!」
アニエスさんは笑みを浮かべ、シェーンさんは勝ち誇ったかのような表情をしていた。
カリーナは普段から露出している服を着ているからいいけど
私はこういうの・・・慣れてないから恥ずかしいことこの上ない。
バニーに本気でこれは・・・バレたくない。
「どうしたの、?大丈夫よ、バレやしないって。茶髪のウィッグ付けてんだから」
「そ、そうだけどぉ〜」
「え?何?何か不都合なことでもあるの?」
私とカリーナの会話にシェーンさんが割り入ってくる。
「コイツの彼氏がちょっとですね」
「え?何?さん彼氏持ち?羨ましい」
「しかも、腹が立つほどの超イケメンと同棲してるのよ」
「イケメンと同棲!?ますます羨ましい!!」
「ブルーローズ、アニエスさん!!や、やめてくださいっ!!」
カリーナとアニエスさんがシェーンさんに私が彼氏持ちしかも同棲中と暴露し始めた。
やめてー!!やめて2人ともー!!と心の中で叫ぶも
まぁ二人がやめるわけが無い。
「え?ていうか、ブルーローズにアニエス・・・さんの彼氏知ってるの?」
むしろ2人がバニーの事を口に出すと――――――。
「知ってるも何も・・・何ていうか、腹が立ってるのはこっちだし」
「そうよ。何であんな男にが取られなきゃいけないのよ」
「さっさとあんな男、氷漬けにしてやりたいくらいだわ。考えただけで腹が立つ」
「出来たらの前でデレデレすんのやめてほしいのよねこっちとしても。イライラする。殴りたくなるわあの顔」
「同感です其処は」
「貴女もそう思っててくれて嬉しいわ」
「「あんのクソ兎」」
基本悪口しか出ません。
「へっくしゅっ!!」
「どうしたバニー・・・風邪か?」
「いえ、誰かが僕の噂でもしてるんでしょう・・・。あ、もしかしてかな?
そうだったら僕凄く幸せ者ですね」
「バニー・・・の事考えていちいちデレるな」
「僻みですか虎徹さん?」
「笑顔でいうな怖ぇよ」
「あ、今兎のくしゃみが聞こえた」
「私も聞こえたわ」
この2人・・・・どんだけバニーに恨みを持っているのか
時々分からなくなる。
「へぇ、じゃあ彼氏にバレると思ってヒヤヒヤしてんだ?」
「えぇ・・・まぁ」
「独占欲お強めなのね彼氏君」
「えぇ・・・まぁ」
独占欲というか、たまに束縛?
バニーが私に対する愛情は相当なものだから
こういう格好をして一目に出るというのが正直怖いところではある。
あれでバニーは本当に、独占欲の強い人だから
私は他の男の人の目に映ることすら嫌というときも、たまに。
「大丈夫よ。化粧してる姿は男には絶対分からないもんなんだから」
「だといいんですけど」
私のことに関しての勘は鋭いからなぁ・・・バニー。
『準備できましたー!モデルさんお願いしまーす』
「じゃあ頑張ってさん」
「えっ、あぁ・・・はぁ」
シェーンさんに背中を押され私は、こけそうになる体を必死で堪え
カメラの前に行く。
もちろん隣には、ブルーローズ。
私は緊張した面持ちで彼女を見た。
視線を感じたのかブルーローズは私のほうを見てため息を零す。
「緊張しすぎ」
「は、初めてなんだもん」
「まぁ仕方ないわよね素人だし」
私とブルーローズが話していると、カメラマンの人が「表情こっちにお願いしまーす」との声に
彼女は向いたが・・・私は恥ずかしくて向けない。
「ブルーローズはいいけど・・・・・隣の、えーっと・・・名前は何ていうんですかね?」
「エンジェルで良いわよ。衣装にもぴったりだし」
「ア、アニエスさん!?」
「じゃあエンジェルで」
アニエスさんの声に私の名前が勝手に”エンジェル“とかになってる。
慌てて訂正しようとするも、衣装とかモデルとかのあまりにも
恥ずかしすぎてそんなことを訂正する余裕もない。
「エンジェル・・・もうちょっと表情柔らかくできない?」
「そ、そう言われても・・・っ」
「あー、ちょっと待っててください」
「ブルーローズ」
私が言われた注文に焦っていると、隣でブルーローズが待ったの声を
掛けて私の方へと向いた。
彼女の表情はちょっと怒っていた。
「ご、ごめん」
「素人だから仕方ないわ。でも厳しいこと言うけど仕事なのしっかりして・・・お金貰うんだから」
「はい」
きつい事を言われた。
恥ずかしいだ、なんだ言ってる場合じゃない。
これはちゃんとしたお仕事、お金貰ってるんだからそれなりに働いてみせないと。
見合った報酬なんて、貰えるはずがない。
「カメラの隣に」
「え?」
「カメラの隣にバーナビーが居ると思って笑いなさいよ。アイツが笑ってカメラの隣に立ってるって」
「カリーナ」
「今はその名前で呼ばないで」
「ご、ごめんなさい」
カメラの隣に、バニーが立ってる。
バニーが笑って、カメラの隣に立っていると思う。
「そうすると、自然と笑える。好きな人とか気を紛らわせるものを考えるだけで楽に出来るのよ」
「・・・・・・・・・」
「出来る?」
「何となく」
「其処はうんって答えなさいよ。まったくアンタを相手役に抜擢したアニエスさん恨むわよ」
彼女の言葉に私は笑った。
でも大分それで気が紛れた。
「大丈夫?」の声に、ブルーローズも私も息のあった返事を返す。
眩い照明と、たくさんの見守る人。
黒いレンズに映るのは天使と悪魔の女の子。
カメラの隣に、大好きな人思い浮かべて微笑めば・・・それはきっと。
私の笑顔を天使の微笑へと変えてくれる。
「お疲れ様。撮影良かったよ」
「は、初めてでなんか・・・あ、ありがとうございます」
撮影を無事に終え私はシェーンさんにお礼を言う。
お礼のために下げていた頭を上げると、茶色い封筒が目の前に出てきた。
「え?」
「お給料よ受け取って」
シェーンさんの手にあったのはお給料の入った茶封筒。
私がそれを受け取ると、何か・・・今までに感じたことのない重みを感じる。
失礼だと思うがその場で封を中を見ると。
「!?・・・えっ、こ、こんなにたくさん・・・っ」
「これでも普通なほうよ。アナタは素人さんだからね、プロならその倍は振り込むわ」
今までのお手伝いとは比べ物にならない金額が入っていた。
素人だし、少ないことを予想していたが
自分の予想とは裏腹な金額が入っていたため、私本人驚いている。
「よかったわね、。これで誕生日プレゼントは買えそう?」
「う、うん。あとちょっと頑張れば・・・買えるよ。ブルーローズ、アニエスさん、シェーンさんありがとうございました!」
私は自分の今一番の気持ちをこめたお辞儀をした。
あと少し、今まで貰った分とあわせたら・・・きっと、きっと彼にあのネックレスを買ってあげれる。
バニーの喜ぶ顔が・・・喜んでくれる顔が見れる。
そう思っただけで胸が弾んで、あと少しアルバイトを頑張ろうという気持ちになった。
Many a little makes a mickle.
(”ちりも積もれば山となる“コツコツ貯めて、あと少し彼のために頑張ってみようと思った)