「お!アレ見てみろよ、ブルーローズじゃね?」
取材の移動中。
虎徹さんがビルの上に飾ってある化粧品の広告看板を指差した。
横目でチラッと見ると
其処には確かに髪型を少し変えたブルーローズさんの姿。
「よく分かりましたね虎徹さん」
「何かやたらブルーローズのヤツが俺に化粧品のモデルするって自慢しててよ。
メーカーの名前も覚えやすかったし。しっかしでっけぇな・・・あの看板」
「そうですね。あの化粧品会社は大手ですし、アポロンの広告宣伝部が担当しているという話を聞きました」
「まぁアポロンメディアはこういう広告関係にも精通してる会社だからな。規模も看板もでかくて当たり前か」
信号で車が停車。
運転席の窓からその看板を見る。
「虎徹さん」
「どうしたバニー?」
「ブルーローズさんと映ってる隣の女の子、誰なんですかね?」
「あぁ?」
僕が気になったのは其処だ。
ブルーローズさんの隣に映る、白い服を着た女の子。
あの子は一体誰なんだ?
「俺が知るかよ」
「彼女から何か聞いてないんですか?」
「いや。ていうか、珍しいなバニー」
「何がですか?」
信号機が青に変わり車を発進させる。
虎徹さんに珍しいと問いかけられ、僕はすぐさま返した。
一体、その発言の何処が珍しいというんだ?
「お前が以外の女の子に興味を持ってんの」
「え?」
そういえば・・・確かに。
いや、確かにって言葉は悪いな。
僕はため息を零して虎徹さんを見る。
「言っときますけど、浮気じゃないですよ」
「そこは否定するんだなお前」
「ただあの看板に映っている子がどこか見たことのあるような顔で」
気になった。
ただの興味、本気で好きになるとかありえない・・・以外の女の子を好きになるなんて。
僕にはがいれば良い・・・僕にはがいれば十分。
でも何故だかあの看板に映る女の子がどことなくに似ているような気がした。
だけど遠目からじゃよく分からない。
もっと近くで見なきゃ・・・どうすれば、どうすれば?
「だったらトレーニングルーム行くか?どうせ皆集まってるだろ?ブルーローズに
直接聞けば何か分かるんじゃね?」
「そうですね」
そう言われ僕はハンドルを切り、アクセルを踏んで
トレーニングルームへと車を走らせるのだった。
「よぉ!」
「お疲れ様です皆さん」
「タ、タタタタタイガー!?」
「タイガー、見てみてこの雑誌!」
「ブルーローズ、綺麗と思わない?」
トレーニングルームに着くや否や、ドラゴンキッドとファイヤーエンブレムさんが
ブルーローズさんの載った雑誌を虎徹さんに見せてきた。
僕は彼の隣でその雑誌を見る。
「ん?・・・お、良い感じじゃねぇの?」
「ほ、ホント?ホントに、良い感じ?」
「あぁ。なぁバニー、お前も見てみろよ」
そう言って虎徹さんは僕に雑誌を渡してきた。
僕はどちらかといえば、ブルーローズさんの悪魔の服装よりも
その隣の・・・天使の服を着た女の子の方をじっと見つめてた。
そして胸に感じる、この違和感。
メガネを掛けているが雑誌と目を近づける。
「お、おいバニー?」
「何やってんのよハンサム?」
「・・・・・・・ブルーローズさん」
「な、何よ」
そしてしばらくして僕は雑誌から目線を離し、彼女を見た。
「この天使のモデルの子・・・誰ですか?」
「え?!・・・えーっと・・・そ、それは・・・し、新人よ。新人のモデル、エンジェルって名前なの」
「エンジェル・・・」
天使だから、エンジェルか。
それとも、天使の格好をさせたからエンジェルか。
まぁどちらにせよ――――――。
「僕、ちょっと会社に戻りますね」
「え?バ、バニー?」
「な、何するのよ!!」
「アニエスさんに聞きたいことを思い出したので。すぐ戻ります」
「ちょっとバーナビー、待ちなさいよ!!」
ブルーローズさんの声も掻き消すように僕は駐車場に向かい
車を急発進させアポロンメディアへと戻るのだった。
「アイツ・・・勘付いたかしら」
「え?なになに?何かあるの?」
「ハンサムなんかちょっと怒りっぽい態度してたけど」
「おい、バニーどうしまったんだ?お前の雑誌見るなり」
「天使役の子にバーナビーは興味を持った、というか気づいたのよ。
あの化粧品の天使役をしたのが―――――」
バンッ!!!
「どういうことですか、コレは?」
アポロンメディアのとある部署の一室。
僕は其処に入るや否や、目的の人物の場所まで行き
机の上に雑誌を広げ叩き付けた。
「出動でもないのに何なの?」
「これはどういうことなのか聞いてるんですよアニエスさん」
そう、僕はアニエスさんのデスクにやってきた。
そして雑誌を叩きつけていた。天使の写真が移っているページの部分を広げて。
するとアニエスさんはそれと取ると、パラパラと捲り僕を見上げた。
「良く撮れてるでしょ、ブルーローズ。こういうのアンタもやれば
他の業者としては一発で名が挙がるんだけどね」
「話を逸らさないでください。僕が聞いてるのはそうじゃない。何で・・・なんで」
「此処にが映っているんですか。天使役として」
気づいたのは雑誌をじっと見つめていたときだった。
分からない違和感を感じ、興味を惹かれたのは
それがだと分かったからだと、気づいたときに知った。
良く目を凝らしてみれば、これがだなんて・・・分かるのは僕しか居ない。
メイクもして、茶色のウィッグもつけて、上手く変装させたようだが
生憎と毎日を見ていて、にしかときめかないこの心が波動を感じれば
どんな姿をしていようが僕にはその姿がだとすぐ分かる。
「どうしてにこんなことをさせたんです?あの子は一般人なんですよ!
これで変な男が付いたりでもしたらどうしてくれるんですか!!」
「チッ、やっぱりバレたか。良いじゃない別に減るもんじゃないんだから。
にだって社会勉強させるには良い機会でしょうが」
「だからって人目に付くようなことをさせなくてもよかったでしょう。
わざわざこんな手の込んだような真似をして・・・他の人の目は欺けても、を愛してる僕の目はごまかせません」
「怒りをぶつけにきたのか、惚気にきたのかどっちかにしなさいこのバカ兎が」
「とにかく、広告を全部撤去してください。こんなの僕は認めない」
認めたくない。
何でが僕以外の人の目に映らなきゃいけないんだ。
あの子は・・・あの子は僕以外の人の目に映っちゃダメなんだ。
眩しい、本当に写真のような・・・天使の女の子を。
この僕の瞳にだけ映っていれば、よかったのに・・・・っ。
「生憎と、シュテルンビルド全体にこの化粧品の広告はあるわ。それを今から
全撤去なんてバカなこと言わないで。こっちもビジネスでやってるのよ」
「一般人巻き込んどいて何がビジネスですか。やめてくださいそういうの」
「じゃあ・・・この映像見ても、そう言える?」
アニエスさんは腕時計を見つめ「もうそろそろね」といいながらテレビをつけた。
すると、テレビに電源が入り映像が流れる。
画面に映った映像に、僕は目を疑った。
<天使のような笑顔と悪魔のような微笑、君はどっちの唇で誘惑する?
ユニバース、エンジェルスマイル・デビルグロスまもなく解禁>
『天使の私を捕まえて』
『悪魔の私を捕らえてみなさい』
『『――もうすぐ貴女の唇が艶めく――』』
「よく撮れてるでしょ?広告だけじゃ人なんて手にしないわ。CM流さなきゃどんな物なのかは分からないものよ。
看板やチラシ、ウィンドウに飾ってある写真、それだけじゃお客なんて寄りもしない。
コアなお客だけが寄り付く・・・もっと大きく出したいなら、大きく出なきゃ損するだけよ」
立ち尽くしてしまった。
広告だけじゃなく、は・・・僕の知らないところで、外の世界に飛び出していた。
街を見渡す大きな看板、誰もが目にするコマーシャル。
僕の・・・僕のが・・・・。
「もう全撤去なんて手遅れなの、CMまで流したんだから。諦めなさいバーナビー」
「は見世物じゃないんです!!は僕の、僕のモノだ!!誰かの目に映って良いはずがない!!」
「駄々こねるのも大概にしなさいよ。あんたのモノ?そうね、はアンタの恋人よ。
だけどね、コレはビジネスなの。それを承知としてあの子は引き受けたの。ヒーローやってるあんた達だって同じでしょうが!」
「僕達とは違う!!どうして僕の了解もなしに彼女をあんな・・・あんな風に・・・っ」
どうして僕のが笑顔を振りまいているんだ?
なんで僕だけに見せていたあの笑顔を誰かのために振りまいているんだ?
あの笑顔も、あの声も、全部、の全部・・・僕だけのためにあるはずなのに。
「バーナビー・・・あのね」
「僕はこんなの絶対に認めません。が、僕以外の人の目に映るなんて・・・認めない」
「バーナビー!!」
そう言って僕は部屋を飛び出した。
エントランスを通り過ぎ、すぐさま外に出て走った。
走って、走って、走りつかれ・・・足を止めた。
顔を伏せ、壁に手を置いて呼吸を整える。
呼吸が整い、顔を上げると・・・横には。
「・・・・・・・・・・・・」
の映った看板。
『新人のモデル、エンジェルって名前なの』
僕はふと、ブルーローズさんの言葉を思い出した。
それは天使だから?
天使の役だから?
それとも・・・そのものが天使だから?
ふと、その壁に貼られたの絵を手で撫でる。
「・・・・・・何処にも、行かないで・・・・僕の側に、ずっとずっと・・・」
心に虚しさだけが募るばかり。
手の届く場所に居たはずの君が
本当に天使の羽を背中につけて、一気に僕から遠ざかってしまった。
The bird is flown.
(”後の祭り“気づいたら、何もかもが手遅れであの子は僕の元から飛び立っていた)