『見てよ、あのブルーローズ。超綺麗じゃない?グロスカッコいい〜』
『でも隣の女の子も可愛いよね。ホント天使って感じでさぁ』
トレーニングルームでカリーナと待ち合わせをしていた私は
其処に向かい、すぐさま合流して街を2人で歩いていた。
まぁ私がタイタンインダストリーに頼まれた仕事があるから引き受けに行くその途中でのこと。
通り過ぎていく同い年くらいの女の子たちが
ユニバースの看板を見てそんな言葉を言っていた。
私はあまりの恥ずかしさに下を向く。
「下を向かないの。顔上げなさいよ」
「だ、だって・・・っ」
隣を歩いているカリーナが顔を伏せていた私に
顔を上げるように促す。
しかし、私はやはり恥ずかしい。
「わ、私・・・あんな風に映ってたの?」
「指を差すな。気づかれたりしたらどうするのよ」
「ご、ごめん。で、でもぉ」
素人の私が、あんな大きな看板に写ってて
私だけど・・・そこに写っている自分は私じゃないような気がしてたまらない。
だから余計、緊張している。
いろんな人が看板、テレビ、雑誌で私の姿を見てると思うと
本当に恥ずかしくて仕方がないのだ。
「まぁは素人だから仕方ないのよね」
「う、うん。カリーナはもう慣れたようなもんだよね」
「当たり前でしょ?こういう業界に長く居るんだから、当然よ」
「ですよねー」
カリーナの言葉に私は納得。
確かに、素人の私からすればカリーナはブルーローズというヒーローの立場で
テレビに映るだけでなく、雑誌の仕事やインタビューなどなど、数え切れないほどの仕事をしている。
彼女の手伝いをしててそう思った。
「でも、アンタもああいう格好をすればバーナビーと同じところに居るようなモンになるのよ」
「え?」
「当たり前じゃない。あの看板でみんな騒いでるわ・・・白い服を着た美少女は誰だ?ってね」
「び、美少女ではないよ」
「でもメディアは気になってるわ。いいじゃない、このままモデル続ければ?
そうすれば、コソコソせず付き合えるし・・・その方がお互いのためにもいいんじゃないの?」
カリーナの言葉に私は立ち止まり、ビルの上にある私と彼女が写った看板を見る。
モデルを続ければ・・・バニーに負担をかけずに、付き合える。
バニーに迷惑をかけることなく、付き合える。
そうかもしれない・・・そうかもしれないけれど。
「?」
「確かに、私がエンジェルとしてモデルをやれば・・・バニーと同じ場所に行けるかもしれないし
その方がお互いのためにもいいとは思う」
「じゃあ」
「だけど、私は今のままでいいの」
「は?・・・私の話、聞いてた?何でそこでそういう結論が出るのよ?」
私の返答にカリーナは驚きながら言葉を返した。
「私はね、今のままが幸せなの。カリーナの言うとおり、私がモデルをやればバニーだけじゃない
カリーナやタイガーさんたちと同じ位置の世界に行くことが出来ると思うよ。だけどね
私は、今のままがいいの・・・今のままが、私にはとっても幸せだから」
「」
色々考えた。
あの華やかな世界に行けば、きっとバニーと同じ目線でいれそうな気がした。
だけど、もし私があの世界に飛び立ってしまえば
きっと・・・バニーとの距離が広まってしまうことを一番に恐れた。
私も、バニーも、お互いが必要であると感じあえる仲だから
離れてしまえば余計に・・・辛さが今以上に増していく。
今でこそ、私は寂しいとか思うこともあるけれど
それでもいい・・・彼が戻ってこれるところを私が作ってあげなければ。
「今でも寂しい思いはしてる。だけど、私があの家を離れてしまえば・・・バニーが帰ってくる場所がなくなっちゃう。
私があの部屋に居るから、バニーは帰ってこれるし安心できる場所だと思うの。だから・・・私はね
モデルやれて楽しかったよ。それだけは言える。でも本気でお仕事にしようなんて思わない。バニーの帰ってくる場所を
私が守っておかなきゃいけないから」
「アンタのバーナビーバカにも呆れるし、バーナビーのバカにも呆れる。
ホント、あんた達っておめでたいバカップルね」
「う、うるさいな!質問してきたのはカリーナでしょ!それに私は思うがまま答えただけなんだから」
私は顔を真っ赤にして、カリーナの背中を押した。
カリーナは押されて笑っていた。
でも、彼女に言った言葉は嘘ではない。
私は今のままで、あの部屋でバニーの帰りを待つ。
笑顔で迎えれば、必ず笑顔が返ってくる。
私は彼の笑顔を、守りたい・・・彼が私を守ってくれているように。
私は私で、バニーの戻ってくる場所を守りたい。
ビルの上の看板や、ウィンドウに写るもう1つの自分の姿に言い聞かせた。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい」
「あれ?バニー・・・早かったね」
「えぇ・・・まぁ」
マンションに帰ると、いつもは居ないバニーが其処に居た。
でも声からしてなんだか元気がない。
私はカバンを置いて、すぐさまバニーの元に駆け寄る。
「どうしたの?具合でも悪い?」
「いえ・・・そういうわけでは」
「じゃあどうしたの?言ってくれないと分からないよバニー」
「・・・・・・」
何も言わないまま黙り込むバニー。
今朝までは元気だったのに、一体彼に何があったというのだろうか?
「・・・なんで」
「ん?」
「何で、僕に何も言わないでモデルの仕事なんかやってたんですか」
「バニー・・・ど、何処で」
「トレーニングルームで、皆が読んでいた雑誌を見て。あのエンジェルとかいう子は、君なんですよね?」
突然のバニーの言葉に私の心臓は酷く高鳴った。
仕事がバレた。
いや、でもプレゼントを買うためにモデルの仕事を引き受けたなんて言えない。
「ひ、人違いだよバニー。素人の私がそんなことできるわけないって」
「アニエスさんは社会勉強と言ってました。アレは君なんですね」
アニエスさん、結局喋ったのか。
でも「社会勉強」と言葉を濁してくれたことは感謝しなきゃ。
プレゼントのためなんて、絶対に言えない。
「仮に、仮にそうだとしてもどうしてバニーに言わなきゃいけないの?
アニエスさんが社会勉強させてくれるって誘われたんだから、いいじゃない・・・私の自由だよ」
「それでも、何をするかとか言ってほしかったです。何で何も言わないでモデルの仕事なんか」
「い、いいじゃん。何をしようと私の勝手だよ・・・バニーには関係ない」
あっ。
私は思わず口に手を当てた。言葉を間違えた。
目の前のバニーを見ると苦しい表情をして私を見ていた。
今にも泣きそうな子供の顔。私にしか絶対に見せないその表情。
私は慌てて言葉の訂正に走る。
「バニーに関係ないとかそういうのじゃなくて、私はただね
社会勉強だから、そういうのはバニーに迷惑掛けたくないだけだし。私だって高校を卒業したら
仕事していかなきゃいけないから」
「ようするに、この部屋を出て行く準備をしてるんですよね」
「ち、違っ・・・バニー、そうじゃなくて」
「いいんですよ別に。がそうしたいのなら、僕は止めたりしませんから」
言葉を訂正しようとしたら、どんどん悪い方向にしか向かっていない。
バニーは私に背を向け話す、彼の口から零れ落ちる言葉が冷たく感じる。
本当は・・・本当は、そんなつもりでモデルの仕事したんじゃないって
アナタの誕生日プレゼントを買うために引き受けた仕事で、アナタが喜んでくれると思って、頑張っていることで・・・。
「が外の世界に行きたいのなら、それが君の望む未来なら僕は止めません。
やりたいのであれば、どうぞモデルだろうがなんだろうが好きにしてください・・・僕は止めたりしませんから」
何で、なんでそんな言い方するの?
本当のこと、本当のこと言いたいのに・・・・。
いつもなら、やめてほしいって・・・言うのに・・・なんで今日に限って。
やらないでって、やめてほしいって、言って欲しいのに・・・何で・・・何でなのバニー。
「もう僕は君のことには、一切干渉・・・」
私のほうに振り返ったバニーは目を見開かせ驚いていた。
驚いて当然だろう、私は・・・・・・泣いているのだから。
「・・・どうして、泣いて」
「なんで、そんなこと言うの。なんでいつもみたいにやめてって言わないの」
「それは君の事を考えて」
「全然考えてないよバニー!理由も知らないでそんなこと言わないで!」
「ッ!!」
本当のことを言えないもどかしさと、彼の言葉に傷つき私は泣きながら部屋を飛び出した。
私が飛び出したけどバニーは追いかけてくることはなかった。
やっぱり・・・同じ位置に、同じ目線に居ないからこうなる。
だけど、私がモデルのお仕事をしてしまうと・・・バニーが寂しい思いをする。
ただでさえ、忌まわしい過去が彼を孤独の道へと進ませていたから
私よりもバニーのほうがもっともっと辛い思いをしていたんだから・・・1人になんか出来ない。
こうなってしまったのなら仕方がない。
今更誕生日プレゼントを諦めて、仕事を放り出すなんて私には出来ない。
「とにかく、プレゼントは買わなきゃ」
こんな形になってしまったからにはもうどうすることもできない。
今更私が言葉を訂正したところで、やっぱりバニーと言い争いになるだけ。
あのプレートのネックレスを買うと決めたんだから、それまでは仕事はやらなきゃ。
だけど、どうやって・・・渡せばいいのか。
『が外の世界に行きたいのなら、それが君の望む未来なら僕は止めません。
やりたいのであれば、どうぞモデルだろうがなんだろうが好きにしてください・・・僕は止めたりしませんから』
ふと、思い出した言葉に涙が溢れてきた。
バニーの口からあんな言葉が零れるなんて思ってなかったから。
「ごめん・・・ごめんね、バニー・・・ッ」
ちゃんとしたこと言えなくてごめんなさい。
31日、必ずちゃんとした事言うから・・・ごめんね、ごめんねバニー。
心の中で彼に謝りながら、目からは大きな粒の涙を流して私は歩いた。
A word once out flies everywhere.
(”吐いた唾は飲めぬ“一度言ってしまった言葉を今更取り消すなんて出来ないことだった)