『バニー・・・何があった?、泣きながらウチに来たぞ』
「そうですか」
『そうですか、じゃねーよ。何があった?』
「虎徹さんには関係のないことです」
『あのなー』
がマンションを飛び出して数時間後。
虎徹さんから着信が入り、僕はそれを取った。
どうやらは彼の家に逃げ込んだようだった。
が自分の家に逃げ込んできた理由を僕に問いかけてきた。
だが、今はなんだか答える気分じゃなかった。
『まだ怒ってんのか?がお前に内緒でモデルの仕事してたのを』
「何で知ってるんですか?」
『お前がアニエスんトコ行った後、ブルーローズが教えてくれたんだよ』
「そうでしたか」
虎徹さんががモデルの仕事を知っていて、少し動揺したが
教えてくれたのがブルーローズさんというあたり、納得が出来た。
やっぱりと彼女、そしてアニエスさんは初めからグルだったというわけか。
『別にいいだろ?が何しようとしたって』
「確かにそれはそうです」
『だったら』
「でも・・・でも!が、僕の側から離れていってしまったようで・・・・・・怖いんです」
『バニー』
社会勉強、というなら何でもある。
なのにどうしてあえて、人目に映るモデルの仕事を選んだのか?
今まで僕の目だけに映っていたが・・・今になって
大きな看板や、店先のウィンドウ、雑誌、テレビにと姿を変えて映っているんだ。
「別に社会勉強させるなら、モデルじゃなくてもよかったはずです。どうして彼女がモデルをしなきゃいけないんですか」
『女の子ってのはな一度くらい、そういう願いがあるんじゃねぇのか?』
「だからって・・・!!」
『バニー・・・お前、何怖がってんだ』
虎徹さんの冷静な声に、僕は頭に昇っていきそうになる気持ちが
徐々に抑えられていきため息を零した。
「が・・・が僕から離れていくのが・・・・・・怖いんです。
今まで側に居たのに・・・側に、居てくれたのに。今じゃ至る所にの姿があって
皆が彼女を見ている。皆が立ち止まってを見ている。そう思うだけ・・・あの子が
僕の側から離れていっているような気がしてならないんです」
僕は恐れている。
が僕の側から離れていくんじゃないかって。
優しい、天使の表情で微笑むの看板を目に映すだけで
あの子の背中に本当の羽が生えて・・・僕の側から飛び立っていくんじゃないかと思うと怖くてたまらない。
僕の知らない世界へ、が行ってしまうんじゃないかと思うと――――。
「怖くてたまらないんです。ずっと、ずっとを愛しているのは僕なのに。
を守っているのは僕のはずなのに・・・どうして、僕の手の届かない場所に・・・行ったりなんか」
『バニー・・・にも何か理由があって、モデルの仕事したんじゃないのか?』
「何かって、何なんですか?」
『それは俺が知るかよ。まぁが話すわけもないけどさ。
あんまり考えるな・・・それに、お前から離れていくことが・・・の本当の願いじゃねぇだろ?
少し頭を冷やせバニー・・・』
―はお前から離れることを本当に望んでいるのか?―
僕は寝室のベッドで仰向けになり、天井を見つめていた。
はしばらくは虎徹さんの家や、アニエスさんの家などを
転々させると言っていた。
僕自身の気持ちの整理と、自身の気持ちの整理が着くまで
今は敢えて距離を置くしかないだろう。
「」
僕は腕を目の上に置いて視界を塞いだ。
『なんで、そんなこと言うの。なんでいつもみたいにやめてって言わないの』
ふと、脳裏に焼きついた泣いているの姿が浮かんできた。
泣きながら僕に何かを訴えてた。
いつもみたいに・・・いつもの僕って、そんなにを束縛していたのか?
他人からすれば、まぁそうかもしれないな・・・なんて、思わず苦笑い。
でも苦笑いでも・・・数秒もせずに口元を緩ませるのをやめた。
の泣いている顔が・・・焼きついて離れない。
僕は考えて言ったつもりだ。
がもし、僕の束縛に耐えられないのなら・・・仕方のないことで
それが彼女を苦しめているというなら・・・僕は手放そうと思っていた。なのに・・・。
『全然考えてないよバニー!理由も知らないでそんなこと言わないで!』
は大声で僕の考えを否定した。
何も考えていない?違う・・・考えた、それが一番最良と僕の中で出した答えだった。
離れるほうが幸せだと、考えて出した答えだ。
理由も知らないで?
知るわけがない・・・なんでモデルをしたかなんて。
ただの社会勉強なんだろ?社会勉強に理由もへったくれもない。
なのにどうして、泣いたんだ。
泣きたいのは・・・こっちの方なんだよ。
「・・・・・・ッ」
離れていくなんて・・・僕の側から、離れるなんて・・・やめてくれ。
側に居るって、ずっと側に居るからって・・・言ってくれよ、。
そうじゃないと僕は・・・この世界で、生きていける自信がないよ。
「バーナビーさん?・・・バーナビーさん!」
「え?・・・あぁ、すいません」
次の日。
僕はボーっとしていた。
しかし、目の前の人に声を掛けられ僕は我に返る。
目の前の人は記者・・・つまり僕は取材の真っ最中だった。
深くもたれ掛っていた背もたれの椅子から少し体を起こし座りなおす。
「大丈夫ですか?寝不足か、何かで?」
「いいえ。大丈夫です」
「ヒーローのお仕事も大変ですからね」
「えぇ、そうですね」
記者の人に寝不足か?と問われ、否定はしてみたが
正直眠いし・・・いつもなら2時間くらいしか寝てなくても大丈夫だ。
それなのに、今日に限って・・・眠くてたまらない。
理由は分かっている。
「(が隣に居ないから・・・しか、思い当たらない)」
が隣で眠っていないからだ。
彼女が隣に居たら、2時間くらいの睡眠でもぐっする眠れる。
しかし・・・昨日は酷いまでケンカして、挙句僕の脳裏をの泣いている顔が
駆け巡っていくという悪循環。
おかげで2時間しか寝てない・・・だから眠くてたまらない。
でも、今は取材中だ。
なるべく眠いと悟られないようにしなければ、と思い僕はあくびを
堪えながら耳を傾ける。
「では、次の質問ですね。あー・・・あと1週間でバーナビーさんはお誕生日とのことですが。
去年はお祝いか何かされましたか?」
「え?・・・えぇ、まぁ」
そういえば、誕生日まで1週間を切ったのか・・・と記者に言われて思い出した。
忙しくなりすぎると日にち感覚までなくなっていくのが怖いところだ。
「去年は、どのようなお祝いを?」
「ヒーローの皆さんにお祝いをしていただきました」
「そうですか。じゃあ今年の誕生日は何かご予定でも?」
今年の誕生日の、予定は・・・。
「ありましたけど・・・なんだか、誕生日を祝う気分じゃなくなりました」
「そ、そうですか。失礼なことを聞いてすいませんでした」
記者の人は僕に丁寧に謝ってきた。
本当なら今年の誕生日は、と一緒にお祝いをする予定にしていた。
もちろん彼女には僕の誕生日は一切告げていない。
どちらかと言えば、僕の誕生日という事実をその日に知ってもらって
から慌てた感じで「お誕生日おめでとう」と言ってもらう予定だった。
だからデートをして、食事をして・・・あれこれ、頭の中で色々とプランを立てていたのに
昨日のおかげでその計画が丸つぶれになってしまった。
あんな雑誌や看板に気づかなきゃよかったと・・・今更ながら後悔をしていた。
そうすればきっと・・・。
『バニー・・・誕生日、おめでとう』
笑顔で、僕に言うが見れたはずなのに。
何で間違えた?
何処で間違えた?
どうすれば泣き止む?
どうすればまた笑ってくれる?
。
僕は一体、あの時何を言えばよかったんですか?
あんな笑顔を振りまいた君に、僕は何を言ってあげればよかったんですか?
ねぇ神様、教えてくれ。
生まれた日が来るまでに、僕はどうすればいいんだ?
僕はどうすれば・・・をこの腕の中に取り戻すことが出来るんだ?
何故だか、考えれば考えるほど
僕の言ってしまった言葉が彼女に重く響いているようで
今更後悔しても、遅いことに変わりはなかった。
Repentance comes too late.
(”後悔先に立たず“良く考えるべきだったのかもしれない)