「コレでお香の完成よ」


「ホントだ、出来た」






タイガーさんのお家に逃げ込んでからも私はアルバイトを続けた。

バニーの誕生日プレゼントの資金は
プレゼントを買っても少し余るほどのものまでになっていた。


そして、誕生日が刻一刻と近づいてきているある日。
私はヘリオスエナジーにやってきていた。

もちろん目的はただ1つ。


ネイサンにお香の作り方を習っていた。




「ネイサン、出来たよ!!」


お嬢は本当に見込みがあるわね。でも、香りがキンモクセイじゃないのがちょっと残念なところかしら?」


「そうだね」





バニーに贈るお香が完成したのはいいが
香りのほうが、彼が落ち着くといっていたキンモクセイの香りじゃないのが
少し残念な気もしている。






「自然の香りは、製油と違って水分が多いからね・・・お香にするには少し難しいのよ。ごめんなさいねお嬢」


「いいよ。これでも十分な方だって、ありがとうネイサン」





私は出来上がったお香を、自分で用意した箱の中に入れる。






「それにしても・・・・元気ないわね、お嬢」



「え?」



「ハンサムとなんかあった?」







ネイサンの言葉に私はため息を零した。







「何かあったのね」



「でも、私とバニーの問題だし・・・・」



「貴女がそんな顔じゃ・・・ハンサムの誕生日、どうするの?
お互いぎくしゃくしたままじゃ・・・迎えづらいんじゃないのかしら?」





それを言われて、私は黙り込んだ。

確かにあんな状態になってしまった以上、誕生日は迎えづらい。

私もバニーもギクシャクしたままだからそんなんで
「お誕生日おめでとう」なんて言ってもきっと、彼が喜んでくれることはないだろう。





「祝えるの、ハンサムの誕生日?」



「もう此処まで来ちゃったし、バニーが喜んでくれるかどうか分からないけどプレゼントはあげたい」



「ホント、お嬢は健気ね。ハンサムにはもったいないくらいの良い子だわ」







そう言ってネイサンは私の頭を撫でて
「頑張りなさい、応援してるから」とだけ言ってくれた。


その日の帰り道、銀行に寄りお金を引き出していた。
理由はもちろん・・・・あのプレートのネックレスを買う資金が出来たからだ。

私はそのお金を持って急いで、ネックレスの置いてあるお店へと行った。








「いらっしゃい」


「こんにちは。あの、ディスプレイに置いてあるプレートのネックレスが欲しいんですけど」






中に入ると、穏やかな老人が笑顔で出迎えてくれた。
多分この人が店主さんなのだろう。

私はかの人に軽く挨拶をして、すぐさま本題に入る。








「あぁ、あれかい。お嬢さんは運が良いね・・アレが最後の1個だったんだよ」


「そ、そうだったんですか。よかったぁ〜」







店主さんは、ゆっくりと歩きながらディスプレイに置いてあるプレートのネックレスを
一緒に置いてある箱ごと持ってきて、私に見せてくれた。

ホントに近くで見ると、バニーのしているネックレスとデザインがそっくりだった。





「これでいいのかい?」


「はい。あの・・・これの裏に、名前とか入れれます?」


「あぁいいよ。どれ、誰の名前を入れるのかな?」





ネックレスを机の上に置き、紙とペンを出してきた。

私はそれに「Oct.31.Barnaby Brooks Jr」と書いて渡す。
店主さんはそれを受け取り、メガネをかけて見つめ、私を見た。






「バーナビーのファンの子かな?」



「え?・・・えぇ、はい」



「確かにこのデザインは似ているからね。それを目当てで買っていった客も少なくないだろう。
君みたいな若い女の子が買っていったからな。まぁ名前までは入れていかなかったけど」



「そ、そうですか」





やっぱり考えていることは皆一緒なんだな、と心の中で呟いた。





「まぁ、その子たちもバーナビーに贈る目当てで買っていったようだけど
お嬢さんもそんな感じだろう?」



「あ、はぃ」



「しかし、なんだか買っていった子たちと君とは何か違うような気がする。
名前を入れるということは、何か特別な思い入れでもあるのかな?」






私の顔を見て、店主さんは笑みを浮かべていた。

その表情に私は顔を少し赤らめる。
「恋人」なんて言っても信じてはもらえないだろうから、何とか言い繕うしかない。







「特別な思い入れっていうか・・・・・・」





思い入れというか、好きだから・・・彼に喜んで欲しいから。

たったそれだけの単純な理由。


好きだから側に居て、喜んで欲しいし。

好きだから何かしてもらっている分、お返しをしてあげたい。








「悪かった。言えない事情があるんだね、君には」



「え・・・あ、すいません」







黙って考えていると、店主さんは両手を上げて謝罪をしてきた。

理由を話さず助かったが、やっぱりなんだか怪しまれてる感じがする。






「とにかく入れて欲しいんだね。この名前を」


「はい」


「ラスト1個だからね。名前を入れる料金は要らないよ、ネックレスの料金だけにしておこうか」


「え?・・・で、でも」




私はあらかじめ名前をいれての料金を含めて
アルバイトをしていた。でも、店主さんの計らいでその料金をナシにするよう言ってきた。





「君だけはこのネックレスを買うのに思い入れが違うみたいだからね」



「ですけど、なんだか申し訳ないような」



「大丈夫大丈夫。名前入れるのなんて大した金額じゃないからね、それくらいオマケしとくよ」



「・・・・ありがとうございます!」








私は顔をほころばせて、頭を下げた。


これは私が頑張ったご褒美なんだよね。だからきっと、神様がオマケしてくれたんだよね。



ネックレスを誕生日に渡しただけで
仲直りできるなんて思ってないけど、少しでも喜んで欲しい。



しばらくして「よし、こんなもんだろ」という声があがり
私に完成したものを見せてくれた。



箱に入ったプレートのネックレスに刻まれた【Oct.31.Barnaby Brooks Jr】の文字。

私はそれを見ただけで胸が躍った。





「これでよかったかな?」


「はい。ありがとうございます!」


「じゃあ、支払いのほうだけど・・・・」






支払いを言われ、私はすぐさまお財布から値段どおりの金額を出した。

支払い終えると店主さんは、箱の蓋を閉めて
綺麗にラッピングをして、お店の袋に入れて私にそれを渡した。







「いい誕生日になるといいね」


「はい!本当にありがとうございました!!」






出る前にまた一礼をして、私は店を後にした。


買えた喜びに足が思わず小走りになる。

お香も出来た、ネックレスも買えた、プレゼントの準備は完了。



あとは、あとは・・・・・・・。






ふと、小走りになっていた足が止まる。








「・・・・仲直りしなきゃ」







バニーが喜んでもらえるかの不安だけだった。



プレゼントを買えたとしても
肝心のバニーと仲直りをしていないから、当日渡したとしても意味がないように思えてきた。


彼が喜んで、これを受け取ってくれるかなんて・・・分からない。







「どうして、ケンカなんかしちゃったんだろうなぁ・・・ホント」






ふと、目に入るあの化粧品の看板。


今でもモデルの仕事をやらなければこんなことにはならなかった。
だけど、あれをやったからこそ・・・ネックレスを買うまでに至った。



どっちが正しい判断、とは言いがたい。


ふと、手に下がった袋を見る。




1つには、手作りのお香。


もう1つには、名前入りのプレートのネックレス。









「喜ぶ、わけないよね・・・・こんなの用意しても」







きっと、機嫌取りのために・・・とかしか思われないかもしれない。

用意したところで、喜んでくれるかどうかなんて・・・現状を見れば分かること。






浮かれすぎ、だよね。





色々と考えたらなんだか、気分が下がってしまい
テレビに映った彼の映像を見るだけで、なんだか心が苦しくなってしまった。




でも、出来る限りのことはやった。
あとは・・・どうにかなるだろう、少し前向きに考えるようにするのだった。




After us the deluge.
(”後は野となれ山となれ“出来る限りのことはした、あとはどうにかなればいいが)
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