ついに誕生日がやってきてしまった。
あの日のケンカ以降
僕とは、お互い電話もメールも、会話すらしなかった。
離れている間も、僕の心はぽっかりと穴が開いたままで
寂しさや虚しさを感じていた。
そんな中。
アニエスさんがヒーロー全員で仮装をして
慈善活動を行おうという企画を急遽持ち込み、僕らに仮装をさせ
街を歩かせるということになった。
街も、人も、それはハロウィン一色。
時々街頭で、「お誕生日おめでとうございます」と声を貰ったり
プレゼントを貰ったりしていた。
「誕生日でも人気だなバニー」
「虎徹さんの誕生日もきっとこれくらいはしますよ」
「お前には負けるって」
手に貰ったプレゼントの箱の数々を見る。
でも、本当に欲しいモノは・・・僕の手にはない。
考えたらため息が零れた。
「どうした、バニー?ドラキュラの格好じゃのらねぇか?」
「え?・・・あぁ、いえ、そうじゃないですけど。むしろ、虎徹さんは狼男あたりでよかったんじゃないんですか?
僕と一緒じゃ割に合わないでしょ?名前がタイガーなのにドラキュラじゃ格好つきませんし」
「お前・・・それ嫌味か?」
虎徹さんの言葉に笑みが零れるも、すぐさまそれは消えた。
「まだの事考えてんのか?」
「・・・!!」
それを言われ、僕の肩がかすかに動く。
その動きに虎徹さんはため息を零す。
「アニエスから聞いたけど、から口止めされてるらしい」
「そうでしたか」
「なぁバニー。がモデルやればお前と堂々と付き合えるんじゃね?
いっそのこと、続けるよう勧めてやればいいだろ?何でしないんだよお前。
何であえて嫌味な言い方しかしないんだよ」
「別に嫌味な言い方じゃ」
そんなつもりでは言ってない。
むしろ、がやりたいのであれば僕は止めようとは思わない。
それでも・・・。
「は、僕に何でやめてくれと言わないのかと問いかけてきたんです」
「は?・・・んだよそれ?」
「それが分からないから、分からないから・・・・」
の気持ちも分からない。
やりたいなら、やればいい。
僕から離れたいのであれば、離れていけばいい。
それなのに、どうして「やめてほしい」なんて言葉を言って欲しいと彼女が言ってきたのか
その意味が未だに分からず、僕の胸の中でモヤモヤとした気持ちが広がっていた。
「女の考えてることが分かんねぇよ」
「ホント、そうですよね」
「すいません、遅れました」
すると聞きなれた声に歩いていた僕らは振り返る。
其処にはが、魔女の仮装をして立っていた。
ふと、そんな彼女と目が合う・・・しかし、すぐさまその目は逸らされた。
「やっだ〜ん、お嬢超可愛い〜魔女っていうより魔女っ子よね」
「いいなぁ〜私なんて雪の女王様よ?それってお化けなのって話」
「僕は中国の幽霊でキョンシーなんだよ!」
「皆さん、とっても似合ってますよ」
僕と再び目を合わせないまま、ブルーローズさんたちが彼女を引き連れて
横を通り過ぎて前を歩き始める。
僕はそんなの姿を後ろからじっと見つめていた。
女の子同士、楽しそうに・・・話している。
「この慈善活動を提案したの、なのよ」
「アニエス」
「アニエスさん」
すると、いつものスタイルでアニエスさんが僕らと肩を並べる。
「少しでもヒーローが市民により近い存在でいてもらうため・・・ってね。
今日がハロウィンってのもあるから、仮装して、良い印象を持ってもらおうって言う企画」
「なるほどなぁ〜。ちょっとアイツ褒めてくるか」
アニエスさんの言葉に、虎徹さんはたちの輪の中に入っていく。
虎徹さんが何か言葉をかけてあげると、途端は嬉しそうな表情を浮かべる。
きっと、今僕があの中に入っても彼女の表情を曇らせるだけにしかならない。
「バーナビー、確かに・・・あの子を宣伝のためとはいえ、使ったことは悪かったわ。
むしろ評判良くて困ってるくらいよ、同僚が言ってたわ」
「評判がいいなら僕に謝る必要ないと思います。それに、モデルはがやると決めたことですから」
今更謝られても、過ぎ去った日を戻そうなんて出来ない。
色んなところに貼り出されたポスターや、看板は取り除くことが出来ないのだから。
僕は羽織った黒のマントを靡(なび)かせながら、アニエスさんの隣を離れる。
「ねぇ、アンタ・・・何か勘違いしてない?」
「え?」
すると、後ろのアニエスさんの声に僕は振り返る。
振り返るときに、マントが翻る。
「確かに、モデルに誘ったのは私。でもやると決めたのはよ」
「だったらそれでいいじゃないですか。もうのやりたいように」
「でももし、何か理由があってがモデルをやったとしたら・・・アンタどうする?」
「何か理由って・・・・何なんですかそれ?」
理由?
モデルをやることに理由があるのか?
不純な動機しか思いつかない・・・・ただ憧れて、やってみたい、それだけだろう?
くらいの歳の子が、モデルという華やかな職業に憧れないわけがない。
「理由なんて、1つしかないじゃない。そんなことも分からないの?」
「分からないから聞いてるんです。どういう理由でがモデルの仕事を引き受けたんですか?」
「分からないならいいわ」
呆れた声をしてアニエスさんは僕の横を通り過ぎていく。
「でも、アンタは大きな勘違いしてる。あの子は自分のためだけにモデルっていう見世物の仕事するかしら?
をよく見てるアンタなら・・・分かるはずよ、あの子がそんな子じゃないってこと」
そう言ってアニエスさんは横を通り過ぎながら僕に言って
先頭に走って行った。
僕はまた振り返り、前を見る。
が楽しそうに皆とワイワイしながら歩いている。
僕の大きな勘違い。
何処で僕は間違えている?
何処で、何を間違えている?
、もし・・・許されるなら・・・その間違いを教えてください。
もうこれ以上・・・心に穴を開けたまま過ごすのは、耐えられない。
「・・・プレゼント準備できた?」
「え?・・ぅ、うん」
バニーから離れて、ブルーローズや皆と歩いている最中
彼女が耳元で私に準備は出来たか?と告げてきた。
私は小さく返事をする。
「でも」
「なに?」
「バニー・・・喜んでくれるかな?まだモデルやってたこと怒ってるから」
「アイツ、まだ怒ってんの?まぁ無理もないよね・・・いくら誕生日プレゼントの資金集めとはいえ
看板に載るほどのことやったんだからさ」
ブルーローズの言葉に私は苦笑い。
確かに、資金集めとはいえ人目につくようなことをしてしまった。
バニーは私が誰かの目に映ることを酷く嫌がる。
だからこそ、「やめてくれ」と言ってくると思っていた。
だけど、出てきた言葉は「やりたいならやればいい」。
その言葉を聞いて、ショックを受けた。
「大丈夫なの?」
「最後に精一杯足掻いてみようかな。私の話聞いてくれるかどうか分からないけど」
「はぁ〜・・・ホント、良い子なのにどうしてあんな兎に惚れたのか未だに謎だわ。
何かあったらウチに来ていいからね、あんな兎見捨ててもいいからね!」
「ありがとうブルーローズ」
そう言って私は彼女と手を繋いで、ハロウィンの街を歩いた。
それからしばらくヒーローの皆と一緒に色んな施設などを歩き回った。
私は怪しまれたりもしていたが、首からスタッフのストラップを下げていたから
特に何も言われず皆と共に行動した。
一緒に行動しても、バニーは私に声すら掛けてくる様子もなく
また彼もいろんな人から誕生日プレゼントや「おめでとう」の声を貰って笑みを浮かべていた。
私はため息を零し正面を向くと――――。
「あら」
「うわー魔女だー!」
「魔法使いだー!お菓子ちょうだい!」
目の前に数人の子供が騒ぎながら私にお菓子を求めてきた。
私は膝を落として子供達を見て
一人ずつに持っていたお菓子を渡していく。
「はい。お菓子をあげたから悪戯しちゃダメよ?」
「はーい!」
「ありがとう魔法使いのお姉ちゃん!」
私が優しく言いながらお菓子を渡すと、子供達は嬉しそうにそれを貰って去っていった。
去っていったのを見送り、私は立ち上がる。
ふと、何やら背後に気配を感じる。
「Trick or Treat」
「え?」
「大人しくしな・・・魔法使いのお嬢ちゃん」
振り返る前に、私はジャック・オ・ランタンに捕まった。
「きゃぁぁあぁああ!!!」
「何だ!?」
「悲鳴です」
ファンの人たちに囲まれているとどこからともなく悲鳴が上がる。
首を動かすと、公園の真ん中・・・・拳銃を構え顔にかぼちゃの被り物をしたヤツ。
そいつの腕に・・・・―――――。
「ッ!!」
「まさかアイツ、人質にっ。おいお前ら、事件だ・・・が人質に取られたぞっ!」
虎徹さんがPDA越しにヒーロー全員に通信を飛ばし、公園へと集合させる。
もちろん、僕はいち早くその場へと向かった。
間近で見ると、かぼちゃの被り物をしたヤツがの頭に拳銃を突きつけていた。
異様な光景にも思えるが、犯罪が起こる一歩前・・・むしろ、が危ない。
「その子を離せ」
「へぇ・・・バーナビーはドラキュラの格好かよ。さぞお似合いだなぁ」
「話を逸らすな。その子を離せ」
「嫌なこった!」
「きゃあっ!?」
「ッ!!」
すると、かぼちゃの男は突然空に飛び上がって行った。
体中が青い光に包まれている。
ということは、NEXT・・・能力者ということ。
高く飛び上がり、壁から壁、ビルからビルへと飛び移る・・・・蛙みたいなヤツ。
「バニー・・・犯人は?」
「をつれて逃走しました。相手もNEXTです、蛙みたいにどうやら高く飛べるヤツみたいで」
「おい、ちょっと待て・・・つれて、逃走ってことは」
「はい、高く飛びあがっ」
しまった。
「急いで全員に連絡を。特にスカイハイさんには緊急で。僕はと犯人を追いかけます」
「おい、バニーッ!?ったく・・・厄介すぎる犯人だぜおい」
虎徹さんにそう言伝をして、僕は犯人と、その人質になったを追いかける。
早く、早く助けてあげないと・・・・なぜならは―――――。
「あ・・・ああああ・・・あのっ」
「どうした魔女っ子ちゃん?」
「お、おおおおお降ろしてくださいっ!!」
「はぁ?せっかくの人質降ろすわけ」
「私高所恐怖症なんですっ!!高いところ苦手なんです!!逃げるならせめて道路走ってくださいっ!!」
「何この子!?そういう格好しながら高所恐怖症とか何なのそれ!?」
Accident will happen
(”事故は起こるもの“やってきた当日、転がり込んできた事件)