「アニエスさん」
「あら、バーナビー・・・どうしたの?」
「折り入って、頼みたいことがあるんですが」
「は?」
とある日、僕はアニエスさんに頼みごとをした。
30分後・・・袋に入った長い筒を持ったアニエスさんがヒーロー事業部へとやってくる。
「バーナビー、ホラ持ってきたわよ」
「ありがとうございます」
アニエスさんの来室に、僕はすぐさま立ち上がり
かの人の手に持たれた長い筒を受け取った。
「ったく。頼みごとって言うから何かと思えば」
「おい、バニー・・・なんだその長い筒?」
アニエスさんから受け取ったものに虎徹さんが興味を示したのか
袋を指差す。
「あぁ、これですか?」
僕は筒を手に持ち、それを解いた。
そうこれは筒状にしてあるポスター。
そして、広げられたポスターに映っていたのは・・・・・・。
「以前、が化粧品会社のモデルをやってたときのポスターなんです」
「あぁ。ブルーローズとのアレか!」
僕の誕生日と名前入りのネックレスの資金集めのために
がやっていた一回きりのモデルの仕事。
ウィンドウや街の化粧品店に貼られている、ということはつまり
此処の広告宣伝部にも余っているはず。
それを思い出し僕はアニエスさんにポスターの余りはないか、と尋ねに行ったのだ。
「いきなりウチの部署に来るなり・・・真顔で
『あの化粧品のポスターないですか?主にエンジェルさんの単品で』って
聞いてくるから・・・ビックリしたわよ。まぁ宣伝部に行ったら、のが最後の1枚残ってたから
貰ってきたんだけどね」
「最後の一枚だったんですか?」
「そうよ。言ったでしょ?評判良かったって。ブルーローズのもすぐ他の部署の男共が貰いに来たし
のも一回きりだし他では幻扱いに等しいわ。無くなるの早かったって宣伝部の同僚が言ってたわ」
アニエスさんの話を聞いて、広げたポスターに映るを見る。
確かにはモデルの仕事を引き受けたものの
僕のネックレスの資金集めのためにやったようなものだから
一回きりの幻扱い。
言わば、もうオモテに出てこない・・・プレミアムもの、ということか。
それを聞いて、これはますます大事にしなければ。
「良かったわね、最後の一枚で」
「えぇポスター欲しかったんですよ。ありがとうございます、アニエスさん」
「あーうっざ。お惚気兎が出てきたわ」
愛らしいの表情に顔を綻ばせながらアニエスさんにお礼を言う。
するとかの人は完全に呆れていた。
「いいじゃないですか。好きな子に惚気ちゃいけなんですか?」
「頼むからその表情で人前に出ないで。マジでイメージダウン甚だしい」
「大丈夫ですよ」
「もーいい、分かったはいはい。私は仕事があるからじゃあね」
そう言ってアニエスさんはその場を去って行った。
僕はというと、広げたポスターに映る彼女を見つめる。
愛らしい表情で微笑む彼女。
きっと、ファインダー越しに見た彼女はもっと可愛かったに違いない。
この時・・・彼女は何を思いながらこんな笑顔を引き出したんだろう。
エンジェルという白く無垢な少女がだと分かった数日後。
コレを街中で見かけたとき
見つめてくる視線に、僕自身心臓が止まりそうなくらい・・・熱くなり
そして、その熱いまなざしで死んでしまいそうだった。
「バニー?・・・バニーちゃ〜ん?」
「可愛いですね、。そう思いませんか虎徹さん」
「だめだこりゃ。完全に惚気スイッチ入りやがった」
ふと、ポスターの片隅にが付けたとされるグロスの写真を見つけた。
値段を見ると確かに手頃に近い。
いや、僕からしてみればかなり安いほうだ。
「・・・・・・」
「どうしたバニー?」
「此処近くに化粧品店ってありましたっけ?」
「は?え?何お前・・・何すんの?」
「ちょっとアニエスさんに聞いてきます」
「え?!バニー!?」
そう言って僕はもう一度アニエスさんの部署へと向かうのだった。
まぁものの見事にあの人を呆れさせ
「教えてあげるから・・・二度とそういうネタ持ち込んでくるな」と
怒気を強められ追い出されたのだった。
「ただいま・・・あ、バニー」
「あぁ、おかえりなさい」
部屋にポスターと、あるモノを手にしてより先に戻ってきた。
数分して彼女が帰宅。
「どうしたの?早かったね」
「時間が出来たので君の帰りを待ってたんです」
「私の?」
「えぇ、これをあげたくて」
僕はポケットの中から、あるモノをの前に差し出した。
「バ、バニーッ・・・コレ!?」
「そうですよ。君がモデル・エンジェルとして付けて宣伝していたグロスです」
アニエスさんから、アポロンメディア近隣にある
化粧品店を教えてもらい僕は此処に戻ってくる間に買ってきたのだ。
が、エンジェルとして付けていた・・・グロスを。
「もしかしてサンプルで貰ったりしてます?」
「カリーナは貰ってたけど・・・私は勿体無くて貰わなかった」
「じゃあ丁度良かったですね。にプレゼントです」
「え・・・で、でも・・・何で?私誕生日とかでもないよ」
頬を赤らめ慌てて買ってきたグロスの理由を尋ねてくる。
「何でって・・・ご褒美に決まってるじゃないですか」
「え?ご褒美?」
「そうですよ。僕の誕生日の為に頑張ってくれたに僕からのご褒美です」
「そんな・・・いいのに」
「受け取ってください」
ご褒美、なんてただの口実にしか過ぎない。
本当はプレゼントしたくて買ってきた。
しかし、こうでも言わない限りは受け取ろうとはしない控えめな子だ。
「いいの、貰って?」
「えぇどうぞ。あ、そうだ・・・付けてあげましょうか」
「え!?貰ってすぐ使うとか・・・も、勿体無いよ!!」
「大丈夫ですよ、これくらいの事でバチは当たったりしませんから」
そう言って、箱を開け本体を取り出す。
蓋を開けたらステック状の先に付いたブラシ。
其処に色付いた薄ピンク色のモノ。
「・・・顔を上げて」
「うっ」
「肩の力を抜いてください。何にもしませんから」
力んだに力を抜くよう笑って促す僕。
そういうと彼女もようやく覚悟を決めたのか深呼吸をし、顔を少し上げ
塗りやすいように薄く口を開いてくれた。
其処にゆっくりと、グロスを塗る。
段々と潤いと艶を帯びていくの唇。
塗り終えると僕は彼女の瞼にキスをして「終わりましたよ」と告げた。
グロスを塗り終えた彼女を見た瞬間
心臓が酷いくらいに跳ね上がり、鼓動を始める。
真っ直ぐと僕を見つめる。
口元は潤みを帯び、横髪を耳に掛けるほんの僅かな仕草でも
どこかしら妖艶な部分を垣間見せる。
心臓が音を立てて・・・鳴り響く。
見つめてくるの頬に触れ、顔を近付ける。
「バ、バニー?」
「おかしいですね・・・君は天使のはずなのに・・・この唇は悪魔のようだ」
そう言って、噛み付くようなキスをにした。
見つめられてしまえば、その熱い視線で焼き殺されてしまいそうなほど。
君の視線は天使だけれど、君の唇は悪魔だ。
視線だけじゃなく、その唇でも僕を体中から焼き殺す・・・君はいたいけな、天使で、悪魔だ。
Love is Blind.
(恋は盲目。結局僕は君に溺れているって、事です)