「・・・という、お悩み相談1通目ありがとうございました。それではもう1通読んでみようと思います」
新しく設けられたお悩み解決のコーナー。
何とか1通目は戸惑う事無く答えられた。
まぁはっきりとした答えかどうかは分からないけれど
アドバイス程度になっただろうな、とは自分の中でそう言い聞かせた。
そして、僕は手元に置いていた2通目に手を伸ばし読み上げる。
「ラジオネーム・・・泣き虫ウサギさん、ですね。お手紙ありがとうございます。
『こんばんはバーナビーさん初めまして。いきなりではありますが、私には好きな人が居ます』
ああ、恋愛相談か。若い僕が答えられるかなぁ〜ヤバくなったら、誰かタイガーさんか
ファイヤーエンブレムさんを呼んでくださいね」
と、言いながら音響室にいる監督などに笑いかけた。
ちょっと笑いを引き出して、場を和ませようと言う僕なりのやり方だ。
実際恋愛相談されても、余裕・・・とまでは行かないが答えれる範囲ではある。
僕にも・・・大切にしている、彼女・・・が居るから。
「気を取り直して。『最近、好きな人が私の事を避けている様に思えるんです。彼の仕事の都合上で
中々会えないのは分かってはいるんですが、まるで避けているようにも思えるんです。コレは私の思い込みでしょうか?
もし何か良いアドバイス等ありましたら教えてください』というお悩み相談です。・・・・そうですね」
ハガキを片手に考え始める僕。
自分の立場に置き換えたらどうだろうか?
僕はヒーローで、は一般人。
確かに、この送り主の泣き虫ウサギさんのように僕の仕事の都合上でと会う時間は少ない。
同じ部屋、同じ空間に住んでいながらも、仕方の無いことだとお互い分かっている。
だけど、会えた時の事を考えたら僕は多少あるにしろ苦にはならない。
じゃあ、彼女はどんな気持ちなのだろうか?
そう考えたら――――――。
「多分、彼は避けてるつもりは無いと思いますよ。ただお互い顔が見えないだけで不安なんだと思います。
そんな時・・・彼に電話を掛けたりや突然会ってみたりしたらどうですか?きっと驚いて、その後彼がデートとかに
誘っちゃうかもしれませんからね」
上手く言葉を繕ったつもりだ。
本当は、会えなくて、顔が見れなくて寂しいに決まってる。
自分に置き換えて、の事を考えたら・・・僕自身そうなった。
違う・・・時間が上手く作れない自分に少し腹立たしく思っているのだ。
「若い僕の意見で上手く行くかどうか分かりませんが、頑張ってください泣き虫ウサギさん。
僕も陰ながら応援させていただきます。それでは、泣き虫ウサギさんにこの一曲をプレゼントします。
乙女☆クラブで【恋するヒロイン】、Let's Start」
『良かったよ、バーナビー!全然そんな感じでOK!』
「ありがとうございます」
曲が流れ、ブース内に音響室の監督の声が響く。
僕は笑顔で言葉を返すも、内心先程の質問の内容で胸がギスギスと軋んでいた。
僕自身が、ただ・・・不安になっていた。
上手くアドバイスが出来たはず・・・それだと言うのに
心が軋んで痛い。
こんなハガキを読んでしまったせいというか、おかげで・・・。
「・・・に、会いたい・・・」
『ん?どうしたバーナビー?』
「え?あぁ、いえ、なんでも」
思わずの事を口にした途端監督から声を拾われた。
だが僕は何事もなかったかのように振舞う。
手紙を読んでしまってふと、彼女に逢いたい気持ちが増した。
いやマンションに帰れば彼女は必然的に居る事になるんだろうけれど
目を合わせて、言葉を交わした記憶が無いのだ。
結局は会っていないも同然になる。
彼女は学生で、朝早くには出て行く。
僕は仕事や出動で深夜帰ってきて、朝起きて気付いたら彼女は隣に居ない。
夜も、結局は会えず
は眠りに就き、僕はそんな眠ったの姿だけを目に焼き付け隣に眠る。
同じ部屋に居て、同じ空間に居るはずなのに、まるで離ればなれのようだ。
この、泣き虫ウサギさんのように。
『バーナビー、もうすぐ曲明けるよ』
「はい。あの・・・」
『ん?』
「このハガキ、貰っていいですか?泣き虫ウサギさんの、だけ」
『良いけど、何すんの?』
「ちょっと僕もちゃんとしたアドバイスを答えられたかどうか分からないので。こういったものを資料で
取っておきたいんですが・・・ダメですか?次に備えたいし」
『普通はダメだけどね・・・まぁ、バーナビーが言うなら』
「ありがとうございます」
『じゃあ、曲明け15秒前〜』
カウントダウンが入ると同時に、僕はそっとハガキを目に見えるところに置いた。
あんなアドバイスしたけど
本当は僕からに電話をかけるべきだし、会わなければならない。
今日・・・収録が終わってからでも、時間があるから・・・電話、してみよう。
そしてうまく行けば食事にだって誘える。
たくさんと言葉を交わすことが出来る。
何か「きっかけ」さえあれば、その後はなるようになる。
そう考えたら少し楽になり、僕はラジオの収録を淡々とこなした。
しかし収録を終えたけど、急な仕事が入ってしまい・・・電話が出来ず、声を聞くことが出来なかった。
だがせめてもの足掻きで彼女に僕の声を残す事にしたのだった。
『留守番電話』という、ほんの数秒間の僕の声を、言葉を残すモノに
僕の切実な思いを託した。
Love covers many infirmities.
(”あばたもえくぼ“良い所もあれば悪いところも必ず見えてくる)