不思議な違和感があった。
でも、偶然で片付けることには出来ないことだった。
あの泣き虫ウサギからのハガキを貰うたびに
僕自身、との接触を試みようと思っているのに、上手く行かず
また、泣き虫ウサギも・・・同じように失敗をしていた。
でも、今僕は不思議な違和感に襲われていた。
手に握った一枚のハガキと、一枚の手紙。
ハガキはもちろん、あの泣き虫ウサギからの手紙。
そして、手紙の方はと言うと・・・が僕に宛てた置き手紙。
「・・・似ている」
ハガキに書かれた筆跡も、何故だか彼女のものに似ているような気がしている。
でもそれは同じような人が少なからず居るかもしれないという理由で
簡単に片付いた。
だが、僕が着目しているのは其処じゃない。
ハガキの内容と、手紙の内容・・・そして、その日僕が答えた・・・泣き虫ウサギ宛の答え。
ラジオでハガキを読んだ日。
泣き虫ウサギの相談内容が
『誕生日の日、忙しい彼の足を止めるにはどうすればいいでしょうか?』という内容だった。
これももちろん自分に置き換えて考えてみた。
そして、その時に僕が言った答えは
『誕生日の事を伏せたような書き方をして
”大事な話がある“と置手紙をしてみたらどうだろうか?』という少し子供じみたやり方だった。
でも、僕だったら確実に足を止めての話に耳を傾ける。
むしろ”大事な話がある“なんて言われた日には僕自身恐ろしくて超特急で家に帰るに違いない。
そして、もし別れ話をされたとなれば
必死になって説得を試みる。むしろ、ヒーローの職を捨てても良い覚悟だ。
との時間を疎かにしている自分に原因があるのだから
もし彼女に自分の側を離れられたとなれば、僕自身狂ってしまいそうになる。
そうじゃなくても、誰でもこんな書き方をされたら足を止めるに違いない・・・僕に限らずそれは世間一般的な答えになった。
そしてその日、帰って来たのが日付を越えた深夜。
帰宅した僕は、テーブルの上に置かれていた手紙に驚きが隠せなかった。
からのモノで”5日後の10月31日に話がある“と書いてあった置手紙がされていたのだ。
明らかに誕生日の事を伏せたような書き方だった。
しかも「話がある、大事なこと」とまで書いてあったのだ。
一瞬頭を過ぎった”偶然“という文字。
だけど、偶然にしては出来すぎているし・・・タイミングが良すぎる。
ラジオの放送があったのが、この置手紙がされていた日。
「まさか・・・が・・・?」
置手紙をされた日から、僕は延々と考えていた。
そして、泣き虫ウサギから貰った今までのハガキの事を振り返る。
初めての接触は、忙しい彼が避けているように思えるという少し怯えたような内容だった。
その時僕は自分から行動を起こしてみたらどうだろうか、というアドバイスで返した。
しかし、結果・・・その行動は勇気が出せずに失敗。
その内容に触発された僕も・・・同じように失敗に終わった。
次はこのままの状態だと誕生日が祝えないような気がして、という内容で
僕は着飾る事無く、ご馳走を振舞ってみたらどうだろうか?
アナタが側に居れば十分ではないか、というアドバイスを返した。
次の日、彼女に宛てたメールに
ハガキの事に気づく前だったが、誕生日の事を少しほのめかすと
『バニーの大好きなモノと、去年よりも豪華なケーキにする予定だから』と絵文字つきの
文面で返信が飛んできた。
その時から、ふと違和感を感じていた。
泣き虫ウサギから貰ったハガキの内容と
そして僕がその時に答えたアドバイス、どこか・・・似ている、と。
更なる違和感を掻き立てたのが、数日前のハガキで今現在に至る。
偶然、という言葉ではもう・・・片付けられない。
偶然ではない、明らかにコレは必然に相当する。
「何悩んでんだバニー?」
「虎徹さん」
ハガキやからの置手紙で悩んでいたら虎徹さんから声を掛けられた。
「あ、ラジオ・・・評判が良いみてぇだな」
「ありがとう、ございます」
「特に、泣き虫ウサギのヤツな。良い感じに答えてるじゃねぇかバニー」
「いえ」
虎徹さんの口から、ラジオの事についての感想を聞いていた。
色んな人からラジオの評判を聞くと
大体皆、泣き虫ウサギとのやりとりが良かったとの声が返ってくる。
「でも、泣き虫ウサギの話聞いてるとさ・・・」
「はい」
「まるでお前とみてぇだなぁって思った」
「え?」
虎徹さんの言葉に僕は目を見開かせ驚いた。
僕と・・・みたい?
「お前らみたいっていうかさ。なんつーか・・・ホラ、バニー最近忙しいだろ?
の事だから何にも言わないけどよ、内心寂しいって言ってるようにも聞こえるんだよな。
いや、泣き虫ウサギの話を聞いてだぞ?」
「寂しい・・・」
「もうすぐお前、誕生日だろ?誕生日の日くらい、早く帰ってやれバニー。そしたらアイツ泣いて喜ぶかもな」
そう言って虎徹さんは僕の肩を叩いて去って行った。
ふと、が僕に宛てた置手紙を見る。
『出来るなら早く帰ってきてください』
この文面に、彼女が僕を求めているような寂しい声が聞こえてきた。
それを見せずに、言わずに、ただ僕を見守る。
本当は寂しいはずなのに。
本当は・・・本当は・・・・彼女は・・・・―――――。
泣き虫で、寂しがり屋のウサギのようで・・・強いようで、脆い女の子。
「!!・・・・・・やっぱり、このハガキ・・・・・・・」
心の中で、自分に呟いた言葉に
バラバラになっていたパズルのピースが揃った。
泣き虫ウサギは、だ。
どうして、僕が熱心にこのハガキの内容に答えていたのか。
どうして、僕が触発され動いていたのか。
すべては、そうの言葉だったからだ。
ラジオにハガキを送っていたのはきっと、僕と携帯ではない
何処かで繋がりが欲しかったのかもしれない。
勇気が出せずに電話が出来なかったんじゃない。
僕の仕事の都合があったりして、電話が出来なかったんだ。
だから、不安になって誕生日が上手く祝えないと文面に言葉を漏らしたんだ。
それが不安でたまらなかったから。
そして、僕の足を少しでも止めたい気持ちがあったけれど
その方法が分からず、正体を隠し僕に敢えて助けを求める手紙を送ってきた。
結果話したい事がある、大事なことだからと言って置手紙をしてくれた。
思い起こせば全部・・・泣き虫なウサギ(彼女)の僕とのほんのわずかな繋がりを作るために。
手紙を書いて、偽りの名前を書いて、僕に・・・僕に・・・・。
「気付いてほしいと、サインを出していたんですね。すみません、気付くのが遅くなって」
僕は今まで彼女が送ってきた手紙と、置手紙を胸に抱きしめ呟いた。
必死のサインに、気付いたのが遅くなってしまったが
でも、あと3日・・・まだ間に合うはずだ。
僕らの関係が、終わらないためにも・・・僕は君の想いに答えなきゃいけない。
The darkest place is under the candlestick.
(”灯台下暗し“実はこんなに身近に君がサインを出していたなんて・・・)