ついに誕生日がやってきた。


今日ばかりは出動も勘弁して欲しいという
先日のラジオでの僕の願いが届いたのか、PDAから
痛々しい機械音が耳元に響いてくることはなかった。



だから、今日与えられたスケジュールを淡々とこなしていた。



もちろんラジオの収録もあったが
お悩み相談で、あの『泣き虫ウサギ』のハガキが送られていなかった。

監督やスタッフも急に止まったかの人物のハガキに
首を傾げ「どうしたんだろうか?」という雰囲気だった。




そして、全ての仕事を終えマンションに帰宅。
部屋に続くドアの認証をする前、僕は一呼吸置いた。





もし、先日僕が言った食事をが用意していたら、彼女が間違いなく『泣き虫ウサギ』である証拠。




じゃあ、そうじゃなかったら?




不正解だという考えにはどうしても僕自身至らなかった。

いや、違う。







であってほしいと、ただ、僕がそう思っているだけなのかもしれない」








『泣き虫ウサギ』がであってほしいと
だから不正解だという考えに行き着かなかった。


扉を開けて、リビングの机に並んだ食事は・・・きっと・・・・・・。


そう思いながら、暗証番号を打ち込み指認証をして中へと入る。









「ただいま」






玄関先で声を上げるも、応答が無い。

足元を見て彼女の所在を確認。
いつも外に出歩く靴はちゃんと綺麗に置かれていた。

居るには居るらしい。


僕は自分の靴を脱ぎ、リビングへと足を進める。







・・・居るんですか?」



「あ・・・バ、バニー・・・お、おかえりなさい」






リビングに姿を現すと、が一瞬驚いた表情をするも
立ち上がりすぐに笑顔で出迎えてくれた。

でも、僕が声をかける少し前・・・彼女は何だかとても不安そうな表情をしていた。


だが今はそんな不安そうな表情を感じさせないほどの笑顔で僕の目の前に立っている。






「早かったね」



「当たり前ですよ。こんな手紙貰って、早く帰って来ない人間なんて居ません」






僕は数日前が僕に宛てた置手紙を出した。
手紙を見た彼女はと言うと「そっか」とだけ言葉を零し、目線を下へと向ける。



ふと、目を横に移しテーブルを見る。
その上に置かれていた料理に、目線を落としているへと視線を戻した。








「やっぱり・・・君だったんですね」



「え?」



「先日ラジオ放送で僕が言った料理、ちゃんと用意したのが何よりの証拠です」







テーブルにビーストロガノフと、添え物のサラダ。
そして、真っ赤なソースでコーティングされたドーム型のケーキ。


僕が言った通りのモノが、其処には並んでいた。



笑顔だったの表情が段々と強張っていく。






「な、何言ってるのバニー?私が『泣き虫ウサギ』だなんて」


「僕はまだ一言も・・・君が『泣き虫ウサギ』だなんて言ってませんよ。今まで僕と顔を見合わせてなかったのに
どうして君がその名前を知っているんですか?もし昨日のラジオを聴いていたとしても
僕は『泣き虫ウサギ』のハガキを読んでいませんよ・・・ただ、誕生日の事を虎徹さんと喋っていただけです」


「・・・・・・」






敢えて逃げ道を無くようなことを言い放つ。

僕自身こんな追い詰め方はしたくなかった。
むしろこんな事をするつもりはなかった・・・まるで彼女に罰を与えているようにも思えるからだ。
目の前のはというと、核心をつかれたのか何も言わず震えていた。

そんな彼女の姿に僕は目を閉じ、ゆっくりと目を、口を開く。







「まず僕は君に謝らなければなりません」




「え?」




「君を罠に嵌めた事です。先日のラジオ、アレは『泣き虫ウサギ』から送られてきた相談内容に
誕生日の日にテーブルに並べてほしいメニューを言ったことなんです。ビーストロガノフと、ドーム型のケーキ。
なら作ってくれるかな、って期待して言ってみたんです」



「バニー」



「そうしたら案の定、君は僕のリクエスト通り作ってくれた。それはつまり君は
まんまと僕の罠にかかった・・・という事を意味していた」






ズルイ、と言われても仕方ない。

でもが『泣き虫ウサギ』である核心がどうしても欲しかった。
どんなにハードルの高い料理でも、なら作る・・・僕のために、僕の誕生日のために。






「もし『泣き虫ウサギ』が君でないと言うのなら土下座してでも謝ります。でも、君でないと言う証拠が見当たらず
逆に君だという証拠がたくさんたくさん出てくるんです。最初のハガキから、今までのハガキ振り返っても全部。
君の行動と僕がハガキの内容に答えた内容が・・・偶然にも合致していくんです」





僕の声には何も言わない。



お願いだ。



ねぇ、お願い。




何か言ってはくれないだろうか?




間違っていたのなら本当に土下座してもいいくらい謝るつもりだ。
自分の誕生日にそんなかっこ悪い事したくはないけれど
見当違いだったとしたら僕自身のミスになる。だから、それはの許しを得るまで謝り続けるつもりだ。


だけど、もし・・・僕の言ったことが間違いでなかったとしたら・・・―――――。







「ごめん・・・なさい」




?」






ふと、は顔を伏せ口から謝罪の言葉を零れ落とした。






「此処最近ずっと顔も見てないし、声も聴いてなくて。だけど私がワガママ言って
バニーを困らせるわけにはいかなくて・・・だから、だから・・・っ。『泣き虫ウサギ』は私だけど・・・バニーが謝る事ないよ。
謝らなきゃいけないのは私だよ・・・ごめんなさい、ごめんなさいバニー」



「違いますよ。君は謝る必要ありません」



「だって私・・・っ」



「君は僕と携帯ではない何処かで繋がりが欲しかったんですよね」



「バニー・・・ッ」





僕の言葉にが伏せていた顔を上げた。
目に涙を溜め、それが塞き止めきれなかったのか頬を伝い落ちていた。


僕は分かってしまったんだ、の想いに。


携帯の、受話器越しの声やメールの文章ではない・・・この部屋で感じているように
彼女は僕との繋がりが欲しかったんだと思った。




泣き虫な彼女は必死で僕(ウサギ)に信号を出していた事に気付いたのだ。




泣いているの頬を手で包み込み、自分のおでこを彼女のにつけた。







「君に寂しい思いをさせてしまって、本当にすいませんでした」



「バニー・・・ごめんね」



「もう謝らないでください。それにしても、何だか懐かしいですね」



「え?」





おでこを離し、僕はテーブルに置かれた料理を見てすぐさまに視線を合わせた。





「覚えてませんか?ビーストロガノフは、僕と君が初めてキスをした日に食べたものですよ?」



「昨日、ラジオで言ってたのって」



「えぇ、あの日の事です。あの日も僕達は何処かすれ違ってましたよね」






同じ場所に住み始めて
お互いが何とか距離を縮めたくて・・・でも磁石の同じ極のように反発していた。

それは僕も、も同じ気持ちをしていたから。






「あの頃も、こんな風に・・・すれ違ってましたね」


「そうだね。何か、言われてみたら懐かしいね」


「えぇ」






多分、今回の事もそうだろう。


お互いが、必要とするがゆえに起こってしまったすれ違い。

だけどあの時のようにちゃんと向かい合って話し合えば、きっと反発していた力も解け
どんなに強く引かれても離れることは無い絆が生まれる。


あの時だって・・・そして、今も、これからも・・・。






「食べましょうか。せっかくが作ってくれたのに冷めてしまいますから」



「うん」







そう言って僕はの肩を抱きながらテーブルに向かう。


間近で見ると、なかなか豪華な出来栄えだった。
それに、遠くでは分からなかったが・・・ワインボトルも置いてある。

しかも、僕の大好きなロゼだった。





「バニー、ロゼでよかった?」

「えぇ僕はロゼが好きなので。ですが・・・一体どうやってワインを?」





はまだ未成年だからお酒は買えないはずじゃ。






「えへへ・・・内緒」





驚いた僕の表情に嬉しそうに笑う

まぁ彼女が買えなくても、虎徹さんや彼女が親しいファイヤーエンブレムさんに頼めば
ロゼくらい買ってきてはくれるだろう。






「しかし、我ながら公共の電波を使ってバカな事をしましたよ」


「え?」




は椅子に腰掛けた僕の方に料理を向けている時
僕は苦笑を浮かべていた。



「ラジオで君にこの料理たちを作らせるつもりで、言ったんですが僕の一部のファンの人たちから
有名ホテルのビーストロガノフや、とある有名なパティシエに作らせたドーム型のケーキが会社の方にクール便で送られてきたんです。
要するに、本気で真に受けた人たちもいると言うことです」




先日の放送で、をおびき出すために張っていた罠だったが
どうやら一部のファンが僕の発言を真に受けて、本当にビーストロガノフやドーム型のケーキを送ってきたのだ。

虎徹さんは困り果て、僕は苦笑。

ナマモノだったし、処分するには勿体無く
僕は送られてきたものを虎徹さんや、他のヒーローの皆さんにおすそ分けしてきた。




「真に受けた方が居たと言うのが驚きました」

「だってバニーの誕生日だよ、真に受けないほうがおかしいって」

「そんなもんですか?」

「そんなもんよ」




僕の言葉には笑顔で答えた。

すると、笑顔だったの表情が急に曇りだした。





?」


「ごめんね、バニー。お料理は、貴方が言ったもの全部作れたけど・・・その、プレゼント・・・何も思いつかなくて」






どうやら表情が曇ったのは
料理は完璧に作れたものの、プレゼントが用意できなかったことに落ち込んでいた。

僕はテーブルに並んだ料理たちを見て、落ち込んでいるに視線を移す。






「料理は僕のワガママで作ってもらったんです。これ以上のモノを求めてしまえば流石にバチが当たりますし、
それに僕は言いましたよね?君が側に居ればそれだけでいいと・・・だから」



「あっ、バ、バニーッ!?」




僕はの手を握り引き寄せ、膝の上に乗せた。

少し離れていた僕らの目線が同じ位置になる。





、君が側に居てくれればプレゼントなんていりません。が居れば、僕はそれだけで良いんです」


「バニー」




僕の言葉にが頬を染め、恥ずかしいのか視線を落とし目を泳がせていた。






「そういえば・・・の話とは、何なんですか?大事なことって書いてあったので」



「え?」



「僕の誘導と言えど、君の大事な話は何だろうなぁと・・・『泣き虫ウサギ』のハガキに気付く前に思ってたんです」







僕の言葉を聴いて、はあの置手紙をした。


しかしそれを貰った僕は内心冷や汗モノだったのだ。
何にせよ、彼女に寂しい思いをさせていた・・・だから誕生日の日、別れ話を切り出されるのではないかと
そう思っていた。





「大事な話っていうか・・・貴方の気を惹くための手紙だったんだけど」


「はい」


「ちゃんと、言いたくて」


「何をです?」




















「バニー・・・お誕生日、おめでとう」









「それが、私の大事な話だよ。まぁ話にもならない短さだけどね」







は照れながら僕にそう言う。



本当に、モノよりも・・・大切なプレゼントを僕は今受け取ったように思えた。


僕は嬉しさのあまり
顔を段々とに近付ける。


ようするに、キスがしたいのだ。






「え・・・ぁ、バニー・・・お料理、冷めちゃう」



「少しキスするだけです。動かないで





何をされるのか分かった彼女は制止を試みるも、僕の言葉にそれをやめ
近付いてくる僕を受け入れる体勢に入った。


もう少し、あと少しで、唇が触れてしまいそうな時・・・・・・・。






















------------!・・・!・・・!・・・!







PDAからのエマージェンシーコール。

良い雰囲気だったムードを一瞬にしてガタ落ちにさせる
痛々しい機械音が部屋に鳴り響く。

僕はその音を耳に入れた途端、とキスしようとした軌道を外し
彼女の肩に頭を預けた。




「バ、バニー・・・今年もだね」


「どうやら犯罪者は僕の誕生日ガン無視のようですね」






頭を上げ、コールに出た。





『ハッピーバースディバーナビー。との誕生日パーティの最中だったかしら?』





コールに出て早々嫌味全開のアニエスさんの声。
若干その声が嬉しそうなものを含んでいたのに、少々苛立ちを感じた。





「そうですね。ものの見事にぶち壊されましたよ」



全くだ。

アレだけ忠告したのに、口の悪い言い方をするなら・・・どいつもこいつも邪魔ばかりして。


そんなことを心の中で呟きながら
事件の内容と、発生場所を聞き接続を切った・・・と同時にため息が零れる。






「今年も結局起こっちゃったね」


「ホント、来年こそは勘弁して欲しいです」


「大丈夫バニー?」


「えぇ大丈夫ですよ」





心配そうに僕を見てつめるの唇に自らのを軽く触れさせる。






「僕の素敵な誕生日を邪魔した悪者にはキツイお灸を据えてあげないと」


「程ほどにね」


「えぇ。あの、僕が帰って来るまで待っててくれますか?
超特急で片付けてきますから、帰って来たら・・・二人で」


「うん、お祝いしよう。だから、あのね・・・貴方の誕生日に私がワガママ言うのもなんだけど・・・」


「?」


「早く・・・帰ってきてね?」







ほのかには頬を染めて言った言葉に僕は笑みを浮かべた。






「えぇもちろんですよ。僕の誕生日は君だけに祝って欲しいですから」







そう言いながら僕は膝の上からを下ろし
「では行きますね」と声を掛け部屋を後にしようとした途端。







「バニー!」


「はい?」


「いってらっしゃい」





名前を呼ばれ振り返ると、の満面の笑みでの見送り。


もう一度、帰って来たときに、その笑顔が・・・見たいから。





「帰ってきてもその笑顔で僕を出迎えてくださいね


「うん!」





嬉しそうな返事を聞き、僕は誕生日の出動へと向かったのだった。





全ては一枚のハガキから始まったお話。

事は既に始まっていたのだ。
僕の誕生日という・・・大切な日を迎えるために。



プレゼントも、何もいらない。


僕には、君という存在が側に居ればそれは最高のプレゼントになる。



The greatest wealth is contentment with a little.
(”最大の富は僅かなものに満足できる心のことである“誕生日は君が居れば他に何もいらない) inserted by FC2 system

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