「なんて言えばいいんだろう・・・」
マンションへと帰る道。
私は大いに悩んでいた。悩む種はもちろん、エミリーとジェーンが言い出してきた話。
バニーの誕生日を、彼のマンションで祝うという事だった。
本来ならば断る所なのに、断るタイミングを
ものの見事に失ってしまい結局は2人に押されて、今に至る。
「バニーと約束しちゃったしなぁ・・・今更、約束断れないよねぇ」
バニーはあんなに嬉しそうにしているのだから
そのままそのテンションを31日まで持って行ったあげたい。
しかし、思わぬところで弊害が生まれてしまい
私は何とか頭の中をフル回転させていい言葉を見つけていた。
そうこう考えている間に、自分の体は彼と住むマンションへと着いてしまった。
体をフラフラと、左右に揺らしながら部屋に向かい
扉の認証を終え部屋の中へと入る。
「ただいま」
「ああ、おかえりなさい」
「バニー」
部屋の中に入るとバニーが私を迎えてくれた。
いつもは居ないはずなのに・・・と、思っていたが多分
時間が余ったりして戻ってきたに違いない、と頭の中で肯定させた。
「どうかしましたか?」
「え?」
ふと、バニーが心配そうな面持ちで私の所に来て
頭に手を置き、優しく撫でる。
あまりに突然のことで目を見開かせ驚いた。
「ただいまの一言も無いから何か学校であったんじゃないかと思って」
「バニー」
「学校で何かあったんですか?イジメとかに遭ってる、とかじゃないですよね?
君を預かっている僕としてはそんな事があったのなら気が気じゃないですよ」
バニーはあーだこーだと言って、私を心配していた。
本当は断らなきゃいけなかったのに
何で自分にはそういう押しが弱いのだろう、と考えしまう。
31日はバニーと2人で過ごす、って決めたのに。
今更、バニーを落ち込ませるようなこと・・・したくない。
そう思うと何だか目から涙が溢れてきそうで
余計バニーを困らせ心配を掛けてしまうのかもしれない。
私はそんな気持ちを悟られないようバニーに抱きつく。
「?・・・どうしたんです?」
「ギューってして」
「え?」
「バニー・・・ギューってして」
抱きついて、涙を堪える。
嘘をついているワケじゃない。
でも、ちゃんとエミリーやジェーンに「当日はバニーと2人っきりでお祝いするの!」と
言い張っていればこんな気持にもならずに済んだはず。
それだというのに、カリーナが居なかったから・・・とか
何だかんだとグズグズしていたけれど、根本的には自分自身の問題。
ちゃんと断らなかった私自身に誤りがある。
「どういう風の吹きまわし、かと思いますけど・・・がそうして欲しいというのなら、仕方ありませんね」
バニーはそう言いながらも、声は何故だから嬉しそうで
抱きついてきた私の体を優しく包み込むように抱きしめてくれた。
私の体を大きく包み込んでくれる彼の手や体。
優しくされると絆されて。
甘やかされると何も言えなくなる。
涙は出ないと自分で分かり、ふとバニーの顔を見上げた。
目線が合うと彼は少し驚いた表情をして
ニッコリと微笑んで、頬を優しく撫でてくれた。
「何があったとか、聞きません」
「え?」
「だってそんな事を聞いてしまえば、余計君を困らせてしまいそうですから」
「バニー」
「でも、これだけは覚えておいて下さい」
するとバニーは私の瞼に優しく唇を落とし、視線を合わせる。
「何があっても僕は君の味方です。困っているのだったら何でも言ってください。
僕は君のためなら助けてあげたいし、何だって叶えてあげたい」
「ありがとう、バニー」
彼の言葉に私は微笑んだ。
すると、彼の腕に嵌められたPDAから痛々しい機械音が鳴り響く。
多分出動の合図。
「行かなきゃ。じゃあ、僕行きますね」
「うん。気をつけてね」
「はい」
そう言って彼は部屋を急いで後にした。
もちろん、其処に残ったのは私一人。
「困っているなら何でも言って・・・か」
先ほどの彼の言葉に私はボソリと呟いた。
確かに困っている、と言えば激しく困っている。
むしろどう断ったほうがいいのだろうか?などと思っているのだ。
話すべきなんだろうけど、話してしまえばきっとバニーのことだから
機嫌を悪くしかねない。
何せ一番最初に約束事を取り付けたのはバニーの方なのだから
エミリーやジェーンとの事は断って当然だ。
言いたいのに、言えなくて。
困っているけど、困らせたくなくて。
「あー!!もう!!どうすればいいのよぉ〜」
バニーの居ない部屋で私は大声で叫んだ。
残り少ない日。
私はどうしたらいいのでしょうか?
Life is full of ups and downs.
(”有為転変は世の習い“人生とは浮き沈みが激しいのです)