「何でこうなったの?」
「いや、もう・・・なんて言うか」
バニーの誕生日前。
私とカリーナはバニーのマンションの前に立っていた。
「なんて言うかじゃないわよ!!」
「うにゃぁあ!?」
途端、隣に立っていたカリーナが
凄まじい形相で私の両頬を引っ張り始める。
あまりに突然のことで驚くし、私はというとその手を振りほどかずされるがまま。
「ちゃんとバーナビーに話しなさいって私言ったでしょ!!何でこういう状況になってんのよ!!」
「だっ・・・だっふぇ(だって)、だっふぇぇえ(だってぇえ)」
「だって何よ?」
頬を引っ張られたままでは喋れないと分かったのか
カリーナは手を離した。
一方の私は、引っ張られた頬の痛みを和らげながら彼女を見る。
「き、昨日バニーに話したら・・・」
それは、先日に遡る。
バニーにエミリーとジェーンの事を言って
何か知恵を借りようと必死に頭の中で模索していた。
椅子に座ってコーヒーを飲むバニーの顔をジッと見つめていると・・・・・・。
「どうしましたか?」
「え?!あ・・・あの、あのね・・・」
「はい」
言わなきゃいけない。言わなきゃいけない。
頭の中で何度も何度も繰り返している。そして私は意を決して――――――。
「あ、明日友達が此処に遊びに来たいって言ってるんだけど・・・あげちゃ、ダメかな?」
言った言葉が自分の言おうとしていた言葉とは
まったく裏腹すぎて、思わず「私のばかぁぁぁぁぁぁあ!!!」と心の中で
叫んでしまった。
私の思いがけない発言に目の前の彼は目を見開かせながら驚きつつも
何故かすぐにふんわりとした笑顔を向けながら・・・。
「別に、構いませんけど」
怪しんで下さい!!って大声で言いかけた。
喉元でその言葉が止まってしまい、どうすることも出来なかった。
口から出てしまった言葉に急いで訂正をかけようとするも・・・。
「僕は構いませんけど、バーナビーと一緒に住んでいる・・・ということだけは探られないようにしてくださいね。
一応僕も自分のモノとかはクローゼットの中に隠しておくので」
「ぅ、ぅん」
「が友達を呼ぶなんて、珍しいことですし・・・何かケーキでも買ってきましょうか?」
「い、いいよ!!そういうのは私がするから・・・っ」
「あ、そうですよね。僕が現れたりしたらそれこそバレちゃいますからね僕らの関係が」
「そ、そうだよバニー。ケーキとかいらないから大丈夫」
「分かりました。でも、あんまり散らかさないようにしてくださいね」
「は、はーい」
ひと通りその話を終えると、彼は椅子から立ち上がり
「じゃあ僕は会社に向かいますんで」と行って、其処を去っていった。
残された私はというと、もう自分の情けなさに落胆するしかなかった。
「ちゃんと言わないアンタもアンタだけど、怪しむことすらしないバーナビーもバーナビーだわ。
揃いも揃ってアンタ達おめでたいカップルよ」
「ホント、すいません」
そして今現在。
マンションの前で私とカリーナは此処にやってくる
エミリーとジェーンを待っていた。
「ー!カリーナ!」
すると、私達を呼ぶ声。
階段をゆっくりと上がってくるエミリーと、その隣を歩くジェーンの姿が見えた。
私とカリーナは階段を登り切った2人を出迎える。
「ふぇ〜・・・ゴールドステージのマンションはやっぱりひと味違うね」
「ていうか、いつも思うけどバニーさんの職業が謎すぎる」
「ゴールドステージのマンションに住むくらいだもん、きっと若手実業家とか資産家の息子とかよ」
「あー成る程ね」
2人はマンションの外観を見つつ、そんな話をする。
しかし、彼女たちは知らない。
此処に住んでいるのは超スーパーヒーローのバーナビー・ブルックスJrということを。
そしてそんな彼と私が同棲していることも。
「ていうか、このマンションって・・・バーナビーの住んでるマンションと似てない?」
「言われてみれば。前、確か単独ドキュメントあったよね」
「!?」
ふと、ジェーンがそんな事を言い始めた。
あまりに意表をつくような言葉だったので私はおろか隣に居たカリーナまで肩が動いた。
しかし、此処でやりとりをしてしまってはマズイと思い
私は何とか頭をフル回転させ、エミリーとジェーンの背中を押す。
「と、とにかく部屋に入ろう。バニーは仕事で居ないから」
「お!ようやくお部屋拝見ね」
「バニーさん居ないほうが作業が捗るってもんよ」
何とか話題をそらすことが出来て
二人の背を押しながらマンションの中へと皆で入るのだった。
「あら、意外に何もない」
「ホントだ」
「元々はバニーの部屋だもん。私の私物なんて、微々たるものだよ」
部屋に辿り着き、リビングに上げると2人は辺りを見回すかのように
首を動かしていた。
元々は彼の部屋であるし、必要最低限のモノを考えたらこうなった部屋に
エミリーとジェーンは物珍しい物を見るかのように部屋を見ていた。
「寝室とかどうなってんの?」
「一緒に寝てるんでしょ〜?見せて見せて!」
「ダ、ダメ!!寝室は散らかってるし、バニーがダメって言ったから・・・っ」
寝室に行こうとした2人を私は止めた。
流石に寝室まで足を踏み込まれたら、確実に私が誰と住んでいるかバレてしまう。
そうなってしまえば元も子もない。
「部屋の主に止められてるなら仕方ないか」
「しょうがないけど・・・あ、それよりバニーさんのビックリパーティの計画立てよ!!」
「本来の目的忘れるところだった。テーブル借りるね」
「う、うん」
何とか寝室に行くのを阻むと、2人はテーブルでパーティの計画を話し始めた。
はしゃぐ2人を他所に私とカリーナは思いっきりため息を零した。
「心臓に悪い」
「今日、何かずっと疲れそう。お茶入れてくるね」
「じゃあ私はこっちで2人見張っとくから」
「うん、ありがとうカリーナ」
そう言い残し、私はフラフラとしながらキッチンへと向かい
おもてなしの準備をしに行くのだった。
キッチンに入り、私はもう一度ため息をこぼす。
こうなったのは自分が原因でもあるし、最初からバニーに話さなかったのも悪い。
でも、今更2人の誘いを断るわけにも行かない。
だからと言ってバニーのを断るわけにも行かない。
本当に今更ながら自分の優柔不断さに呆れ返ってしまうレベルだ。
「はぁ、お茶淹れよ」
そう呟き、いつも通りキッチンでテキパキと動き始める。
軽いお茶菓子くらい残っていたよね、と頭の中で思いながらお皿に並べていくと
突然後ろから不安を掻き消すようなぬくもりを感じたのは、言うまでもなかった。
It never rains but it pours.
(”降れば土砂降り“何でこうも運が悪いのだろうか?)