「うーん」
「どうしたバニー？」
「あ、虎徹さん」
一人悩んでいると、虎徹さんが
僕が座っている向かい側の席に腰を下ろし話しかけてきた。
「実は、が部屋に友達を呼びたいと言って」
「ブルーローズじゃねぇの？」
「いえそうではないみたいです。ブルーローズさんとは別のお友達らしいです」
「それって大丈夫なのかよ？」
「え？何がですか？」
虎徹さんの言葉に僕はきょとん、としてしまう。
大丈夫なのか？と問いかけられて、僕自身意味がよく分からなかった。
「いや、一応お前との関係は公になってねぇわけだろ？」
「はい」
「其処に、ブルーローズじゃねぇ他のやつを連れ込んでも大丈夫なのか？って聞いてんの。
もしバレたりしたらアニエスから大目玉どころの問題じゃねぇぞ」
「一応、僕だと分かる私物は隠してきました。むしろ、寝室にさえ入らなければ問題無いと思います。
それにがヘマをするなんて考えられませんよ。虎徹さんみたいにドジを踏む子じゃないんですから」
「お前･･･今、サラッと俺の心に刺さる一撃浴びせやがったな」
抜かりはないはずだ。
自分のモノは隠してきたし、ある程度のモノは大体
寝室のクローゼットに入れてきた。
だから寝室にさえ入らせなければ問題はない。
まぁがそんなドジを踏むような子ではないから、大丈夫だろう。
「まぁ、アイツの事だし大丈夫なんだろうけど。･･･ていうか、お前何で悩んでたんだよ？」
「ああ。そうでしたね。虎徹さんが話しかけてくるから本題が逸れそうになりました」
危うく本来、僕が悩んでいるであろう事から逸れてしまいそうになったが
何とか軌道修正をして話を元に戻した。
「何か買っていってあげたほうがいいかなぁ、と思いまして」
「は？」
「いや、友達を呼ぶならやっぱりそれなりのおもてなしをしてあげなきゃいけないじゃないですか。
がブルーローズさん以外の友達を呼ぶってなったから、ケーキか何か買っていってあげるべきかなぁと」
「お前･･･自分の立場分かってる？」
「心得ている方です」
「心得ているもクソもねぇよ」
そう言いながら虎徹さんは机に突っ伏した。
僕はそんな彼の姿に溜息を零しながら、椅子から立ち上がる。
「大丈夫ですよ虎徹さん。こっそり置いてくるつもりですから」
「お、おいバニー･･･どこ行くんだよ」
「ちょっと野暮用ですよ」
そう言って僕はその場を去り、彼女の友人達のおもてなしのために
ケーキを買いに行くことにした。
でも、は「買わなくていい」と言っていたが
僕自身気になっていた。
連れてくる客人が･･･僕の知らない男の子、ではないのかと。
友達、と言うほどだから女の子をイメージして当然だ。
だからといって、全部が全部･･･女の子とは限らない。
近づいてほしくないような素振りで言うものだから、余計気になってしまっていた。
ケーキを買ってこっそり様子を覗けは問題はない。
彼女の気付かれないように、キッチンのテーブルにケーキを置いておけば
多分分からないだろう。
そんな思惑を引き下げて、僕は適当に見繕ってもらったケーキを持ち
マンションへと車を走らせた。
手にはケーキショップの箱を持って、そっと扉を開けた。
部屋の中に入ると、中から女の子の声が聞こえてくる。
リビングの前を通ると聞き慣れた声、･･･ではなくブルーローズさんの声が聞こえてきていた。
彼女の声が聞こえない、と思っていたら
何やらキッチンのほうで物音がする。
もしかしたら、キッチンに一人で居るんじゃ？と思い
足音を立てずにそちらのほうに忍び歩む。
すると、キッチンで一人ブルーローズさんを含む客人分のお茶の準備をしている最中のを見つけた。
今なら一人。
は一人。
『お前･･･自分の立場分かってる？』
ふと、虎徹さんの言葉が過った。
ええ、分かっていますとも。
自分がスポットライトを浴びるヒーローで、彼女が一般人。
普通なら手の届かない相手だというのも、お互いリスクの高い恋をしていることも。
でもね･･･好きな人を目の前にして、何もしないのってなんかそれこそ
歯がゆいじゃないですか？
てきぱきと動く彼女の後ろ姿に誘われたかのように、僕はゆっくりと近づいていくのだった。
It is time to set in when the oven comes to a the dough.
(”据え膳食わぬは男の恥“その後姿に誘われているようで、何だか引き下がれなくて)