―――――PRRR・・・ガチャッ!





『もしもし?』



。僕です」



『あ、バニー』



「今何処ですか?」



『もうフォートレスタワーだよ。でも、こういうところで食事しても大丈夫かな?』



「デートではなく、親族を案内してると言えば大体信じますし大丈夫ですよ。
僕ももう着きますから」



『うん。じゃあ待ってるね』





通話を切断して、僕は車を目的の場所へと発進させた。


ようやくやってきた31日。
前日まで何だかんかで自身がキツイ状況に
陥っていたのだが、何とかそれも解決して今日は2人っきりの食事。


街はハロウィン一色で浮かれている。


もちろん僕の心も、浮かれている。




と一緒に居れる・・・そう考えただけで、浮かれないほうがおかしいくらいだった。

















「いらっしゃいま・・・あっ」



「すいません、2人なんですけど」





フォートレスタワーの展望台レストランに着くと
入り口に立っていた女性ウェイトレスが僕に気づいたのか頬を赤く染め、見つめていた。






「あ、あの」


「ぁっ・・・も、申し訳ございません。お、お二人様ですね。では席に」


「すいません、良かったら人目があまりつかない席がいいんですけど。今日は親戚の子を連れてきているもので」






背後に居るに気づいたウェイトレス。

そんな彼女の視線には会釈で自分の存在をアピールした。
僕の言葉巧みな誘導に女性ウェイトレスは「あ、そうでしたか。こ、こちらへどうぞ」と
何やら安堵の表情を浮かべながら席へと僕らを案内していく。


案内された席は本当に死角といえる場所で他のお客さんには見えない。



僕は椅子に座ろうとするの椅子を少し引いてあげた。







「大丈夫ですか?」



「うん。ありがとう・・・バーナビーお兄ちゃん」



「・・・いいえ、どういたしまして」







ふんわりと笑みを零したに、僕も笑顔で答え
自分の席にと着く。

一瞬「バーナビーお兄ちゃん」とか言われたから驚いたが
今此処では僕とは「恋人」ではなく「親族」という関係になっている。

きっと下手を踏んではいけないというなりの気遣いだろう。


メニューを見るに、僕もメニューを見ながらもをチラチラと見ていた。





どれを食べようかと、悩む仕草。


美味しそうな料理を見つけると、目を輝かせ見る。


甘いデザートのページを指で選ぶ、幼気(いたいけ)な女の子。




可愛くて、可愛くて。








「?・・・どうしたの?」



「え?・・・あっ、い、いえ」








見つめていたらと視線がぶつかった。
あまりの突然のことで僕は思わず言葉を濁し、視線をメニューにと戻した。

目の前の彼女は「変なの」と言いクスクスと笑いながら再びメニューに目をやる。



先ほどの「バーナビーお兄ちゃん」と呼ぶ声といい、可愛らしい仕草といい。
の事を並べたら尽き果てることはないだろう。



本当・・・僕は相当に溺れているのが分かった。







「(こういう事を考えるのを少しくらい控えないと・・・歳を一つ重ねたんだから)」






なんて自分に言い聞かせてみるものの、明日になれば
結局いつも通りのを慈しむ自分に戻るのだから何度も言い聞かせても無駄だと思った。







「あ、そうだ。今日誕生日でしょ・・・はい」





食事を頼んで、その頼んだものが机に並び
2人でその料理に舌鼓をしている最中。

が誕生日プレゼントを僕に差し出してきた。

少し大きめな袋。



僕はそれを受け取る。







「ありがとうございます。中は何ですか?」


「開けてからのお楽しみ」






ウキウキとした表情で僕が袋の中を開けるのを待つ
そんな彼女の表情に笑みを浮かべ、袋を開け中を見る。







・・・コレは」







袋の中に入っていたのは、白のライダージャケットだった。

シンプルだけど何処かスタイリッシュで見た目からしても
もちろんデザインも僕好みだ。







「新しいジャケット。似合うかなぁと思って」


「こんな立派なもの。ありがとうございます」


「今着てるのもカッコイイけど、それもそのうち着てね」


「ええ。むしろ明日から着ていっても良いくらいです」


「ダメダメ!!明日から着て行っちゃダメ!は、恥ずかしいからやめてよ」






明日からに貰ったジャケットを着て行こうかと言うと
彼女は顔を真っ赤にしてやめてほしい、と言ってきた。

まぁブルーローズさんの前でこれを見せびらかした日には
お怒りの氷の礫(つぶて)が飛んでくることが間違いないのでやめよう。

もう少し時間が経ってからにしたほうが無難だろう・・・なんて考えるのだった。















「会計を済ませますから、先に駐車場に」


「うん」




食事をひと通り終えて、僕はから貰ったプレゼントを片手に
彼女をエスコートしつつ、レジカウンターへと向かった。

そして会計をするためにだけを先に駐車場へと下ろした。






「あ、あの」


「はい?」






すると、レジカウンターに立つ少し若い女性ウェイトレスが話しかけてきた。








「先ほどの女の子は?」


「親戚の子です。こっちに観光でやってきたので食事に誘っただけです」


「あ、成る程。てっきりバーナビーさんの恋人なんて想像しちゃって。
でもあの子じゃ若すぎですよね。ヒーローでも流石に年下の子とお付き合いとかヤバイですもんね」


「え・・・ええ、まぁ」






中々意表を突くような言葉の嵐に、心臓が緊張して高鳴る。

下手に僕との関係がバレてしまえば
一大スキャンダルは免れないし、のことまで露見されてしまう。

双方僕としては避けたい思いだ。






「また、いらしてください。カードのほうお返しします」


「ありがとうございます。では」






会計を済ませ、ポケットの中に手を入れる。








「あ・・・車のキーを渡すの忘れてた」







僕としたことが。

を先に駐車場を向かわせたのは良かったが
肝心の車のキーを彼女に渡すのを忘れ、自分で持っていたことに気づく。

僕は少し小走りで、エレベーターに向かい
丁度此処まで上がってくるエレベーターの方に並び
レストランへ向かう人と入れ違うかのように、中に入り込み駐車場へと向かうのだった。














、すいません・・・・・・あれ?」




駐車場の自分の車の所に向かうもの姿がなかった。

確かに先に下ろしたはずの彼女。
入れ違いになったわけでもないし、何かあるなら電話を入れるはず。










「・・・っ、ぅ・・・ふっ・・・ヒック・・・っ」






ふと、聞こえるすすり泣くような声。
助手席のドア側に向かうと――――――。












「バ、バニー」







は膝を抱えており
声をかけると泣きながら顔を上げた。

だが、愛らしい顔に似つかわしくない涙と右頬に赤い跡。


僕はすぐさま駆け寄り彼女と目線を合わせ
腫らしている右頬に触れた。







「一体何があったんです?」


「先に降りようとしてたら・・・エレベーターの近くで、女の人達に絡まれて・・・頬、叩かれた。
親戚の子だか何だか知らないけど、馴れ馴れしいって・・・それで」


「僕の過激なファンの仕業か。すみませんでした。君を一人で下ろしたのは僕のミスです。
君にこんな思いをさせてしまって・・・痛かったでしょう」


「バニーッ」








抱きついてくるを僕は受け止め抱き返した。


今回は出動はなかったものの、ホント僕の誕生日は厄介なことだらけだ。



誕生日で嬉しくても、それを祝ってくれた
こんな風にさせられたら嬉しいものも嬉しくはない。






「僕が食事に行こうなんか行ったから、君に嫌な思いを」


「え?い、いいんだよバニー。だって、バニーのお誕生日でお願いだったんだから。
それに、昨日までパーティとかの事黙ってたわけだし・・・これくらいの報いは受けるべきなの。
私が泣いたりしたからバニーはそう思ったのよね、ごめんね・・・でも私は大丈夫だから」












目にうっすらと涙を浮かべながらも優しく微笑む


ああ、その優しさに包まれたい。

包み込んで欲しい・・・僕も、心も、体も、全部。










「ん?」


「だったら僕の報いも受けてくれますか?」


「え?」












君の、その、体と心・・・全部で。


















「はぁ・・・」





シャワーを流しっぱなしにして
体に熱い水を浴びながら僕はため息を零した。


水とため息が反響して、浴室に響く。


冷たい壁に寄りかかり、ぼんやりと考える








『ぁっ・・・やぁ・・・バ、バニィ・・・ッ』







耳に残る熱の篭った声。








『んっ、ぁん・・・ああっ、あっ・・・ぁあん!!』








熱を受け止める幼く華奢な体。









『バーナビーッ・・・ぁ・・・好きッ・・・好きッ』






身震いしてしまいそうなほど、止めどなく溢れる愛情。




繋がる体。

交じ合う吐息。


思い出せば、思い出すほど・・・僕の心はという存在で満たされていく。







「歳を重ねても、愛情は深くなるだけ・・・だな」





そんな事を呟いて、失笑。

あまり長い事引きこもるのも体に良くないと感じ
シャワーを止めて浴室から出ることにした。




程よく体を拭き上げ、の眠る寝室に戻る際
玄関先に置きっぱなしの袋。

先ほど彼女がくれた僕の誕生日プレゼント。





「僕がどれだけに夢中か丸わかりじゃないか」





ふと中を見る。

白いライダージャケット。








『新しいジャケット。似合うかなぁと思って』









試しに羽織ってみた。

サイズもピッタリ、申し分ない。







「でも、今着るにはやっぱり惜しいから・・・そのうち着ますね





ジャケットを元の袋の中に戻し、それを持ったまま
彼女の眠る夢の中へと向かうのだった。




程なくして、僕はそのジャケットに袖を通すことになったのは言うまでもない。



Love is love's reward.
(”愛は愛の報い“その愛はいつの日か報われる)
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