とある日。
時間に余裕が出来たので僕は寄付をしている
施設へと足を運んだ。
が来ているはずだから、彼女との時間も出来て
一石二鳥だな、などと思っていたが―――――。
「あ、バニー」
「お〜!ジュニア君じゃん。仕事終わった感じ〜?」
「・・・・・・」
其処にはと子供達だけかと思ったが
何故か、何故かライアンが和気あいあいとと子供達の輪の中に溶け込んでいた。
彼の存在に思わず眉が動いた。
「何で居るんですか、ライアン」
「ん〜?嬢ちゃんに会いに来たんだけど、嬢ちゃんがどこかに行く感じだったし
えらく大荷物持ってたからな。バイクに乗っけて此処まで連れてきたってわけ」
「少し多く買い物しちゃって困ってたところにライアンさんが通りかかってね。
悪いと思ったんだけど連れてきてもらったの」
「いいっていいって嬢ちゃん。困った人を助けるのがヒーローってもんだろ?」
「フフフ、そうですね」
ライアンの言葉には笑いながら答える。
そんな2人の光景に更に僕の眉は動く。
自分の知らない間に、の隣を
彼女を密かに狙っている男に取られた気分になり、胸の中に苛立ちが募る。
ふと、床に散りばめられた色とりどりの折り紙に気づく。
子供達とライアンはその折り紙を折り、一方のはというと何か縫い物をしていた。
「何をしてるんです?」
「あ?知らねぇのジュニア君?もうすぐハロウィンだろ?その準備だよ準備」
「ああ、もうそんな時期ですか」
ライアンの言葉にそんな時期か、と言葉が零れた。
一部に本格復帰をしてからというもの。
忙殺に遭っていた僕は、相変わらず日付の感覚をすっかり失っており
彼の口から「ハロウィン」という単語を聞くまで、そのイベントの存在すら忘れていた。
「皆がハロウィンパーティしたいからって言ってね。その準備の荷物を運んでたの」
「。そういう事は言ってくれたら僕が運びましたし、わざわざ部外者であるライアンの手を煩わせる事ありません」
「ジュニア君。相変わらず俺のこと敵視しすぎだろ」
「地方に行ったくせに、に会いたいが為度々やって来る君を見たらそう解釈するしかないですよ」
自分なりに正論を述べたまでだ。
ライアンはすでに「過去の人」であり「街を去った人」で、そして「部外者」でもある。
だが、度々彼がこの街に舞い戻ってくるには一つしか理由がなかった。
に会いに来る、理由はただ、それだけだった。
珍しい土産やら何やらという口実で
ライアンはに会いに来ているのを僕は知っている。
いや、分からないと思われちゃ困る。
僕の知らない所で、愛しい彼女が他の男と会っていると思うと気が気じゃないのは事実だ。
正直今だって、同じだ。
の頼る先が僕ではなく、ライアンだったというのが凄く腹立たしい。
「、少し話があります」
「ん?何?」
苛立ちが治まる気配が見られず、今と二人っきりで
話をしなければ多分どうしようもない気持ちが暴走しかねないと悟った僕は
縫い物をするに声をかけた。
布を縫う彼女の手が止まり「二人で話が」と言葉を続けようとした瞬間。
手首に嵌めたPDAが痛々しい機械音を立てて鳴り響き始めた。
PDAを見ると「CALL」の文字が浮かび上がり、それは出動命令を僕に促していた。
こんな時に、と心の中で呟き
部屋を一旦出て、応答した。
アニエスさんから伝えられた指示を聞き、通信を切り再び部屋に戻る。
「すいません。僕・・・」
「いいよ、行ってらっしゃい」
「話は帰った時にでも」
「うん。気をつけてね」
「はい。ライアン、くれぐれもにちょっかいを出さないでくださいね」
「わーってるって。ホラ行った行った」
そう行って僕はや子供達に見送られながら、其処を後にして
事件が発生した街へと戻った。
車に乗り込み、エンジンを掛ける手が止まる。
そして車の中から施設を見上げた。
「何だかまた、逆戻りした気がする」
一部の、虎徹さんとの本格復帰をは大いに喜んでくれた。
しかしそれは「以前の生活」に戻ってしまったことを意味していた。
だから僕はライアンが少しだけ羨ましいのだ。
時間の縛りもなく、行動して、の側に居れることが。
二部に居た頃はそれが当たり前だったけれど、一部に戻ると時間は限られてくる。
と過ごす時間も、側にいる時間も。
そして―――――――。
「31日か。今度こそ、穏便に過ごせる自信ないな」
10月31日。
ハロウィンと同時にやって来る僕の誕生日。
と共に祝う僕の誕生日も、今回ばかりは過ごせそうにない気がしてならない。
それだけが不安で。
だから、時間に余裕のあるライアンに八つ当たりをしてしまう自分がいる。
「はぁ・・・・今年はもう無理だと思って諦めるべきかな」
そう呟いて、僕は車を発進させた。
帰ってからに僕の誕生日のことやライアンの事を話そうかと考えていたが
何だか色々考えていたらそういう気が段々と失せ始めてきたから、やめることにしようと思った。
軽く言葉を濁せばも納得はしてくれるだろう。
それまで「濁せるような言葉」を僕は頭の中から探し始めるのだった。
Hoeny is sweet,but the bee stings.
(”蜜は甘いが蜜蜂は刺す“悪い結果を避けるための口実を考える僕が居た)