「アニエスさん」
「!・・・・あら、何でライアンまで居るの?」
数日前の事を思い出し、私はライアンさんのバイクに乗せてもらい
アポロンメディアの傘下であるOCBにとやって来た。
受付でアニエスさんを呼び出して貰うと
すぐさまエントランスにアニエスさんがやって来た。
しかし、私の姿だけではなく
今は街に身を置いていないライアンさんまで居たことにかの人は驚いていた。
「休暇だよ、きゅーか。俺にも休みは必要だからな」
「あっそ。それで、まさかあの件を引き受けるとか言い出すんじゃないんでしょうね」
「そのまさかです。今、どうしてもお金が必要になって」
「お金が必要なんて、貴女にしては珍しいわね。いいわ、とりあえずシェーンを呼び出すわね。
がやる気になったって言えばすっ飛んでくるだろうし」
「ありがとうございます」
するとアニエスさんは携帯を取り出し、シェーンさんにと電話をかけ始める。
多分数分どころかものの数秒でシェーンさんは此処へとやってくるだろうという予想がついた。
「なぁ嬢ちゃん。あの件って、何?つか、何で此処?」
「まぁ、すぐに分かります」
後ろからライアンさんがヒソヒソと話しかけてきたので
私は苦笑を浮かべながら彼の問いかけに答えた。
「意味分かんねぇ」という声が聞こえてきたが
シェーンさんが来たら「あの件」の正体も分かることなのだから
私が言う必要も無いだろうと思っていた。
「うわぁぁあ!!やっぱりさんは天使だよぉおお!!
ありがとうございます天使様ぁぁあ!!」
「きゃっ!?」
「シェ、シェーン!?」
アニエスさんの連絡を受け
アポロンメディアの会社からシェーンさんが飛んでやってきた。
やって来るや否や、彼女は大声を上げ
私に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっとシェーン!落ち着きなさいよ」
「あ、ごめんごめん。あまりの嬉しさに抱きついちゃった。
え?ちょっ、な、何でゴールデンライアンが此処に居るの!?つか、本物?!」
「本物だっつーの」
私を体から離すと、私の背後に立っていた
ライアンさんの存在に驚き、そしてまるで舐め回すように彼を見ていた。
その視線にライアンさんは「な、何だよ」と言い戸惑っていた。
何だかシェーンさんのその視線、見覚えがあり
私を見て、アニエスさんを見る。
しかもその目は何だかキラキラと輝きを放っていた。
その視線にアニエスさんは片眉を釣り上げ
口端が何度か動いていた。
「シェーン。何考えてるの?」
「復活が盛り上がりそうな気がして。丁度、もう一人ほしいと思ってたんだ」
「ライアンを起用するって言うの?」
「いいじゃない。海外のヒーローを起用しても、スポンサーに承諾していただければ
問題はないだろうし。ねぇ、ゴールデンライアンさん」
「あ?お、俺?」
突然話を振られたライアンさんは戸惑うしかない感じだった。
しかし、私はなんとなく予想がつき始める。
「ちょっと。起用するとは言っても、他に居ないの?」
「だってバーナビーにお願いしたんだけど、マネージャーのロイズに時間が合わないって言われて断られたのよね。
他に頼もうと思ったんだけど、なかなか思い当たる人が居なくって。むしろイメージに合わないっていうか?
もう、そしたら・・・・・・居たじゃない、ピッタリな人が」
「何で俺を見るんだよ」
「ゴールデンライアン。ちょっと私と話をしましょうか!さぁ、こっちに来て!!」
「は!?ちょっ、は?お、おい!!」
そう言ってシェーンさんはライアンさんの腕を引っ張り何処かへと連れて行った。
私は嫌な予感がして、かの人の動きを止めようとしたが
アニエスさんに肩を掴まれ動きが止まる。
「え?ア、アニエスさん!?シェーンさん、止めないとライアンさんが」
「ああなったシェーンは誰にも止められないわ。ライアンには気の毒だけどまぁ、いいんじゃない。
それに相手役にバーナビーを起用されるよりマシだと思うけどね」
「ま、まぁ確かにそうですけど」
本当にライアンさんは気の毒のように思える。
私が連れてきたばかりに、巻き込まれることになるとは思いもよらなかっただろう。
連れてきた私は驚いているが、一番驚いているのはライアンさん本人なのだから。
しかし、裏を返せばバニーを起用されるより安心してもいいのかもしれない。
彼は私のモデルの姿を知っているのだから
撮影現場で鉢合わせ、ともなれば確実に何だかんだと言われてしまう事は目に見えている。
「それで?」
「はい?」
「この前は私やシェーンが頼み込んでも頑として断ってたのに
どういう風の吹き回しかしら?」
アニエスさんは腕を組んで私を見て言葉を言い放つ。
数日前の私と言動と今の私の言動はあまりにも違いすぎているからだ。
不審に思っても仕方がない。
私はこの人になら話してもいいと思い、口を開いた。
話を終えると、アニエスさんは「成る程ね」と感嘆の声を上げた。
「だったらバーナビーの起用は無くて正解ね」
「ですけど、ライアンさんを巻き込むのはちょっと」
「いいのよ。たまにはちゃんとした仕事させなさい。むしろ、私達を散々引っ掻き回して
跡を濁しまくってこの街を去っていったんだから、これくらいのアクシデントかつ報いを受けるのは当然じゃない」
「アニエスさん」
本当にアニエスさんという人は誰に対しても容赦無い。
そんないつもの事に私は苦笑を浮かべていた。
すると、アニエスさんは私の肩に手を置いた。
「あまり日が無いだろうし、むしろシェーンの仕事の締め切りが近いだろうから
大分押せ押せでの事が多いかもしれないけれど我慢してね。私もなるべく、貴女の事や
2人のやってる慈善活動のバックアップするし、今回の報酬にしても、シェーンにはよく言っておくわ」
「よろしくお願いします」
「まぁ、ロイズやバーナビーには悪いけど・・・この仕事断ったこと後悔させてやりましょ。
むしろライアンの起用は大きいわ。あの兎に目にもの見せてやる」
「アニエスさん、やたらやる気になってません?」
「あら。だってやる気にもなるわよ、なんて言ったってモデル・エンジェル様の限定復活なんだから」
そう言ってアニエスさんは片目をウィンクさせ
任せなさい、と言わんばかりの自信を見せてくれたのだった。
Fine feathers make fine birds.
(”馬子にも衣装“そして私は再びファインダー越しの別の『私』になるのだった)