「お姉ちゃん、ありがとう!」
「これでバーナビーのお誕生日もお祝いできるね!」
「皆が喜んでくれたのが何よりだわ」
お給料を貰って、私は施設に向かい
子供達に自分が手にしたお金を少しずつに分け与え
それらで街に出て買い物から戻ってきている道だった。
子供達は嬉しそうに貰ったお金で、バニーへの誕生日プレゼントを買っていた。
「後はケーキだね!」
「ケーキはライアンさんが大きいの、買ってきてくれるって言ってたわ」
それを伝えると子供達は更に喜ぶ。
ライアンさんは一旦、自分の腰を置いている地に戻り
またしばらくしたら戻ってくる、といって街を再び離れていった。
その際に「ケーキは俺に任せとけ!」と言い残して行った。
とりあえず、ハロウィンとバニーのビックリパーティの準備は着々と出来上がっていた。
子供達の手を引きながら、施設の門をくぐる。
すると出入口でシスターが何やら困惑の表情で動き回っていた。
「シスター。どうか、なさったんですか?」
「ああ、さん!ようやく戻ってきたんですね」
私が声をかけると、シスターは少し安堵した表情を浮かべながら近寄ってくる。
もしかしたら長いこと子供達を出歩かせたのがマズかっただろうかと思い
私はすぐさま謝罪の言葉を零す。
「すいません。長い時間、子供達を出歩かせてしまって次からはもう少し早めに」
「いえ、そうじゃなくて」
「え?」
連れ回した事を咎められるのかと思いきや、シスターの言葉はそうではなかったらしく
私は首を傾げた。
「バーナビーさんが、いらっしゃってて」
「バニーが?」
「さんは居ないか、と。子供達と出かけてると言ったら、じゃあ待ちますって仰ってて。
あまり時間も無いのに彼が待たれるというのは、何かあったんじゃないかと思いまして」
「す、すぐ行きます」
シスターの言葉に、私は子供達から手を離し
彼が待っているであろうシスターの部屋に足を急がせた。
確かに彼が「待つ」というのは珍しい。
私が此処に来ている時でも、顔を少し出してはすぐに戻ることが日常茶飯事だ。
それだというのに彼がそんな行動をするのは明らかにおかしいと、誰もが思って当然だった。
シスターが困惑した面持ちで動き回っていたのも頷ける。
もしかしたら随分待っていたのかも、と思うと更に私の足は早くなる。
ようやく部屋の前に来て呼吸を整え扉を開けた。
「バニー、居る?私だけど」
声を掛けながら扉を開けると、バニーが振り返り私を見つめる。
しかし部屋に入り彼の表情がいつもより冷たいと感じた。
いつもなら「ああ、シエル!」と喜びに満ちた声と嬉しそうな表情で出迎えるのに
今はそれが全く見られずむしろ、冷め切っていた。
明らかにコレは何か怒っているのではないかと思い
私は恐る恐る訊ねる。
「ど、どうしたの?何か、怒ってる?」
「怒りを通り越して、既に呆れ返ってます」
「え?」
彼の言葉に胸がざわつき始める。
「何で、僕との約束を、破って・・・またモデルをしたんですか。
君はしないと僕に頷いてくれたじゃないですか。それなのに、どうして」
「そ、それは」
本当なら、約束を違えないつもりだった。
だけど子供達の願いを叶えるためにはどうしても必要だったことを
言えるわけもなく私は黙りこむ。
「僕の愛って、そんなに重いですか?」
「え?」
「だからライアンを受け入れたんですか?」
「ち、違う・・・そんなんじゃ」
「じゃあなんで彼がキスをしたとき拒もうとしなかったんですか!!
それってつまり、僕よりも彼が良いという事を意味してる」
「ライアンさんとキスって・・・。違うの、バニー、アレは」
何か誤解をしているように思えた私は、自分の言葉に耳を傾けてほしく
荒れ狂う彼の腕を掴んだ時だった。
「触るな!!」
「っ!?」
腕に触れた瞬間。
私の手は振り払われ、彼は私との間に溝を作り始めた。
「触らないで、ください」
「バニー・・・違うよ、話を聞いて」
「聞きたくない。君の話なんて聞きたくない。
僕との約束を破った挙句、その体を誰かに委ねた君の話なんて・・・聞きたくない。
しばらく、僕に顔を見せないでください。電話もしないでください。君の姿も見たくないし、声も聞きたくない」
「・・・・・・バニー」
「話はそれだけです。仕事があるので」
そう言って彼は私の顔を避けるようにして、部屋を去っていった。
私はというと力が抜け
その場に座り込んだ。
手を見ると、震えていた。
そして零れ始める涙。
「、お姉ちゃん?」
「バーナビーと何かあったの?」
「みんな」
すると、扉の外から私とバニーのやりとりが外まで聞こえていたのか
子供達が心配そうな面持ちで部屋の中を覗いてきた。
私は必死で笑顔を取り繕い
目から溢れ、零れ始めた涙を拭う。
「ご、ゴメンね。な、何でもないよ」
「でもバーナビー怒ってた」
「お姉ちゃんの事、酷いって言って怒ってたよ。
もしかして、お姉ちゃん・・・僕達のこと」
今更何を言ってもバニーは私の声に耳を傾けてくれない。
むしろ、こうなってしまった以上と言う言葉のほうが正しいだろう。
子供達のために彼との約束を違えたことも。
ライアンさんとのあの事も。
何を言っても、誰が言っても、彼から完全に拒絶された私の心は救われない。
「大丈夫。お姉ちゃんは、大丈夫だから」
「お姉ちゃん」
必死の笑顔で子供達の頭を安心させるよう撫でるけれど
目からは悲しみの涙だけが流れ、心はズタズタに壊れてしまっていた。
Time lost cannot be recalled.
(”盛年重ねて来たらず“失われた時は取り返せないというのだろうか?)