『トリック・オア・トリート!!』
「よく出来ました。じゃあ皆にお菓子さし上げて」
「はい。皆順番に並んでくださ―い」
「順番にお菓子をあげるからね」
10月31日。
私は子供達を仮装させて、色んな場所へと赴いていた。
そして今現在アポロンメディアの傘下にあるOCBのエントランスホール。
アニエスさんとメアリーさんとケインさんがお菓子を持って待ち構えていた。
子供達は嬉しそうにメアリーさんとケインさんから
お菓子をもらっていた。
「すいません、アニエスさん。無理をお願いして」
「いいのよ。たまにはこういうのもしてあげなきゃ。他は回ったの?」
「はい。許可を貰って、カリーナとネイサンと、あとパオリンの所は行きました。
生のヒーロー達に会えて皆大喜びしてました。3人も慈善活動もヒーローとして当然だからって言って」
「そう」
子供達の喜ぶ姿を見る傍ら、私はため息を零した。
この後のことを考えると少々億劫になるからだ。
「。バーナビー、まだ怒ってるの?」
「え?・・・ああ、多分。というか、絶対って言ったほうがいいかもです」
隣に立つアニエスさんの声に私は苦笑を浮かべながら答えた。
『顔も見たくない』と言われた日からもう大分経ってしまって
今日という日を迎えてしまったのだが、彼が怒っているのは分かりきっていること。
だから、億劫なのだ。
この後施設に戻ってバニーの誕生日パーティの準備をしなきゃいけないということに。
下手をしたら彼と鉢合わせ、ということも無くはない話だ。
「言えばいいじゃない。子供達のためにしてました、って」
「ですけど、ライアンさんとのあの写真の事はどう説明すれば」
「何アイツ?あのウソの絵、マジでキスしてるって信じてるの?」
「怒って顔も見たくないって言うくらいですから。結構信じきってます」
「呆れた」とアニエスさんは言葉とため息を同時に零した。
あの写真のキスは嘘だよ、なんて言っても
今の私の声は彼の耳には届かない。むしろ聞き入れたくない、と言う方が正しいだろう。
今更どう弁解すれば彼が納得してくれる答えが導き出せるのかがもう分からなくなっていた。
「この後、施設に戻ってパーティの準備をするのが億劫です」
「じゃあ子供達を施設に戻して、だけ戻ってくればいいじゃない」
「シスターにお料理を頼まれて。子供達も私の作る料理楽しみにしてるからって」
「頼まれてちゃ仕方ないわね。なら、手っ取り早く作って施設を出ることね」
「それしか方法はないですか、やっぱり」
やはり、手っ取り早く事を済ませてその場を退散するしかないらしい。
自分でも引き受けた後この事に気付いたが
断ろうにも子供達のことを考えたら、断れなくなり、結局今日という日が来てしまった。
「いっそ、これを期にして・・・バーナビーの部屋を出れば?」
「え?」
アニエスさんの言葉に私はかの人を見た。
「別に、別れろとは言わないわ。アイツが誤解している以上、そのうち修復する関係だろうし。
でもね、貴女とバーナビーじゃやっぱり住む世界が違うのよ」
「で、ですけど」
「ごめん、言葉を誤ったわ。少し距離を置きなさい、って私は言いたいの。
住む場所を別々にして、程よい距離になればいいのって事なの。私の言ってること、分かるわよね?」
「・・・・・・はい」
「貴方達2人は住む場所も同じだし、距離があまりにも近すぎるわ。
これを期にしてバーナビーの部屋を出て、一人暮らしするなり考えてみたら?相談くらいならいつでも乗るわ」
「・・・はい、ありがとう、ございます」
アニエスさんが一通り話を終えた所で、子供達が
お菓子をたくさん持って私のところに戻ってきた。
私は暗い顔を悟られないように、すぐさま笑顔を取り繕った。
「みてみて、お姉ちゃん!お菓子いーっぱい貰ったよ!」
「私もみてー」
「良かったわね。じゃあ、そろそろ戻りましょうか。パーティの準備もしなきゃ」
『はーい』
陽気な返事に子供達は歩き出す。
「」
ふと、声を掛けられ振り返る。
アニエスさんが腕を腰に当て、いつものポーズで私を見ていた。
「よく、考えなさい」
「はい。今日はありがとうございました」
その言葉を胸に、私は子供達とOCBを後にして
施設へと戻るのだった。
私は子供達の手を握り、歌を歌いながら
施設へと戻る道を歩いていた。
「お姉ちゃん」
「ん?」
すると、1人の子供が私に声をかけてきた。
「バーナビーと仲直りした?」
「え?・・・・・・うぅん。バニー、まだ怒ってると思うから仲直り出来てないの」
「そっか」
その問いかけの答えに子供は落ち込んだ表情を浮かべた。
私は膝を曲げ目線を合わせる。
「ありがとう。気にかけてくれて」
「ごめんね。僕たちの為に」
「いいの。ホラ、もうすぐお家に着くから、帰ったらパーティの準備してね。
私はお料理を作らなきゃ」
「うん!」
立ち上がり、子供に手を引かれ
もうすぐ辿り着くであろう施設に足を進めようとしていた。
「動くな」
「!?」
すると、背後。
背中に向けられた拳銃の、銃口。
その瞬間私の動きが止まる。
首を少し動かし、後ろを見ると狼の被り物をした人が立っていた。
声からして男というのもそれはすぐに分かった。
「ガキはそのままにして、黙って付いて来い。悲鳴でもあげたりしたら、ガキを1人ずつ殺す」
「・・・・・・っ」
”殺す“という言葉に私の抵抗は鈍らせられた。
私の動きが突然止まったのか、子供達が不思議そうな顔でこちらを見る。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「後ろの狼の人誰?」
「お姉ちゃん。ちょっと用事思い出したから、先にお家に戻ってて。
戻ったらすぐご馳走たくさん作るから」
「う、うん」
そう言って子供達を自分の側から引き離した。
子供達は不審に思いながらも、施設へと戻っていく。
「何が、目的でしょうか?」
「それは、付いてきてからのお楽しみって事だよ!」
瞬間、男は持っていた拳銃で後ろから私を殴り
私はというとその痛みから意識が段々と遠のいていった。
その後、自分がどういう状況に陥ってたのかなんて
次に目が覚めるまで知りもしなかった。
I left everything to him.
(”下駄を預ける“遠のく意識の中、後の事を彼に任せることにした)