今日は絶対にに謝らければ、と思い
居ても立ってもいられず僕は虎徹さんと共に施設へとやって来た。
多分彼女のことだから僕のことを避けると思っていたが
生憎仮装をした子供達と、外へ出かけているため会えなかった。
だが、その変わりの人間が居た。
「・・・・・・・・」
「おいおい、そう睨むなってジュニア君」
「睨んでません。見てるだけです」
「アンタのその目つきは睨んでるって言うーの」
ライアンが居た。
子供達の居ない部屋で1人、窓の外を眺めている彼に僕たちは遭遇したのだ。
彼を見た瞬間。
底知れぬ怒りだけが沸々と湧き上がり、思わず目でそれが出てしまった。
「本当に、貴方はどれだけ僕との関係を引っ掻き回せば気が済むんですか」
「お、おいバニー。言い過ぎだって」
「は?別にしてねぇだろ、んな事。何?ジュニア君、あの写真の事で怒ってんの?」
写真の話題を出され、怒りは頂点に達し
僕はライアンの胸倉を掴んだ。
「バニー、落ち着けって!」
「怒って当然だろ!が何も言わないことを良いことに、其処に漬け込んだ。
僕がどんな言葉を言って彼女を傷つけたと思ってるんだ!!それもこれも全部ライアン、貴方のせいだ!!」
どんな言葉で彼女を傷つけた、なんて自分でも思い出したくない。
は子供達のためにモデルの仕事を引き受けた。
僕との約束を違えたとしても、は子供達の喜ぶ顔と僕の驚く顔が見たかったに違いない。
それを考えたら、ライアンに対して怒りしか僕にはなかった。
「してねぇよ」
「は?」
「嬢ちゃんとキスはしてねぇって」
「お、おいライアン何言ってんだよ」
「何言ってるって、マジな話してるんだけど俺」
途端、ライアンが口を開き始める。
しかしその口から出てきた言葉に僕はおろか虎徹さんですら疑い始める。
だが目の前の金髪の男は至ってそれを「本当の話」と言い張る。
その言葉に僕の手の力は緩み、ライアンはいとも簡単にそれを振り払った。
「疑うようだったら、あの女プロデューサーに聞けよ。アイツもその場に居たんだからな」
「アニエスさんが?」
一番信頼出来る人物の名前を上げられ、段々と彼がへのキスが
未遂のモノだという事が現実味を帯びてきた。
今から確認を取ると、明らかに僕はを咎めた事をきっかけに
アニエスさんから怒りを買うに違いない。
「嬢ちゃんに八つ当たりしてねぇか心配してたけど
その反応からすると嬢ちゃんに手酷く当たったな」
「あ、あんな写真見たら誰だって」
「だからって当たる相手間違えてるだろ。何で嬢ちゃんに当たるんだよ。
俺も悪いことしたって反省してる。でも、ジュニア君当たる相手間違えてる。当たるなら俺に当たれって―の」
「・・・・・・・・・・」
ライアンの言葉に僕は何も返せなかった。
ようやく、全ての事柄が見えた。
これはに避けられても、話をするしか今の僕には方法がない。
「大変!大変だよバーナビー!!」
「コテツ!!コテツ大変大変!!」
「ライアン!お姉ちゃんが、お姉ちゃんが・・・っ!!」
「え?が!?」
「お、おいがどうしたってんだ」
「何があったお前ら」
すると、仮装した子供達が慌てて僕達に言い寄る。
しかも子供達の口からは「」の名前。
子供達の表情からして、尋常ではないことが確か。確実に彼女が何かに巻き込まれたことを暗示していた。
「お姉ちゃん、狼に連れて行かれちゃった!!」
「え?お、狼?」
「狼の被り物をした男にお姉ちゃんが連れ去られたんだ。
僕見たんだよ!!お姉ちゃんが車で連れて行かれるの!!」
子供達の言葉を聞き目眩が起きそうになった。
何故もっと早くに彼女の声に耳を傾けてあげなかったのだろうと
本当に自分を何度も責めたくなるほどだった。
「とにかく、警察に」
「バーナビーさん!」
すると今度はシスターが部屋の中に急いで入ってくる。
その手には受話器。
嫌な予感がして、それが現実として現れ始める。
「さんを誘拐したと、男の人から」
受話器を差し出され、確実に「誰かに代われ」という指示なのだろう。
僕はそれをゆっくりと受け取り耳に当てた。
「もしもし?」
『女を誘拐した。返して欲しければ1億シュテルドル用意しろ』
「・・・時間を、くれ」
『金は払うんだな。分かった、また連絡する』
簡単な通話をして切断し、僕は虎徹さん見た。
「が誘拐されました。多分金目的でしょう。
とにかく警察にこの事を連絡して、アニエスさんに報道線を張ってもらうようしてください。
犯人の場所が特定できるまでテレビ中継は避けるように」
「お、おおう。分かった」
僕の説明で虎徹さんは急いでアニエスさんへと連絡を入れた。
此処までの指示は上手く行ったが、を連れ去った犯人達を探すのは骨がいる。
車で連れ去られたけれど、子供達が犯人たちの乗った車のナンバーまで覚えてはいないだろう。
「ジュニア君」
すると、ライアンが僕に声をかけてきた。
「俺にも手伝わせてくれ」
「ライアン」
「あんたら引っ掻き回したのは結局俺だからな。今回はタダで働いてやるよ」
「そうしてもらわないと困ります。君は迷惑だけを残して去っていくんですから」
手厳しいねぇ、という彼の言葉に僕は笑いながら携帯を取り出した。
その瞬間――――思いつくのだった。
『ボンジュールヒーロー。
私の可愛い可愛い娘を誘拐した悪い狼達にキツイお灸を据えて頂戴』
『了解!』
『さぁ!始まりましたHERO TV!!
なんと今回誘拐された少女をヒーロー全員が助けるという。
犯人はハロウィンらしく狼の被り物をした集団との情報。
しかも、今回はな、な、なーんと!!ゴールデンライアンがやってきたぁああ!!
偶然街を訪れていた彼も加え、誘拐犯達を捕らえ、少女を助けるヒーローは誰だぁああ!』
数時間後。
僕達のシエル救出という捕物劇の生放送が始まった。
各々ヒーロースーツを纏い
またライアンも自分が以前身につけていたヒーロースーツの予備で参加する事に。
高速を僕と虎徹さんのダブルチェイサーと、ライアンのバイクが駆け抜ける。
「しかし、考えたなバニー。の携帯のGPS使って犯人を追跡するって」
「つか、すぐにそれ思い出すジュニア君も恐ろしいわ」
ダブルチェイサーの隣に乗った虎徹さんとバイクを運転するライアンが声を出す。
最初は彼女の行方が分からず途方に暮れていたが
自分の携帯を見て思い出した。
『じゃーん!新しい携帯に変えたの』
『あまり前のデザインと変わらないように思えるんですけど』
『うん。デザインは変わらないんだけど、コレねGPS付いてるの!
これがあれば、バニーにね私が何処に居るかって分かるでしょ?』
『』
『迎えに来てもらう時便利かなって思って、これにしたの。いつもオンにしてるから
バニーには私の居場所すぐ分かるね』
『ええ』
僕のためにGPS付きに変えたの携帯の機能を思い出し
すぐさま彼女の位置情報を確認した。
すると、案の定・・・地図上を赤い丸が何処かに移動していた。
しかも徒歩ではないスピードで。
明らかにそれは車か何かに乗っていると分かり、アニエスさんに連絡を終えた虎徹さんに説明をして
すぐさま全員に連絡を回し、各々を連れ去った犯人達の追跡を始めた。
『男共には悪いけど・・・を助けるのは私なんだからね!』
「ブルーローズ!?」
「おいおい、先越されちまうぞ?」
「いえ、足止めくらいは彼女にしてもらいましょう」
すると、ブルーローズさんが一足早かったのか犯人達の車に追いついたらしい。
『私の氷はちょっぴりコールド。貴方の悪事を完全ホールド!!』
『出たぁぁああ!!ブルーローズのフリージング・リキッド・ガン炸裂!!
犯人グループを乗せた車が――――止まらず、進み続けたぁあ!?コレは一体どういう事でしょう!?』
「はぁあ!?」
「おいおい、足止めも出来てねぇじゃねぇか!!」
「タイヤに何か細工でも仕掛けてたんでしょう。恐らくこういうことを予想して」
「淡々と喋ってる場合じゃねぇだろうが!こうなりゃ俺達で止めるぞ!!」
ブルーローズさんが足止めに失敗した、となると
確実に次に近いのは僕達3人という事になった。
ふと、犯人たちの車の後ろを走りながら気づく。
トランクが微妙に開いている。其処から見える僅かな人影。
「虎徹さん!トランクにワイヤーを当ててください!」
「はぁ?何で!?」
「いいから早く!」
「ったく、しゃーねぇな!!」
そう言って虎徹さんがワイヤーガンをトランクに向け、放った。
だが―――――。
「あら?」
「(何でこういう時に限って・・・!!)」
「おいオッサン!何やってんだよ、そこタイヤだろうが!!」
虎徹さんのワイヤーはトランクから離れ、何故か後ろのタイヤにと当たった。
しかも当たったと同時に衝撃でタイヤが割れて、車が右往左往と暴走を始めた。
そして、手薄とされるトランクの扉がおもちゃのワニのようにパカパカと開き
最終的には壊れて、蓋が取れてしまった。
蓋が取れて数秒後。
其処から人が放り出され、宙を舞う。
その見覚えのある姿に、僕はハンドルから手を離した。
「虎徹さん、運転頼みます」
「は?えっ!?」
虎徹さんに無理やり後の運転を任せ、僕はバイクを踏み台にして飛び上がった。
「!」
「んっ・・・・・・バ、バニー?」
放り出され、宙を舞っていたのはだった。
僕はようやく彼女を腕にと抱き、安堵する。
『おーい、ジュニア君。あと片付けちゃってもいいか?』
「いいですよ。後は好きにいたぶってください」
『なら、遠慮なく!』
瞬間、ライアンが能力を発動させ
犯人たちの車を思いっきり重力でヘコませ、暴走を止めた。
僕はジェットパックの力を緩めながら、ゆっくりと降下する。
「」
に声を掛けると、彼女は一旦は僕を見るもすぐさま顔を背けた。
そんな仕草をされて心を痛めないわけがない。
地に足がつき、僕は彼女を地上へと降ろした。
するとブルーローズさんがすぐさまこちらにやって来て、に抱きつく。
「〜!無事?無事よね?何処も怪我してない?」
「大丈夫だよブルーローズ。ありがとう」
「私が助けるはずだったのに、ゴメン」
「いいよ。心配してくれてありがとう」
そう言いながらブルーローズさんはの安全のために
自分のトレーラーへと連れて行く。
楽しげに友人と話す彼女の後ろ姿を僕は見届けるしか出来なかった。
「相変わらずの誕生日だなバニー」
「ホント。誕生日は踏んだり蹴ったりばかりで嫌になります」
「ワリィ。掛ける言葉もねぇわ」
「いいんですよ、別に」
少しくらい穏便に過ごしたいものだ、なんて望む事こそが浅はかすぎるが
を無事に助け出せた事が何よりも良かったことだけにしようと、思うのだった。
Make haste slowly.
(”走れば躓(つまづ)く“急いでる時ほど事に当たらないと大変なことになる)