『バーナビー!お誕生日おめでとう!!』
子供達の楽しげな声と、盛大なクラッカーの祝福に顔が綻ぶ。
「ありがとうございます。こんなに素敵な誕生日は初めてですよ」
僕の言葉に子供達は嬉しそうにしていた。
一人一人から僕のために選んだ誕生日プレゼントを貰い
腕の中には抱えきれないほどの綺麗な箱があった。
こんな風に貰ったのは初めてで、それだけで胸が温かくなる。
それから皆で食事をしながら、ライアンが持ってきたケーキを分け合う。
楽しげなパーティ会場ではあるけれど
其処には居なかった――――の姿だけ。
首を何度横に振ったか分からない。
を求める僕だけれど、やはり「顔も見たくない」という言葉が響いているのか
彼女は昼間の事件後から姿を見せていない。
溜息が零れ、窓の外を見る。
ふと、暗闇に動く人影。
僕は手に持っていたお皿をテーブルに置いて、部屋を急いで出る。
背後から虎徹さんや子供達の、僕を呼ぶ声が聞こえたけれど
今の僕にはそんな声を聞き入れる余裕は微塵もなかった。
外に出ると寒さを主張するかのように白い息が出て
僕の姿を捉えると、人影は性急に動き出した。
「待ってください!――――」
人影に声を掛けると、動きが止まる。
段々と近づき人影の姿をはっきりと目に映す。
暗くても分かる、後ろ姿。
紛れも無く、それはだった。
「中に入りましょう。こんな所に居ては寒いでしょうし」
「い、いいよ。もう、帰るつもりだったし」
「何処に帰るというんですか。ブルーローズさんの家ですか?それともアニエスさんの家ですか?」
僕の言葉には黙り込んだ。
彼女に帰る場所が無いことくらい分かっている。
分かっているからこそ、そんな言葉たちで逃げ道を失くした。
切なく佇む後ろ姿に、僕はゆっくり近付く。
「私、決めたの」
「え?」
の言葉に進んでいた足が止まる。
決めたという言葉に心臓が酷く高鳴り始めた、それも嫌な方向に。
「一人暮らし、する」
「」
「こうすればバニーと顔合わせなくて済むし。貴方にだって迷惑かけることもなくなる。
こうした方が良いんだよバニー。こうした方が、お互いの為になるから・・・だから・・・ッ」
微かに動く肩に、僕は駆け出し後ろからを抱きしめた。
「僕の誕生日に、なんて事を言うんですか君は」
「だって、こうした方がいいよ。こうした方がバニーの迷惑にも」
「君が僕の側から離れる方が余程迷惑です。唯でさえ、君はまだ自分の能力も十分に使いこなせてないくせに」
「それは自分で何とかする」
「怪我をしたり、倒れたりしたら、それこそ他の人に迷惑がかかります」
「バニーじゃないからいいよ」
「いいえ、いけません。そういう迷惑は僕だけにしておいてください」
体に感じるのぬくもり。
腕に感じるの涙。
自分は彼女といるだけで安堵して、彼女を傷つけただけで不安にさせていた。
この涙は深く傷つけた彼女はおろか自分をも不安にさせていた証拠だ。
「色々と、すいませんでした」
「ぇ?」
「子供達やライアンから聞きました。の事。
僕が顔も見たくないなんて言ったから君は敢えて僕から離れるような事を言ったんですね?」
「・・・・・・っ」
「本当にすいません。いつも君を傷つけ泣かせてばかりでいて。
こんな僕に愛想を尽かして君が一人暮らししたい、なんていうのも分かる気がするんです。
でも、僕は君を離すことなんて出来ない。離れることなんて出来ないんです。
僕にとっての帰る場所は、だから」
子供達から理由を聞いた後。
マンションに帰り、暗い部屋を眺めた。
殺風景で冷たい「箱」そのもの。
今まで温かく感じていたのは其処に「」という大切な人が
居てくれたからだと気づいた。
其処にが居てくれたから、僕はあの場所に帰ってこれた。
其処にが居続けてくれていたから、僕は何度でも帰り着くことが出来た。
でも、もし其処にが居てくれなかったら――――。
「あの部屋はもう僕の帰る場所ではなくなる。
其処にが居てくれて、初めて僕の帰る場所で、居場所になるんです。
あたたかく、優しい天使が僕を迎えてくれる、そんな場所になるんですよ。もう、いい加減理解してください。
君が居なければ僕が僕でいれなくなりそうで怖いんですから」
「バニー・・・ッ」
「ああ、シエル」
が振り返り、僕へと抱きつく。
僕もまた彼女を力いっぱい抱きしめた。
「ごめんなさい。ごめんなさい、約束破って。でも、でも・・・ッ」
「いいんですよ。子供達のためという君の気持ちは分かりましたから」
「ごめんねバニー」
「もう謝らないでください。僕だって君を傷つけた事を謝らなければならないんですから。
さぁ、とりあえず中に入りましょう。僕の誕生日パーティにはやはり君が居ないと始まりません」
そう言いながらの肩を抱いて、中へと入る。
「あのね、バニー」
「はい?」
「お誕生日おめでとう。今年はうんと幸せな日だね」
「。相変わらず事件とか踏んだり蹴ったりですけど、とても幸せな日になりました」
「来年くらいは無くなるといいね、誕生日の日に出動」
「さあどうですかね。犯罪者も僕達ヒーローも年中無休ですからね。穏便に過ごしたい、とは言えません」
そうだね、なんては笑ってみせた。
そんな彼女の顔を見つめ、彼女もまた僕と視線を合わせる。
「でも、僕の帰る場所にが居てくれたらそれだけでいいです」
「バニー」
「来年も同じ日に、僕の側に君が居てくれることを願って」
僕はに今日という日の幸せを分け与えるかのように、口づけをしたのだった。
Judge of other's feelings by your own.
(”我が身をつねって人の痛さを知れ“同じ痛みを知って、君の痛みも知る)