その日の午後。
オフになった僕はの居る孤児院にと姿を現した。
暫く子どもたちと遊んでいると
が立ち上がり、買い物かごを手にする。
「じゃあ私、夕飯の材料買いに行ってくるね」
「、気をつけて。あまり荷物が多くなるようでしたら電話下さい。
僕も向かいますから」
「大丈夫だよバーナビー」
「私達もお手伝いするから」
「あら?お手伝いしてくれるの?ありがとう」
そう言って子供数人を連れて彼女は夕食の材料を買いに町にと向かった。
彼女の居なくなった部屋。
残された子どもたちと僕は他愛も無い話をしながらお喋りをする。
しかし、そんな合間に零れるため息。
「バーナビー、どうしたの?」
「え?・・・ああ、大丈夫ですよ何でもありません」
子供に訊ねられるも、何でもないと言葉を濁し笑顔を向けた。
「バーナビーさん」
「はい」
するとシスターに声を掛けられ振り返る。
かの人は何やら手招きをして、こっちに来るよう促していた。
僕は立ち上がり、シスターの方にと向かうと
「ちょっとよろしいですか?」と言われたので、僕は返事をして
部屋にと向かった。
「何やら随分物思いに耽っていらっしゃるみたいですね」
「僕、顔に出てますか?」
「子供達が気づくくらいにはね」
指摘され苦笑。
僕の異変は誰にでも目に見えるくらいの事だったらしい。
自分ではうまく隠し通せては居たけれど
やはり分かる人には分かってしまうんだな、と自分の行動を改めることにした。
「お仕事で何かトラブルでも?」
「そういうわけではないんですが、のことでちょっと」
「さん?さっきまであんなに和やかに会話されてたじゃないですか」
「いえ、喧嘩とかそういうのじゃなく・・・・・・」
隠し通しても無駄だと思い、僕はポケットに入れた小箱を出した。
「彼女に婚約を申し込もうと思って」
「まぁ素敵じゃないですか!さん、きっと大喜びしますよ」
「それはそれで嬉しいんですけど・・・・タイミングが中々掴めなくて」
タイミングが掴めないから今も指輪は渡せずじまい。
箱に入ったまま綺麗に飾られているだけだった。
彼女の指にいまだそのリングは嵌っていないのだから。
「成る程。此処連日の物思いはそれでしたか」
「すいません。自分事ですよね、ちょっと顔に出すぎてました」
「いいんですよ。原因が分かっただけでも対処の仕様はありますから」
「え?」
シスターの言葉に僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。
対処の仕様とは一体何を考えていたのだろうか、と僕自身困惑している。
「そろそろバーナビーさんお誕生日ですよね」
「あ、はい」
するとシスターが今月末誕生日を控えた僕に言ってきた。
今年は忙しさはあったものの
誕生日をはっきりと覚えていたので、特に驚くことはなかった。
「お誕生日の日に、さんに指輪渡したらどうでしょうか?」
「僕の誕生日に・・・ですか?」
「自分が生まれた日に、大切な人に思いを告げるというのもいいと思いますよ?
結婚の約束をするなら尚更・・・さん、きっと驚くことでしょう」
「が、驚く」
いつも誕生日は僕が驚かされてばかりだった。
それを考えたら、僕の誕生日に彼女を驚かせるというのも面白いかもしれない。
いやこれはまたとない機会(チャンス)だ。
むしろ何で今まで思いつかなかったのだろうか、と思うほど。
またとない機会が僕には残されていた。
自分の誕生日に彼女を驚かし、結婚の約束をする。
「子供達にもさんには内緒で手伝ってもらいましょう」
「シスター・・・ありがとうございます」
「いいえ。貴方やさんにはいつもお世話になってばかりです。
何かお返しが出来るのであれば」
「そんな。僕も彼女も自分達が好きでやっていることです。お返しなんて」
「させてください。お二人の幸せのためにも」
「シスター」
そう言って彼女は手を合わせて叩き
「これから忙しくなりますよ」と僕に励ましの言葉を掛けてくれた。
日取りは決まった。
10月31日。
その日までに何事も無く
そしてに気付かれること無く
段取りをして僕の誕生日に告げよう。
『僕といずれ、結婚して欲しい』
その言葉と、その証として、ずっと秘めていた誓いのリングを渡そう。
『シスターただいまー!』
『お姉ちゃんのお手伝いしてきたよー!』
『バーナビー!コテツ連れてきたー!』
『だーかーら!ワイルドタイガーって言ってんだろ!』
『タイガーさん』
「しばらく騒がしくなりそうですね」
「はい。よろしくお願いします」
A king's word is more than another man's oath.
(”鶴の一声“その一声で僕の予定が決まった)