『もう少しだけ、待っててくださいね』
その言葉が少し引っかかっていた。
「何を待ってて欲しいんだろ」
昨晩バニーと体を重ね眠っていたが
途中で目が覚めた。
だが、彼が私の手を握り指に口付けを施すものだから
起きるのも忍びないと思い寝たふりをしていた。
そんな時に彼の口から零れてきた言葉がその言葉だった。
何を待っていて欲しいのか分からず
私はキッチンに立って考え込んでいた。
「。スクランブルエッグが焦げますよ」
「え?・・・あっ、いっけない」
バニーに言われ私は慌ててフライパンの中に入れたスクランブルエッグを
お皿にと移した。いつもは半熟状態のスクランブルエッグなのだが
私が考え事をしている内に、卵は固まってしまい
パラパラの状態にとなってしまった。
「うぅ、ゴメンバニー・・・スクランブルエッグ固くなっちゃった」
「構いませんよ。火の前であまり呆然としないようにしてください。怪我のもとになりますから」
「気をつける」
「こっちは僕が食べますね」と言ってスクランブルエッグのお皿を持って
彼はリビングへと向かった。
ため息を零し、冷蔵庫を開け卵を取る。
割ってかき混ぜてる間も考えてしまう。
彼が一体何を待っていて欲しいのかを。
もしかすると、此処連日の考え事は
その待っていて欲しい「何か」なのかと思い込んでいた。
彼にそれを訊ねようとも考えたけれど
うまい具合にはぐらかされてしまうかもしれないと思い
何も聞けずに居た。
「(考え過ぎだよね、私)」
そう言ってボールに溶いた卵をフライパンに乗せて
半熟のスクランブルエッグを仕上げ、彼の待つリビングにと向かうのだった。
「気にしすぎなんじゃない」
「そうかな」
昼時。
いつものようにカリーナとお昼を食べていた。
私はバニーの言葉を話すと
彼女はフォークを小さく円を描くように振り回していた。
「何に対して待っててくれって言ってるのか分からないんじゃ、気にしすぎよ。そんなの」
「でも、最近バニーなんか悩み事も多いし・・・もしかしてヒーロー辞めるとかじゃないのかなって」
「アイツがヒーロー辞めるなら私は私で万々歳よ。ランキング上がるし」
「そうだけど」
彼がもしかしてヒーローを辞めるのでは、と考えてしまう。
だが彼に限ってそんな事はないだろうし
そうとも限らないわけだ。
「それに、アイツがヒーロー辞めたら・・・それこそとの時間があるって喜ぶところよ。
この前の有給だって・・・アイツ有給明けたらヘラヘラした顔で
との時間をダラダラと喋るもんだから殴りたくなったわ」
「ご、ごめん」
「とにかく・・・気にしすぎ。待っててくれって本人がそう呟いたんだったら待ってやれば?」
カリーナにそう言われ頷いた。
やはり気にし過ぎなのだろう。
それにバニー本人が「待ってて」と言ったのだから
彼の言葉に従い待っている方が無難なのだろうと思った。
これ以上口出しをしてしまえば、彼の機嫌を損ねるかもしれない。
そう考えたら私は口を閉ざし、彼が「何か」を話してくれるまで待つ事にしよう。
「ただいま」
学校が終わり、夕飯の買い物を終えた私はマンションへと帰ってきた。
帰宅の声を上げても帰ってこないことは重々承知。
リビングのドアを開けてもバニーは居ない。
少し休んでから夕飯の準備をしよう、と思いテーブルの脇に荷物を置いた。
ふと、テーブルに置かれた小さな小箱が目に留まる。
「何だろこれ?」
それに手を伸ばしゆっくりと開けた。
其処に入っていたのは・・・・・・一つのリング。
お洒落にしてはシンプルすぎるシルバーのリング。
「バニー・・・もしかして、これ」
誰かにあげるもの?
私じゃない誰かに渡すもの?
違う。もしかして、誰かに渡されたもの?
まさか、彼が最近悩んでいるのはこれせい?
段々と思考が嫌な方向にと走り始める。
『すいません、ちょっと忘れ物をして』
ふと玄関から聞こえてきたバニーの声。
私は小箱を閉じること無く開いたまま彼が来るのを待っていた。
教えて。
このリングのせいで、貴方は悩んでいるの?
私に「待ってて」と言う言葉はもしかして私から離れる為の時間を必要としてるだけ?
教えて。もう、訳が分からなくなりそうなの。
Sooner named, sooner come.
Talk of the devil, and he will appear.
(”噂をすれば影“思っている所にやってきた、彼。この後私は思ったことを言えるだろうか)