「マズい。指輪、テーブルに置きっぱなしにしてきた」





駐車場に降りた時に気付いた。

ポケットの中にいつも入れていた婚約指輪の入った小箱。
違和感を感じ、中に手を入れると小箱が無いことに気づく。

駐車場から慌てて部屋にと戻る。

玄関の扉を開けると、其処に綺麗に並んだ学校指定の靴。のもの。

帰ってきていたのかと思いながら
僕は慌てて自分が戻ってきたことを声を上げて告げた。




「すいません、ちょっと忘れ物をして」





そう言いながらリビングにと向かうと
が今にも泣きそうな顔で僕を見ていた。

そして彼女の手には―――――小箱。しかも蓋が開いている。


予想だにしなかった光景に僕は一気に焦りだした。





「バニー・・・・これ」





の口からその言葉が零れた瞬間
僕は急いで彼女の手から、小箱を取り上げポケットの中にと入れた。


あまりに突然の事だったが、未だの手は小箱を持った態勢のまま固まっていた。


僕は彼女から目を逸し
何事もなかったかのようにわざと服の裾を正した。





「それ・・・何?」


「その、これは・・・・」





何かいい言葉を返して彼女を納得させなければと思い
脳内をフル回転させ言葉を探した。

しかし何も良い言葉が出てこない。この時ばかり
いつもなら働く自分の思考回路を怨みたい気分だった。





「ねぇ、その中に入ってる指輪って・・・」


「これは・・・その、ブルーローズさんにちょっと」


「・・・・・・・」





咄嗟に出てきた言葉は何故かブルーローズさんだった。


彼女関連だったら何かの小道具とかそんなものと思ってもらえればと思い
僕の口から出てきたのだろうけれど、もう少し言葉を付け足したほうがいいかと思ったが
これ以上下手なことを言って話を拗らせたくなかった僕は言葉を止めた。

一方のも僕が何も言わないのか、黙りこんで此方を見つめている。


流れる沈黙。

それを破る方法を今度は脳内で探していた。





「カリーナになんだ、その、指輪」


「え・・・えぇ。まぁ」


「そっか。なら・・・いい」


「その・・・・・・すいません。急いでますのでこれで」


「うん。気をつけてね」





ぎくしゃくとした空気を放り出して僕は部屋を去った。

駐車場に再び降りて
自分の車の元にと行き、大きく息を吐きだした。

何とかやりきった証拠である。


生きた心地がしない、とはまさにこの事だろう。


自分のミスとはいえ彼女に指輪を見られてしまった。
だが、何とか切り抜けたは良かったがもう少し良い言葉があったに違いない。

ドラマの小道具とか、人から預かったものとか、色々あっただろう。

なのに「ブルーローズさんにちょっと」と言うと明らかに誤解を招きそうな言い回しだ。


はそれで納得してくれただろうけど
空気が全くそんな感じではなかった。






「戻ってきてからもう少し言葉を改めて言わなきゃ」





指輪を見られてしまった以上仕方がない。

しかし「何の指輪」かまではバレてはいないはず。
とにかく仕事から戻り次第、には改めて説明をしなければ。

何とかミスを取り戻すべく、僕は車にと乗り込み仕事にと向かった。












「バーナビー!見てみて、これお姉ちゃんに首飾り似合うかな?」


「とても綺麗ですね。きっとに似合いますよ」




粗方仕事を終えた僕は施設へと足を運んだ。

いつもならの姿があるのだが、今日に限って彼女の姿がなかった。
チャンスとも思えた時間に子供達と一緒に
31日のハロウィンの準備と、そしてを驚かす準備を同時に行っていた。


子供達が折り紙で首飾りを作ってくれたり
王冠を作ってくれたりとして、僕は微笑みながら手伝いをしていた。


するとポケットに入れていた携帯がバイブレーションで
着信を知らせる。

すいません、と一言言って席を立ち、廊下にと出て電話に出た。





「もしもし?」


『あーバニー、俺だ!』


「虎徹さん?どうしたんですか急に」




電話の相手は虎徹さんだった。
しかし何やら声が急いてる感じにも聞こえる。




『お前今何処にいる?』


「施設ですけど、あの」


『あー!!ちょっと急いでトレーニングルームに来い』


「は?・・・あの、一体何が?」




用件も聞かないでいきなり来いというのは
相変わらず虎徹さんらしい言い回しだが、せめて事の順序を説明してほしいものだ。




『だぁあ!もういいから来いって!!と、ブルーローズが喧嘩してんだ』


「え?と・・・ブルーローズさんが?」


『何で始まったか知らねぇけど、が落ち着こうとしねぇんだよ!!いいから来い!!』


「す、すぐ行きます!!」




電話を終えた僕は駆け出した。

シスターと鉢合わせになると、急用を思い出したのでと言って
施設を出て車に飛び乗り、すぐさまジャスティスタワーのトレーニングルームにと走らせた。


嫌な予感が過る。

もしかして、が勘違いをしてブルーローズさんに何かを言いに行ったのでは?

それで喧嘩にと発展しているのでは?





「あー!もう!!・・・何で上手く出来ないんだ」




車の中で一人そんな事を叫びながら、スピードを上げ向かうのだった。



To make shift for the moment.
(”お茶を濁す“濁した結果とんでもない事になっていた) inserted by FC2 system

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