「バーナビー元気ないね。どうしたの?」
「え?」
子供達にそう言われ手が止まった。
目で周りを見れば、子供達が心配そうな顔をして
僕を見ている。
のことで悩んでいるとは
準備を手伝っている子供達に言えたものじゃない。
ましてや此処に来て彼女から「大嫌い」とまで言われたのだ。
この子達に話した所で解決策は見られない。
僕はそれを悟られまいと、にっこりと笑って見せた。
「大丈夫ですよ。少し考え事をしてたんです」
「そうか。でも、そうだよね。緊張するよねやっぱり」
「え?」
「だってもうすぐでしょ?バーナビーの誕生日」
「お姉ちゃんに指輪を渡す大事な日だもんね!」
その言葉が胸に突き刺さった。
確かにもう日はない。指輪の準備は出来ている。
しかし肝心のに僕は嘘をついて「大嫌い」とまで言われてしまった。
本当ならもっといい嘘がつけたはず。
それだと言うのに僕はブルーローズさんまでも巻き込んでしまい
に嫌われてしまった。
そもそもちゃんと、僕が指輪を果たさなかったのが原因だ。
はっきりと渡してしまえばこんな事には。
考えれば考える程無限ループに陥り落ち込んでいく。
「バーナビー、バーナビー大丈夫?」
「シスター大変!バーナビーが何か落ち込んでるよー!」
「最近はずっと泣きっぱなしみたい」
「そうですか」
施設を後にした僕がやってきたのはトレーニングルームだった。
其処で丁度ファイアーエンブレムさんと鉢合わせになる。
「少し話せる?」と言われたので、休憩室に二人で赴きソファーに腰掛け話を始めた。
この人が僕に話すことなんて決まっている。
の事だ。
大嫌いと言われた日以降、彼女がマンションに戻ってくる気配はなかった。
点いている灯りは消えたまま。
「ただいま」と言葉を放っても返ってくるものはなく、虚無。
彼女の事が分かるのは、ファイアーエンブレムさんだけだった。
「今日も学校行くの億劫だって言ってたわ。ブルーローズとも顔合わせづらいって言ってたし」
「毎日、泣いてるんですか?」
「そうね。此処の所毎日。朝起こしに行ったらいつも目を真っ赤にしてる」
「」
彼女が泣いている、と聞くだけで心が痛かった。
全部自分のせいだと悔やんでも仕方がない。
言った言葉は元には戻せないし、傷つけた代償は大きい。
それに今更何を言えば彼女が僕の声に耳を傾けてくれるのか分からない。
「今日何とかブルーローズだけでも仲直りしていらっしゃって、送り出したけど大丈夫かしら」
「私が何?」
「あら、ブルーローズ?!」
すると背後から聞き覚えのある声に振り返る。
制服姿のブルーローズさんが立っていた。
髪を靡かせ、ファイアーエンブレムさんの隣に腰掛けた。
「ねぇ、ブルーローズ。お嬢とは・・・?」
隣に腰掛けた彼女におそるおそる訊ねてみる。
すると僕とファイアーエンブレムさんを交互に見てため息を零した。
「バーナビーの隠れ蓑にされたから、いい迷惑よ。なんで私がと喧嘩なんかしなきゃいけなかったの?
元はといえばどっかの誰かさんがさっさと指輪を渡さないのがいけないんでしょ」
「ちょ、ちょっとブルーローズ」
「返す言葉もありません」
「ハンサムまで」
僕が反論した所で彼女の怒りを買うだけ。
むしろ反論した所で何になるというんだ。僕は彼女を隠れ蓑にした。
そのせいで、とブルーローズさんの仲が険悪になったのも事実。
反論なんてした所でおかしくなるだけだ。
「とは、今日仲直りしてきた」
「え?」
「あら!」
すると彼女の口からとの事が語られる。
「別にアンタの為とかじゃないからね。私は私で、そのあの子に酷い事言ったし。
と楽しく学校生活送りたいから・・・仲直りしただけ。バーナビーの為じゃないんだから」
「それでお嬢は?」
「大泣きしちゃって・・・ホント、手に負えないったらありゃしない」
そう言ってブルーローズさんは笑ってみせた。
も多分、彼女と仲直り出来たことは嬉しかったに違いない。
でも、僕は僕で未だ誤解されたまま。
会って話すら聞いてもらえないような気がしている。
「に・・・指輪の事、話してきた」
「えっ!?」
「ちょっ、ブルーローズ?!!?」
途端、彼女の口からとんでもない事を耳にしてしまった。
あまりのことで僕はソファーから立ち上がる。
ファイアーエンブレムさんも傍らで口を開けて驚いている。
しかし、一方のブルーローズさんは慌てる素振りすらなく
僕を見上げた。
「何の指輪ってトコは話してないわよ。ただ、アンタのための指輪なんじゃないの?ってほのめかしてきただけ」
「それなら、安心・・・・・・してもいいのかしら?」
「そしたら何か思い立ったみたいな顔してた。さて、私そろそろトレーニングに行くわね」
ある程度話を終えるとブルーローズさんは立ち上がり
扉の方にと向かう。すると、其処で一旦止まり此方にと振り返った。
「今後二度とアンタのことで私を巻き込むのはやめてよね。次巻き込んだらただじゃおかないから」
そう言い残し彼女は休憩室を去っていった。
その場に残されたのは僕とファイアーエンブレムさんだけ。
「ハンサム」
「誤解が解けたのなら何よりです。僕も、頑張らなきゃな」
「その粋よハンサム。きっとお嬢、指輪・・・喜んでくれるわ」
「はい」
そう願って、誕生日―運命の日―を僕は子供達と共に待った。
There is no pleasure without pain.
(”苦は楽の種“今の苦しみが、将来の幸福に繋がることを)