「何をしているんですか?」
「あ、バニー。おかえり〜」
部屋忘れ物をして、虎徹さんを下のバイクで待たせて
僕は部屋に戻ってきた。
だが、部屋に戻ってくるなり僕は驚いた。
が宙に浮いていた。
しかも、だけでなくテーブルに置いていた
思い出のおもちゃと、コップがふわふわと・・・まるで無重力状態。
宙に浮いているを僕は見上げていた。
「おかえり〜・・・ではないでしょう。、何をしているんですか?」
「あ、あのね。練習してたの」
「練習?」
宙にふわふわと浮きながら、は僕に言う。
「そう。あのね、テレキネシスって念でしょ?だから、自分の念で浮遊することが出来るかなぁって思って。
お昼、みんなの前でやったんだ」
「それで、出来たんですか?」
「お昼は出来たから、ここでも出来るかなぁってやったら・・・・・」
「降りれなくなったんですか?」
「ごめんね、バニー」
浮きながらは僕に謝る。
僕はため息を零し、浮遊しているを見て
手をさし伸ばした。
「?」
「つかまってください。移動することくらいでしょう?僕の手につかまれば、引っ張りますから」
「う、うん」
僕が手を差し伸べると、はゆっくりと浮遊しながら
手の元にやってきた。そして、手を握り引っ張りそのまま地に降ろそうとした。
が。
「っ、わ」
「わぁぁあ、ど、どうしようっ!?」
「はぁ・・・僕はどうやら、君の能力を甘く見ていたようですね」
「ご、ごめんバニー」
引っ張って降ろそうとしたら、逆だった。
ものの見事にの浮遊力の力が勝り、僕の体は軽々と宙に浮いた。
力には自身があった。
だから、を引っ張って地面に足をつかせるくらいは簡単だと思っていたが
どうやら僕は彼女の能力を甘く見ていた。
というかまだ能力の加減も分からない彼女だからどれくらいの力を出しているのか分からない。
大の大人、しかも成人男性一人を持ち上げられるということは
出している力は相当か、それとも微弱なのか・・・・・それすらも分からない。
「バ、バニー・・・ご、ごめんっ。バニーまで巻き込んじゃって」
「いえ、大丈夫です。でも、無謀に自分でやろうとするのはどうかと思いますよ」
「ご、ごめんなさい」
手を握り合いながら、僕とは宙に浮きながら会話をする。
誰か入ってきたら確実に「何をしているんだこの二人は?」とか思われるだろう。
「君はまだ能力の使い方も、その制御の仕方も分からないんですからむやみに一人でやろうとしないでください。
いくら目覚めた自分の力だからと言って、君が理解しているのは自分の持っている能力だけ。どう使うのかは僕や
虎徹さんとかに聞いてからにしてください」
「は、はい」
怒られたのが分かったのかは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
僕はそんな彼女の表情を見て、握った手を引っ張り自分の元に引き寄せ抱きしめた。
「バニー?」
「別に能力を使うなとは言いません。ただ・・・心配なんですよ君のことが。大好きな君のことが心配だから
こうやって言ってるんです・・・一人でやろうとすると、力が制御できない分暴走する恐れだってあるんですから」
「・・・ぅん」
「だから、もう・・・一人でやろうとしないこと。いいですね?必ず、僕や他の誰かに見てもらいながらやってください」
「ぅん・・・ごめんね、バニー」
「分かってもらえればいいんですよ」
すると、浮遊感が徐々に抜けていくのが分かり、体が下へ下へとゆっくり降りていった。
気持ちが落ち着き始めているのか、少しずつ地に向かって降りていく。
「バニー、降りていってる!」
「騒がないで。降りることだけに集中してください」
「ぅ、ぅん」
降りていくことにが興奮しかかっていた。
だが、此処で彼女の気分が高揚すれば多分逆戻りになると思った僕は
降りることだけに集中するよう促した。
促すと、徐々に降りてようやく地面に足がつく。
同じように宙を浮いていたおもちゃもカップも酷い音を立てることなく静かにその場に転がった。
しかし地に足が着いた途端
少し慣れない感覚に襲われていたのか軽い立ちくらみがし体が少しふらついた。
「バニー・・・大丈夫?」
「大丈夫です。少し慣れない感覚だったので、体がビックリしているんですよ」
「ごめんね。今度からバニーとか皆が居る前で練習する」
「えぇ。その方がいいかもしれませんね。あ、僕・・・忘れ物を取りに来たんで、またすぐ出かけます。
バイクに虎徹さんを待たせているので」
「うん」
そう言って床に転がったおもちゃやコップをテーブルに置き
僕は寝室から忘れ物を取りに行き、再びの居るリビングに戻ってきた。
「じゃあ行ってきますね」
「うん。あ、あのねバニー!」
「何ですか?」
部屋を出ようとすると、が僕を呼び止めた。
僕は振り返り彼女を見ると、頬をほのかに赤くさせていた。
「?」
「あ、あのね・・・さっき、ちゃんと降りれたの・・・バニーのおかげだよ」
「違いますよ。アレは君がちゃんと集中して能力を制御できた証拠です。僕はただ君を落ち着かせただけですから」
「うぅん、バニーのおかげ。あのね・・・バニーの心臓の音、すごく優しい音がしてたから・・・出来たんだよ」
「心臓の、音?」
に言われて、僕は自分の胸に触れた。
心臓の音が規則正しく鼓動している。
するとが僕の目の前に立つ。
「バニーの心臓の音、とっても優しくて落ち着いたの。ありがとう、バニー・・・お仕事、頑張ってね」
そう言って、の唇が僕の唇に軽く触れた。
小さな身長で、精一杯の背伸びをして触れてきた彼女の唇。
触れ合っただけのキスを終えると、は至極嬉しそうな表情を浮かべて僕から離れ――――。
「わ、私寝るね。タイガーさんにお疲れ様ですって伝えといて!じゃあ・・・おやすみなさい」
そう言って、は寝室へと姿を消した。
僕は呆然と立ち尽くし、自分の唇を指で触れた。・・・まだ、熱が残っているのか、痺れるような熱さを感じた。
心臓が、さっきよりもすごく高鳴っているのが
耳に聞こえてくる。
浮遊感が残っているのか、今にも体が嬉しくて浮き上がりそうだ。
「本当に・・・あの子は」
あの子は自分を夢中にさせてしまう能力でも持っているんじゃないだろうか?・・・なんて
思わず考えてしまったが・・・まぁ100%違うだろう。
ただ、あの子に惚れこんで、溺れているだけなのだから。
僕は目を閉じ――――。
「・・・おやすみなさい。・・・・愛してますよ」
そっと、眠りの言葉に愛の言葉を交えて空気中に吐き出した。
フワフワと浮遊しながら、君の心に届くようにと。
そこにあったのは浮遊感か幸福感か?
(フワフワしたのは体だけじゃなく気持ちも?)