「ねぇ、こんな話知ってる?」
とあるお昼の時間。
カリーナの友達であるエミリーが、ある果物を持ち上げ妖しげな笑みを浮かべていた。
私やカリーナは食事をする手を止めて彼女を見る。
「っと、その前に・・・さくらんぼのへた、舌で結べる人挙手!」
「いや、無理でしょ」
「短すぎて結べないよそんなの」
「そうよ・・・いくらやっても、無理だって」
カリーナや私、そしてジェーンは声を揃えて
「無理」だの「結べない」だのと言って、否定していた。
「いや、それが出来る人居るんだって。ちなみに私は出来るわよ。・・・・ホラ」
「へぇ〜凄いね!」
「、マジで感心しなくていいから」
彼女は実のほうではなく、へただけを取り口の中に入れ
数秒してそれが口の中から出てくる。
すると、綺麗に結び目の出来たへたが手のひらに乗っていた。
「ていうか、それと何の意味があるのよ?」
「実は・・・・さくらんぼのへたを舌で器用に結べる人って」
「キスが超上手いらしい」
「え?」
「嘘だ絶対」
「嘘に違いない」
私はその発言に驚き、カリーナたちは疑惑の声を上げた。
思わず隣に居るカリーナをみる私。
「そうなの?」
「嘘よそんなの迷信」
「いや、現に私が出来てるんだから嘘でもないし迷信でもないわよ!ねぇ、!」
「ふ、ふぇ?何?」
すると、エミリーが私の肩に手を置いて迫ってきた。
思わず手に持っているフォークを握る力が弱まりそうだ。
「バニーさん、キスは上手いの?」
「え?!」
彼女の口から出てきた言葉に、やっぱりフォークが手から落ちた。
机に落ちて、床に落ちなかっただけよかったが
あまりの質問で私の顔が赤くなる。
バ、バニーはキスがう、上手いとか・・・あんまり考えたことない。
「ねぇ、どうなの!!」
「ど、どうって・・・」
どうなの?とか言われても、考えたことないし
どう答えればいいのかも分からない私は、隣に座っているカリーナを見る。
「な、なんで私を見るのよ。アンタが問われてる質問でしょうが」
「だ、だってぇ」
どう答えればいいのか分からないんだもん。
考えたことは一度も無い。
ただ、バニーとキスすると体中が溶けちゃうくらいしか分からない。
あれ?それって上手いって言うことなの?
ちょっと考えてみる。
いつもバニーにキスされると、体中が溶けちゃうし
頭が真っ白にだってなることもある・・・ていうか、キスされるたびになってしまう私。
それは上手いという証拠になるのか?
「で、どうなの!バニーさんはキス上手いの?!」
「うーん・・・・・・・意識したことない」
上手いのかどうかすら意識したことが無いから、答えようがない。
「よし!じゃあ今日、帰ってからさくらんぼ食べさせろ!」
「はい?」
「むしろ、さくらんぼの実の部分はアンタが食べていいからバニーさんにはへたの部分!
舌で結び目が出来るかどうかを確かめて明日報告しなさい!コレは命令よ!!」
「えっ、えぇぇえ!?・・・カ、カリーナ助けてぇ〜」
「私に助けを求めないで、自分で何とかしなさい」
カリーナに助けを求めたのも虚しく、私は学校の帰り
素直にスーパーでさくらんぼを少し買って帰ったのだった。
ていうか、バニーのことだし・・・こんな子供じみたことしないだろうと思いながら。
「さくらんぼですか?珍しいですね」
「う、うん。デザートにどうぞ」
夜。
仕事を終えたバニーが帰ってきて夕食を食べ終わって数分。
私は彼がトイレに行っている間に
急いで夕方買って来たさくらんぼを水洗いし、テーブルの上に置いた。
「は食べないんですか?」
「た、食べるよ!バニーも食べてね!・・・いただきまーす」
自然な素振りで私はさくらんぼを頬張る。
もちろん、私は普通に食べるわよ。へたを舌で結ぶなんて器用なこと出来ませんから。
私が口に頬張るとバニーも笑みを浮かべながら
さくらんぼを食べる。へたを取って、種を吐き出した。
私は横目でそれを見る・・・・と、目線が合ってしまい
思わず彼の顔から背けた。
「僕の顔に何か付いてます?」
「う、うぅん!な、何でもないよ。さくらんぼ美味しいね」
「そうですね、久しぶりに食べました。甘くて美味しいですよ」
「よ、よかった。一番綺麗なの選んできたから」
「そうですか。はさくらんぼを選ばせたらきっと美味しいのを選んでくるんでしょうね」
「ぐ、偶然だよそんなの」
他愛も無い会話を続け、怪しまれないようにする。
しかし、バニーが一向にへたに手を伸ばさない・・・むしろ、種と一緒に隅に置いてる。
バニー・・・知らないのかな?
でも教えてあげたりしたら「どうしてですか?」とか突っ込んで来そうだから
私から言わないほうがいいのかもしれない。
だったら明日、友達には何らかの理由をつけて言おう。
これ以上私が怪しい行動をすると、それこそかえってバニーに勘付かれる。
「私、コーヒー持って来るね」
「ありがとうございます」
自分の中で結論付けて、私はコーヒーを淹れにキッチンに向かう。
数秒して、リビングに戻って
テーブルにコーヒーの入ったカップを置く。
「はい、コーヒー」
「すいません。ありがとうございます」
「どういたしまし」
カップを置いたと同時に、目が点になる。
テーブルの上に・・・・さくらんぼのへたが、結び目をつけて置かれていた。
ま、まさか・・・私何も言ってないよ。
「バ、バニー」
「はい、何ですか?」
「それ・・・さくらんぼの、へただよね」
「え?・・・あぁ、これですか」
私が震える指で結び目の出来たへたを指差すと
バニーは笑いながらそれを持ち上げる。
「そうですよ、さくらんぼのへたです」
「ゆ、指で結んだの?」
「え?いいえ。ちょっと行儀の悪い話、口の中で」
口の中・・・それって、つまり――――――。
「し、舌で・・・結んだの?」
「すいません、行儀が悪いですよね。・・・でも、何かさくらんぼ見るとこうやって遊びたくなっちゃうんですよ」
彼は笑いながらそう言う。
まさかの、彼は舌で結べる人だった・・・・!!!!
「小さい頃よくこうやって遊んでて」
すると、バニーは口の中にへたを入れて・・・動かして、数秒して
入れたへたが・・・手のひらに戻ってきた、結び目をつけて。
「よく母に怒られたものですよ、アハハハハハハ」
「そ・・・そうなの。ぎょ、行儀悪いからね」
バニーは笑って言うけど、私はまさか彼がそういうことが出来るというのに驚いている。
いや、ちょっと待って。
彼はさくらんぼのへたの結び目・・・「遊んでやってた」って言ってたよね?
つまり、それでキスが上手いとは知らないってことだよね?
じゃあ報告は変更。
「遊びでやってるから、キスが上手いとは限らない」よね。
うん、これなら行けるわ!
まぁバニーの場合、こういうことしなくてもキス・・・上手だと思うし。
さくらんぼのへたの件を知らなくったって、十分。
個人的に納得した私は、顔を綻ばせながらさくらんぼを口に含む。
へたを取って、種を吐き出し実のほうを咀嚼する。
「でも」
「ん?」
「父には褒められたんですよ」
「え?どういうことなの?」
「こういうことです」
瞬間、バニーに腕を引っ張られ
自分の元へと寄せられ唇を重ねた。
しかも、いきなり・・・口の中に、舌が入ってくる。
「んぅ・・・んんっ・・・ぅ・・・ふ・・・っ」
私がさっきまでさくらんぼを食べていたから
口の中に甘酸っぱい味が広がっていく。
それで舌を絡められて、唾液も混ざり合う。
いつものように、体中を溶かされて・・・頭が真っ白になっていく。
数十秒・・・熱く深いキスを繰り返され、ようやく唇が離れ呼吸が出来る。
「はぁ・・・はぁ、バニー・・・なんで、いきなり」
「さっきも言いましたよね。さくらんぼのへたを口の中で結んで、父に褒められたと。
どうして僕が母には怒られ、父には褒められたと思いますか?」
「・・・・・・・」
嫌な予感がして、背筋を冷や汗が落ちる。
「さくらんぼのへたを、口の中で結べる人って」
「キスが上手い人のことを言うんですよね?」
「バニーッ!?知ってたの!?」
「えぇ。君がさくらんぼを出してきた時点で、何かあるとは思ってたんですよね。
まぁ大体さくらんぼを出されたときからこういうことだろうな、とは予想はしてました」
予想はしてました・・・つまり、最初から予想済み!?
ということは――――――。
「お母さんに怒られたのも、お父さんに褒められたのも嘘なの!?」
「まさか。それは本当ですよ。母に怒られたのは行儀が悪いからという理由で、父に褒められたのは
やはりお前は私の息子だという意味で褒められたんです。父も出来てましたからさくらんぼのへたを
口の中で結べるというのは。ちなみにこの事実は父から教えてもらったんです」
ブルックス家の男性は、キステクがお上手ということ!?
バニー・・・そんな小さい頃からこんなことが出来てたの!?
ていうかお父さん、息子にそんなこと教えなくても良かったじゃないですか!!
「さて、」
「ふぇ?」
すると、目の前のバニーは妖しげな笑みを浮かべ私を見ていた。
「君がこの事実を何処で知ったのか気になるところです。誰に教えてもらったんですか?」
「え?!・・・あー・・・いや、あのぉ〜」
「その素振りからして、言わないつもりですね」
言いたいけど、友達から教わったとか・・・教えるの申し訳ないよ、カリーナの友達だし!
「言わないなら結構です」
「え?」
もしかして、見逃してくれる?
心の中でホッとしていた・・・・・・・・・が。
「白状するまで、僕のキスで溺れさせてあげますよ。あ、溺れたら君が白状できないか。
じゃあ・・・・・・今日はたっぷり、僕のキスだけで可愛がってあげますね」
「い、いやぁ〜!」
Cherry Kiss
(饒舌に、巧みに、私を弄ぶ貴方のキス)