人にはそれぞれ『初恋』という時期がある。
もちろん僕にだってそんな時期はあった。
だけど僕は想いを伝えることが出来ないまま・・・その時代を過ごした。
どうして、伝えれなかったのかと・・・時々考えるときがある。
「・・・・いいな」
アカデミーに在籍しているときだった。
僕はそう、シュテルン川が流れる河川敷で遊んでいる同世代の子供たちを見ていた。
アレは・・・いくつだろう?
まだ子供・・・10歳前後かもしれない。
初恋、とかそういうのに目覚める前だった。
僕は悩んでいた。
両親の死をきっかけに、ウロボロスを探し始め
誰も信じない信用しない、心に鍵をかけて全てのものを拒絶した。
だけど、やはりあの頃の子供といったら
友達と遊ぶのが当たり前で、僕もそういうことをしてみたかった。
でも、できなかった。
きっかけがつかめなくて、どうすればいいのか分からなかったからだ。
だから、いつも僕は1人で
誰かが遊んでいるのを座って眺めていたりしていた。
「僕も・・・あんな風に、出来たら」
そう思っていながらも、声を掛ける勇気があの時の僕には無かった。
しかしある晴れた日。突然だった。
いつものように、河川敷で遊ぶ同世代の子供たち、それを遠くから座って見つめる僕。
相変わらずの光景が其処に広がっていた。
ため息を零して、「あぁ今日もダメだな」と心の中で呟いた瞬間だった。
「え?」
頭に、何か乗っかった。
手に触れてみると、草のような感触とふわふわとした花のような感触だった。
「何・・・コレ?」
「お花のかんむりだよ!」
「え?」
何だろう、と呟いた瞬間隣から可愛らしい声が聞こえてきた。
そちらを向くと、僕よりも幾分と幼い女の子が笑顔で言ってきたのだ。
「君が・・・僕に?」
「うん!」
「どうして?」
不思議だった。
どうして、名前も知らない幼い女の子にこんな花の冠を
乗せられなきゃならないのかと思っていた。
だがおかしなことに・・・怒りは無かった。
むしろ驚きが多かった。
僕に近づいてくる人なんて、居なかったのに・・・・・・。
「あのね!お花のかんむりをするとね、つよくてかっこいいおうじさまになれるんだよ。
あたしのぱぱがいってたんだ」
「強くて・・・カッコいい・・・」
王子様まで、とは行かないが・・・女の子が笑顔ではなったその言葉に
僕は数年と揺らぐことの無かった心が揺らいだ。
「こら、それはママにあげるものだったろ?」
「あ、パパー」
すると、女の子の父親が女の子を迎えに来て、抱きかかえる。
どうやらこの花の冠は母親へのプレゼントだったらしい。
僕はすぐさま頭からそれを取る。
「あ、あの・・・っ、コレ・・・」
「ん?あーいいよ大丈夫。また作るし」
「で、でも」
「それおにいちゃんにあげるね。おにいちゃん、いつかきっとつよくてかっこいいおうじさまになれるよ。
だから・・・げんきだして」
『げんきだして』
その言葉に、僕は心臓が跳ね上がった。
この子には僕の気持ちが分かっていた・・・寂しい気持ちが分かっていた。
だから励ますつもりで、女の子は僕に花の冠をあげたのだ。
「そういうことだから、じゃあ。ほら、お兄ちゃんにバイバイは?」
「うん。おにいちゃんバイバイ」
そしていながら親子は去っていった。
女の子は、僕の姿が見えるまで手を振り続けた。僕はと言うと・・・手も振ることが出来ず呆然としていた。
残された僕の手には、花の冠。
改めて見たそれは、とても丁寧に作られた何重にも花を重ねて作られた冠だった。
だから、時々思い出す。
もしかしたら、それが僕の初恋だったのかもしれないと。
でもあの時のは初恋とかそういうのを言えるレベルな出来事じゃなかったから
初恋とは、言い難い。
「・・・しかし、懐かしいな」
あれから数年後。
僕はヒーローになり、今やキング・オブ・ヒーローとして一線で活躍していた。
シュテルン川が流れる河川敷。
あの頃と僕は同じように座り込んでいた・・・いや、のんびりと周りの風景を見ていた。
というか、河川敷で虎徹さんや他の人たちが
ワイワイと騒いでいるのを傍観していた・・・という表現が正しい。
「元気だなぁ・・・みんな」
たまには外に出て、皆ではしゃごうとか
そういうことになり(ぶっちゃけ言いだしっぺは虎徹さん)、外にまで出てきた。
気づいたらもうハイキング状態。
此処に来るまで、食料や遊び道具調達。
スカイハイさんに至っては、愛犬を連れ出してきた始末。
全員完全オフモードだ。
僕も思い出に耽っているから、半ばオフモードに入っている。
爽やかな風が頬をかすめ、髪を揺らしていく。
そんな心地よい空気に僕はため息を零した。
ふと、頭に何か乗っかった。
「ジャーン!キング・オブ・ヒーロー、バーナビー!」
「?」
「えへへ、びっくりした?」
振り返るとが後ろに居た。
彼女は笑いながら僕に何かを乗せた。
「あ、あの・・・頭に何を?」
「ん?花の冠だよ。丁度良い具合に花が咲いてたから作ったんだ」
僕は頭に乗せられたの作った花の冠を取る。
そのデザインに僕は目を見開かせ驚いた。
幼い頃・・・僕の頭に乗せられた、あの冠と同じデザインだったのだ。
偶然?
にしては、似すぎている。
僕は戸惑いながら、を見て口を開いた。
「あの・・・なんで?」
「あのね、花の冠をつけるとね強くてカッコいい王子様になれるんだよ」
は笑顔で僕にそう言った。
その言葉に心臓が大きく跳ねる。
あの時も、あの時も・・・女の子はこう言ってた。
『お花のかんむりをするとね、つよくてかっこいいおうじさまになれるんだよ』
まさか、あの時の女の子って・・・・・・。
「ん?どうしたの、バニー?」
が不思議そうな顔で僕を見つめる。
僕は笑みを浮かべ、彼女の頭に手を添え撫でた。
「いいえ、何でもないです」
そう答えて、僕は花の冠を見つめた。
「しかし、花の冠で王子様なんて・・・誰に教わったんですか?」
「え?・・・あぁ、それはね」
すると、は僕の手に持たれた花の冠を優しく取り
それをまた僕の頭に乗せた。
「昔、パパがママに贈ったの覚えてて。パパに聞いたら、コレは好きなお姫様に贈る素敵な贈り物だよって教えてくれたの。
パパはママに贈ったからお姫様だけど、私はバニーに贈ったから王子様だよ」
「そうですか」
じゃああれが・・・の父親だったというわけか。
「あ、でも」
「はい?」
「昔、花の冠を男の子に乗せたことあるんだよね。パパから意味を聞く前だったけど。
今のバニーと同じ体勢で座ってる男の子にね、あげたことあるんだ。
でも、その男の子には冠が似合ってたんだよ。本当の王子様みたいな冠がね見えてたんだ」
「・・・そうですか」
の話に、僕は優しく相槌をする。
どうやら間違いないようだ。
「バニー?お、怒ってる?私が小さい頃、そういう男の子にプレゼントした話して」
「いいえ。何だか心温まる話だなぁと思っているんですよ」
「ホントに?」
「えぇ」
そうか。
今やっと、答えが出てきた。
片想いをしてて、何故・・・告げることもせず想うだけに留まったか。
そしてそれを初恋と呼んだのか。
全て、という子に逢うために・・・神様がそう仕向けたのかもしれない。
あの頃の僕に「初恋」という感情を芽生えさせなかったのは、多分後々
と出逢うことを予測していたからかもしれない。
「きっと」
「え?」
「きっとその男の子は強くてカッコいい誰かの王子様になってるかもしれませんね」
「なってるよ。・・・なってるよ、きっと!」
僕がそう告げると、は嬉しそうに答えた。
強くてカッコいい誰かの王子様・・・君の幼い頃、告げた言葉は今現実のものになっている。
僕はキング・オブ・ヒーロー・・・みんなのヒーロー。
だけど、「強くてカッコいい王子様」はの前だけ。
誰かの王子様・・・その誰かが僕だなんて、きっと君は気づかないだろうね。
それでもいい、僕の恋は初恋じゃなくても実っているのだから。
「〜」
「バニー、何してんだ。もこっち来いよー!」
すると、カリーナさんと虎徹さんが僕ら二人を呼ぶ声がした。
「皆呼んでる、バニー行こう」
「え?ちょっ!?」
が嬉しそうに僕の手を握り、走ってみんなの元に駆け出す。
もちろん手を握られ引っ張られている僕は、慌てる。何せ頭に花の冠を乗せているのだから。
「・・・っ、さすがに僕は、頭にコレが・・・っ」
「大丈夫大丈夫!十分にカッコいいよキング・オブ・ヒーローさん!」
の振り返ったとき
僕に見せた笑顔に、何も言えず・・釣られて笑顔。
冷やかされるかもしれないけれど
まぁいい・・・だって、コレは僕のキングの証でもあり・・・彼女の王子としての証でもあるのだから。
コレは・・・見せびらかしに行かなきゃ。
僕の小さな小さな話。
初恋よりも少し前で、初恋とは呼べない話。
それでも、どこか甘くて・・・優しい。
心の奥底に眠ったそんな記憶は、君がくれた花の冠が思い出させてくれた。
King of Hero!〜花冠の王子様〜
(皆のキングにして彼女のプリンスな彼の小さな小さな物語)