２月１４日。
世間はバレンタインで賑わっている。
もちろん、アポロンメディアヒーロー事業部宛に大量のチョコレートが届いていた。
ダンボール何箱、なんて･･･数えるのも面倒だ。
「バニー･･･もしかしたら、お前今年１番だな」
「こんな１番貰ったところでポイントになるんでしたらいくらでも貰いますよ」
「だよな」
正直、こんな大量にチョコレートを貰ったところで
全部食べる･･･というわけにはいかないし、ましては食べる気もしない。
勿体無いと分かっていながらも、食べる量ではない。
「そういえば、バニー」
「何ですか？」
「お前･･･からチョコレート貰ったのか？」
虎徹さんに言われ、僕は黙り込んだ。
「え？･･･も、貰ってないのか？」
「何だか、その･･･僕がこうなることが分かっているのか、そういう事はまったく」
「じゃあ、貰ってねぇの？」
「はい」
本当のところ、からのチョコレートは欲しかった。
だけど、僕がチョコ攻めに遭う事が分かっていたような感じで
部屋からは一切そのような甘い匂いもしなければ、ましてや作っている素振りすら
見られなかった。
オマケに今日がバレンタインと分かっていても
敢えてそのことをは口にすることはなく、いつも通り学校へと向かった。
「僕としては、からのチョコレートだけは欲しかったです。でも彼女･･･そういう素振りすら見せなくて」
「まぁお前からしたら、からのチョコレートが本命みたいなもんだからな」
「はい」
おかげで何だか、虚しいような･･･寂しいような気分だった。
「よし！じゃあ今年は、お前がにチョコレートを贈れ！」
「え？僕が、に？」
すると虎徹さんが何か思い立ったように僕に提案してきた。
男の僕が、女性であるにチョコレートを贈るという提案だった。
女性が男性に送るのが一般的なものだが
逆も例外ではないらしい･･･と聞いた事がある。
でも、虎徹さんの言葉には一理あった。
が僕に贈らない(いや実際は気を遣ってくれているだけだと思っている)のなら
僕からに贈ってあげたらいいのではないかというのは
逆転の発想ではある。
「あの･･･でも、僕･･･女性にチョコレートをあげたことないんですけど」
「んなの関係ねぇよ。大事なのは気持ちだろ？」
「随分と古臭い考えですね。まぁそれが虎徹さんらしいといえばらしいですけど」
「一言多いっつーのお前は！」
モノも大事かもしれない。
でも、虎徹さんの言うとおり･･･伝える気持ちが重要なのかもしれない。
ふとダンボールの中、たくさん詰め込まれているチョコレートたちを見る。
綺麗な包みを纏い、その中にはどんなモノが入っているのだろうか･･･と考えた。
その中にも･･･誰かの気持ちが込められているだろう、と。
「チョコレートでいいですよね、あげるの」
「まぁ定番だからな」
僕の気持ちも、に届くだろうか･･･と一抹の不安を抱えつつ
仕事に、取材に向かうのだった。
「ただいま」
「あ、おかえりバニー」
夜。
今日は出動もなく、まっすぐマンションに帰ることができた。
しかし帰ってくる途中僕は有名なお店に寄り、に渡すバレンタインのチョコレートを買って帰ってきた。
リビングに行くと、が笑顔で出迎えてくれた。
「お疲れ様。ご飯食べた？」
「いえ」
「じゃあすぐ準備するね」
「あの、！」
が食事の準備をするといって、僕の横を通り過ぎていく。
しかし出動が入れば渡せなくなるし、今を逃してしまえば
ズルズルとチョコレートを渡せず仕舞いになってしまう。
それだけは避けたい僕は、横を通り過ぎていったを呼び止めると
彼女は声に反応しすぐさま振り向いてくれた。
「どうしたの、バニー？」
「その･････あ、あの････っ」
手に持った、綺麗な袋に入ったバレンタインのチョコレート。
きっと･･･今の僕は好きな子に告白する幼い男の子だろう。
いつもなら、こんなこと平気なのだが
多分慣れない事をしているせいなのかもしれない。
あぁそれくらい僕は今、緊張しているのだ。
「あの、･･･」
「ん？どうしたの急に呼び止めて」
「その･･････あの････」
僕は震える手を上げながら、袋をの目の前に出した。
「え？･･･バ、バニー？」
「･･･バ、バレンタイン･･･の、チョコ･･･で、です」
「え？･･･わ、私に？」
問いかけられ、僕はもう頷くしかなかった。
緊張して言葉が出ないのだ。
すると袋にの手が触れた。
僕は自分の手からゆっくりと袋を離し、へと渡した。
「いいの、貰って？」
「僕の本命は君だけです。義理であげるものはありません。
にあげるものは全部、本命と思って受け取って欲しいので」
「･･･ありがとうバニー」
優しい感謝の言葉に僕の心臓は酷く高鳴った。
慣れない事をしたし、緊張もしたけれど
が喜んでくれたのならば、僕はそれだけで嬉しい。
「でも、貴方からチョコレート貰うなんて夢にも思わなかったわ」
「え？」
「だって今日バレンタインだし、バニーはきっとたくさんチョコレートを貰うんじゃないかって。
それにチョコレートの匂いをさせるのも嫌かなって思って･･･敢えて、なーんにもしなかったの」
「やっぱり気を遣ってたんですね」
僕の気持ちを分かった上で、は僕にチョコをあげることも
ましてやこの部屋で作ることも話題に出すこともしなかった。
「でも、ビックリ。まさかバニーからチョコレート貰うなんて」
「だって･･･がチョコレートを渡す素振りをしてくれないのがいけないんです。
僕が不安になって当然なんですよ」
「え？」
不安にならずにはいられない。
いくら気を遣ってくれているからって、僕自身からのチョコレートだけは楽しみにしていた。
だけど、当日になっても･･･いやそれ以前から、何の素振りも見せないに
僕自身不安だけが募っていた。
「だから･･･僕から君にチョコレートを渡したんです」
「バニー･･･ごめんね。貴方に気を遣わせたくなかったのに、逆に貴方を不安にさせていたなんて」
「いえ、僕が勝手に思ってしまったことなのでは悪くありません」
「でもそうさせたのは私よね。じゃあ･･･お詫びに、ちょっと待っててね」
するとはリビングを飛び出し何処かへと向かう。
しかし数秒して彼女は戻ってきた･･･手には、小さくて綺麗な箱を持って。
「はい」
「え？･･･あの、コレは？」
「私からのバレンタインチョコ」
「」
それは、からのバレンタインのチョコレートだった。
僕はそれをおそるおそる受け取る。
「･･･なぜ？」
「バレンタインが過ぎて、色々言い訳してからあげようと思ってたんだけど。
バニーをそんな気持ちにさせてたなんて思ってもみなかったから」
「でも、いつ･･･」
いつ、コレを用意したというんだ？
部屋にチョコレートの匂いすらしていないのに。
「カリーナの家で今日作ったの。言ったでしょ？お家にチョコレートの匂いすらさせたくなかったって」
「」
「これでおあいこねバニー」
「えぇ」
からのチョコレートに僕は嬉しさが込みあがり
食事の前だというのに箱を開けた。
中を開けると、綺麗に並んだチョコレートが敷き詰められていた。
「今食べるの？ご飯は？」
「コレを食べた後からでも入ります。さっそくの作ってくれたチョコレートいただきますね」
「どうぞ」
指で触ったら、チョコレートが柔らかい。
多分生チョコなのだろうと思い、僕はそれを摘み１つ口の中に入れた。
少し噛むと、口の中で溶けてなくなっていった。
「･･･とても、美味しいです」
「よかった。バニーが喜んでくれて･･･あ、もう口の端っこにココアパウダー付いてる」
「え？」
するとが僕の口の端に付いたココアパウダーを拭う。
その手を収めようとした手を握り、の指先に付いた甘い粉を舐めとる。
「バ、バニーッ」
「僕が貰ったチョコレートなんですよ。全部食べなきゃ」
「そこまでしなくても」
「いいえ。食べてあげなきゃ勿体無いでしょう････チョコレートも、愛する･･･君も」
「バニー･･･ッ」
耳元で囁き、そのまま唇を塞いだ。
交し合うキスの味は、極上の愛がこもったチョコレートの甘い味がしたのだった。
チョコレートより愛をこめて
(極上の愛のこもったチョコレートを召し上がれ)