「ただいまー」





学校が終わり、私はいつもどおりバニーのマンションに帰ってきた。



彼は基本的に家に居ることが少ないから
「ただいま」と声を出しても「おかえりなさい」って出迎える声は滅多にない。

時々聞こえてくる「おかえりなさい」の声には心臓が口から
飛び出るほど驚いてしまうけど。



相変わらず声を出しても、返答ナシ。

最初から分かりきっていた生活だったから仕方ない。




ヒーローと一般人の生活リズムなんて、そんなものなのだ。





幼馴染のカリーナだって同じ学生だが、家に帰ることもあれば会社に寄ることもあるし
トレーニングに向かうし、下手をしたら事件で出動せざるえない事も。。



だがバニーには余計、そういうリズムが無い。



人気者のヒーロー様は常に時間とスケジュールに追われている。
学生しながらのカリーナとは違うし、ましてや一般人である私とは天と地ほどの差がある。




だから彼のマンションに帰ってきても
帰宅を労る声が聞こえてこないのは日常茶飯事だ。




そんなことを思いながら私は部屋の中に入っていく。







「あれ?」








学校で疲れた体を引きずりながらリビングに行くと
いつも居ない人が其処にいた。








「バニー、帰ってきてたんだ」







リビングのカーペットに、バニーが居た。
しかし、居たには居たのだが・・・・・・。







「寝てるし。風邪引いちゃうよ、もう」









日頃の疲れが溜まっていたのか、そこで彼は眠っていた。
しかも眼鏡は掛けたままで、更に言うなら携帯を握ったまま。

明らかに「仕事に追われて何をするにも面倒になった」ということを物語っている。


しかしリビング、日当たりが良く気持ちいいのは分かるが
こんなところで寝てたら風邪を引くことは目に見えている。



ヒーローが風邪引くとかかっこ悪い。







「バニー・・・起き」







寝ている彼を起こし、寝室に行くよう促そうとしたが・・・自分の動きが止まる。

何だか此処で起こすのが非常に忍びないと思いつつ
むしろバニー、寝起き悪そう・・・というイメージがあった。


いつも、私よりも先に彼が起きていることが多いから
彼が寝ているところをあまり見たことがないし、ましてや無理矢理に起こしたことはない。


だから、尚の事無理にでも起こしてしまえば
何やら寝起き悪そうなイメージがする。





しかし、このまま寝せてしまえば風邪を引いてしまう。





とりあえず風邪を引かせたら大変だと思い、私は寝室から毛布を運んで
彼の上にそっと掛け、掛けられていた眼鏡を外しテーブルに置いた。


全てのことを終えた私は、彼の隣に座り顔を見る。










「綺麗な顔だよね、ホント」











端正な鼻立ちと唇。


空に伸びてる切れの長いまつ毛。


ふわふわとした金色の髪。


立ち上がればモデルとも思える長身に、がっちりとした肉体。


言葉を紡ぐ声は、耳に残るほど低くてそれでいて優しい声。


目を開けば、宝石のような綺麗な瞳が輝いている。









惚れない方がおかしいくらい、良いパーツばかりが揃っていて
それに加え、良いトコ育ちでNEXT能力を持ち。

天は二物を与えない・・・と言うが目の前の人物を見ていると
「神様の嘘つき」と言いたくなる。




ここまでのイケメンに育ったのは
彼のご両親はイイトコパーツの揃い踏みだからだろう、なんてバカなことを思ってしまった。
むしろこういう顔は小さい頃は可愛い、と聞くがまさにその通り。


テーブルに置かれた、幼少期のバニーの写真を見れば一目瞭然だ。










「でも、寝顔は可愛いよねバニー」









クスクスと笑みを浮かべながら、彼が起きないように髪を優しく撫でる。
くぐもった声で「・・・んっ」と聞こえてきたから、これ以上触れるのをやめた。




ふと、目線が唇に行く。


その形のよいモノに思わずドキドキしている自分が居た。









「(キスしても・・・・・・バレ、ないよね・・・寝てるし)」









思わず辺りをきょろきょろと見渡す。

特に誰かが突然入ってくる、と言うことは無いのだが
念のため?というか、確認の為?・・・なんて意味の分からない行動を起こす。










「(よし!)」








そう心の中で呟いて確認OK。












ゆっくりと、彼の唇に近づき―――――軽く自分の唇と重ねた。











ほんの触れあい、数秒で離し・・・やった後で思わず赤くなる。

目下の人を見ても・・・起きる気配ゼロ。





上手い事やってのけたけれど、心臓の鼓動が酷いぐらいに鳴り止まない。










「ば、晩御飯の買出しに・・・行こう」








これ以上この場に居ては、彼が起きた時に
能力で壁にふっ飛ばしそうな気がしてならない。


とりあえず火照った顔と気持ちを落ち着かせなくては、と思い
立ち上がって夕飯の買出しにと外に出た。








外に出て


マンションを離れ


少し歩いて・・・唇に触れる。







「(・・・・熱い・・・・)」









痺れるような熱と、蕩けるような甘さを感じた。


フラッシュバックしてくる先ほどの光景。



思わずやった自分に赤面。







「・・・・・・・・・遠回りして帰ろう」





買出しが終わったら、遠回りをして帰ろう。


真っ直ぐ帰って、もしそれでバニーが起きたりなんかしてたら
平常心を保てる自信がない。確実に能力発動は免れない。


今日はこんな事をした謝罪の意味をこめて
彼の好物でも作ろう、と考えながら少し遠いスーパーまで足を進めたのだった。





唇に、あの感触と熱と、甘さを残しながら。







あなたが寝ている間にそっと口付ける
(ほんの出来心が、熱を残す)



-オマケ-


「(今度から起きてることにしよう。寝たふりもやめよう。次にこんな事されたら
ホント・・・襲いかかってもおかしくない)」


目に手を当て、彼女と同じように
顔を真っ赤にしたバーナビーはそう心に誓ったのだった。
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