「嬢ちゃん。飲んでる〜?」
「ライアンさん。私、まだお酒飲めませんよ」
「ライアン。に無理やりお酒を飲ませないでください」
「冗談に決まってんだろぉ〜。ほっんとジュニア君まーじめー」
「いいですかライアン。真面目とかそういう問題ではなくて」
私を挟んで左にライアンさん、右にバニーとワイワイと言い争いを始めた。
いや実際バニーがライアンさんに噛み付いている、と言ったほうが正しいだろう。
私は今現在、お酒の席に居ます。
しかも何故か二次会。
普通なら一次会だけの参加になるのだが、私が呼ばれたのは
完全にデキ上がっている二次会の現場。
何故私がこの二次会の席に呼ばれたのか分からないが
大人の皆が楽しそうにお酒を飲んで居る姿を見て、こちらまで楽しい気分になりそうだった。
「なぁ嬢ちゃん。俺達にさぁ、今映画出演の話が持ち上がってるらしいんだぜ」
「え?映画、ですか?」
バニーと言い争っていたライアンさんが突然話を振ってきた。
「プロデューサーがよぉ、俺達3人を主演に映画企画が持ち上がってるって話」
「3人、ですか?」
「アニエスさんが、僕と虎徹さんとライアンの3人主演で映画企画の話を持ち出してきたんです」
「へぇ」
ライアンさんの説明じゃ足りないと思ったのか
すぐに右隣に居たバニーが補足にと、私とライアンさんの会話に割り込んできた。
バニーとタイガーさんと、ライアンさんの3人で映画を撮る。
幻と化してしまったアポロントリオの映画ともなれば、大ヒットは間違いないだろう。
「それ。すっごく面白そうですね!出演してもいいんじゃないですか?
私出来上がったら観に行きますよ」
「お!嬢ちゃん観に来てくれちゃう?あーどーすっかなぁ〜嬢ちゃんが観に来るんなら出演考えなくもねぇなぁ〜」
「是非是非やってください!私もアニエスさんの意見に賛成です」
大きなスクリーンで動く3人、ともなれば観に行くことは必須。
今現在この場にアニエスさんは居ないけれど、もしかの人が此処に到着した際は
私も全力で3人出演の映画を作ってもらうよう説得を試みるつもりだった。
「確かに3人での映画出演はいいかもしれませんね。
アクション然り、サスペンススリル然り。構成を練るなら何でもありでしょう」
「バニー」
「お!珍しくジュニア君意見合ってんじゃん」
「ですけど・・・」
途端、バニーが私の手を握りこちらを見つめる。
その目は宝石のように輝きを放ち、営業スマイルとは別。
つまり私だけに見せる極上スマイルを浮かべていた。
「悪の組織に捕らえられたお姫様を助ける、という王道的シチュエーションでも構わないんですよ?
むしろ、僕としてはそちらを所望したいですから・・・ね、」
「え?な、何で私を見ながら言うのバニー?」
何故彼が私を見ながらそんな事を言ってきているのか意味が分からない。
「ていうか、お姫様は誰がやるの?やっぱりブルーローズ?」
彼の言う「悪の組織に捕らえられたお姫様を助ける」というのはよく分かったけれど
その肝心の「お姫様」とやらは誰がやるのだろうか、と引っかかった。
ヒーロー出演の映画でお姫様、となればやはり此処は
一番の適任者としてブルーローズの名が上がるだろう。多分彼女本人は絶対に嫌がるだろうけれど。
「何を言ってるんです?ブルーローズさんなわけないでしょう。彼女が嫌がるのは目に見えてます」
「(其処まで予測済みなんだバニー)」
「お姫様はもちろん、君ですよ。お姫様枠があるなら
僕が君用で空けておくようアニエスさんを説得してみせます」
「え!?わ、私なの!?」
「もちろんです。むしろ、僕の中でお姫様はただ一人しか居ませんから」
バニーはニコニコしながらお惚気発言の連続攻撃。
左隣にいるライアンさんは「うわっ、コレがジュニア君の本性!?」等という声が聞こえてきた。
人目をはばからず惚気発言に加え彼の言葉が加速していく。
「そんな僕の可愛いお姫様を拐う悪の組織のボスにはピッタリな役者がいますから・・・ねぇライアン」
「っんで俺なんだよ!?」
「見た目的に悪役っぽくていいじゃないですか。満更嫌でもないでしょう、悪の組織のボス」
「嫌だっつーの!俺ヒーローだから。やっぱり此処は可愛いお姫様を助ける王子になりてぇじゃん」
「王子は僕1人で十分です。君は悪の組織のボスがお似合いですよ」
「おいおい。この重力王子差し置いて何言ってるワケぇ?重力『王子』だからね、お・う・じ!!」
「重力王子なんて背景設定としては薄いですね。それなら僕のほうが設定としては作りやすいですよ。
両親を殺され、復讐に走る孤独な王子。そんな王子を救ってくれた愛らしい1人のお姫様・・・ホラ、いい感じに構成出来ます。
コレこそアニエスさんに提示すべき映画の案だと思います」
「完全に自分ネタじゃねぇか!!そんなのボツに決まってんだろ!」
またしても私を挟んで2人は言い争いを始めた。
しかも今度は映画の事で。
バニーが人前で極上スマイルを私に向けてきている時点で明らかに様子がおかしいとは思っていた。
確実に―――――酔っている、バニーだけじゃなく多分ライアンさんも。
こんなことなら家で大人しく待っていればよかったかも、と後悔するも時既に遅し。
最終的にはその映画の話をアントニオさんにまで
押し付け始める始末になり、もう私は完全に自分の口を閉じて、ジュースと机に並ぶご馳走を頬張っていた。
翌日、この映画の話がとんでもない事になっていようとは。
この時この場に居た私でさえも予想できなった。
立つ鳥が後を濁し始めて。
(旅立つ鳥が後を濁し始め、翌日事件が起こった)