「何であんな話聞いちゃったんだろう」
お昼休みに、カリーナのクラスの女子が
バニーの女優さんとの密会の記事のことを知ってしまい
私は落ち込みながらマンションへと帰っていた。
カリーナには「とにかく本人に聞いてみるのが一番よ!」と言われたが
私には聞くことが出来ない。
やっぱり自分は子供で、彼は大人。
年下の、子供の私なんて相手にするだけバニーが疲れるだけだから
そんなこと聞けやしない。
聞いたところで・・・何になるというの?
それにバニーが私に言っていた「好きですよ」とか「愛してますよ」って言葉も
あの記事のせいで嘘に聞こえてきて
もう頭の中が混乱して、めちゃくちゃだ。
「ダメよねこんなんじゃ」
とにかく、しっかりしなきゃ。
バニーはヒーローなんだから、こんなことで落ち込んでたりしてたらキリが無い。
スキャンダルなんて、ヒーローにはつき物だ。
カリーナだってそうだもんね。
「(ブルーローズのスキャンダルってあんまり聞いたこと無いけど)」
そう思ったら少し笑えた(カリーナごめん!)。
大丈夫。
多分バニーはトレーニングしに出かけているに違いない。
もしくはどこかふらついてたり。
部屋に居なければ、彼が戻ってきたときはいつもの私の表情で迎えれる。
とにかく私はそう思いながら玄関を開け部屋に入った。
「おかえりなさい、」
「!?・・・・・・た、ただいま」
居ないと思っていたのが間違いだった。
居た。
タイミング悪すぎる。
リビングに入ると、バニーが立っていたのだ。
予想だにしない出来事に私の脳内はいきなりのフル稼働を始める。
「は、早かったね」
「えぇ。取材が意外とスムーズに終わったので戻ってきました」
「ふ、ふぅ〜ん。取材、お疲れ様バニー」
「ありがとうございます。も学校、お疲れ様です」
「あ、ありがとう」
上手いこと会話が続いているが、会話の最初あたり
言葉を何とかして続けようとしているのが自分でも手に取るように分かる。
今の私は必死。
だって・・・だって、お昼――――。
『バーナビーが有名女優と密会とかショックなんだけど』
昼間のことを思い出してしまい、脳内の回転が徐々に速度を下げ
口も動かなくなった。
「少し早く戻ってきたことですし、僕が夕飯でも作ろうかと思ってるんですよ。
いつもに作ってもらってばかりなので、今日くらい僕が作りましょうかね。・・・・・・・・・?」
バニーの言葉が耳に入ってきているのに、声が出なくて、返事が出来ない。
「、どうしました?具合でも悪いんですか?」
「そう・・・じゃないよ。大丈夫」
何とか声が出た。
バニーに気づかれないように、私は笑って見せた。
「大丈夫ならよかったです。今から夕飯の支度をすれば、僕もこの後出て行けますね。
時間も丁度いい具合になる頃合ですし」
出て行く?
何処に?
心臓が、酷いまでに鼓動していた。
しかも重く低い音を奏でている。
何処に行くの?
時間あるから戻ってきたんだよね?
取材が早く終わったから戻ってきたんだよね?
それなのに、何処に行くの?
綺麗な人に逢いに行くの?
有名な、女優さんに逢いに行くの?
逢いに行って何をするの?
「さて、じゃあ早速夕飯の準備でもしましょうか」
やだ、待って・・・待って・・・。
「?!・・・?」
「・・・・・・」
気がついたら、私はバニーの上着の裾を握っていた。
私の突然すぎる行動に彼は驚いた表情を見せる。
「手を離してください。夕飯が作れません」
「夕飯作ったら・・・何処に行くの?」
「何処って・・・トレーニングに戻るんですよ」
バニーは苦笑いのような声で私に言う。
「嘘ばっかり・・・本当は違うところに行くんでしょ」
「、何を言ってるんですか?僕は本当に」
「嘘つかないでよ!!私に飽きたんならそう言えばいいでしょ!!何でそんな嘘つくの!?」
我慢の限界、超えた。
イライラとかモヤモヤした気持ちが積もりに積もって、大爆発。
「私が子供だから?私がまだNEXTとして未熟だから?私が貴方より年下だから?
バニーが飽きる要素なんていっぱいありすぎてもう分かんないよ」
「。何を言ってるか意味が分かりませんが、別に君に飽きたなんて僕はこれっぽっちも」
「だったらなんでキス以上のことしないのよ!!」
「そ、それは・・・っ」
私の言葉にバニーの表情が焦る。
気づいてないと思った?
貴方が私にキス以上のことしてこないこと。
別に体だけの関係とかそんなの望んじゃいない。だって私バニーのこと大好きだもん。
でもね、大好きな人と体を重ねたいって思うのに
バニー・・・私にちっとそんなことしてこない。
私のNEXTとしての能力制御の問題もあると思う。
でも、でも・・・どうしてしてくれないのって、不安になるときはある。
同世代の子で、好きな人が居て、する子ってすごく幸せそうな顔をしてる。
好きなのに・・・・私、こんなにもバニーのこと、大好きなのに―――――。
涙がポロポロと零れて、爆発した気持ちを口から吐き出した。
「私に興味がないから、私がまだ貴方にとって子供だから、だからそれ以上のことしないんでしょ!!
好きじゃないならその気にさせないで、好きじゃないなら一緒に住もうなんて言わないで!!
引き取ったりなんかしないでよバカ兎ッ!!」
ガンッ!!!
「っ!?」
途端、バニーが壁を強く叩く。
溢れる涙が止まるほど音は鼓膜の奥に響き
突然すぎる音に、私は目を見開かせて彼を見ていた。
「僕がいつ、君に興味が無いと言いましたか?僕がいつ、君に飽きたと言いましたか?」
バニーの声が部屋に響く。
しかもその声色は、いつもより低くて重い。
その声を耳に入れると心臓が早く鼓動し始めた。
まるで、そう・・・――――何かの警告音のように。
「誰に入れ知恵されたか知りませんが・・・・・・だったら、今すぐ確かめてあげますよ」
「ぇ?」
バニーの顔がゆっくり上がり、私を見る。
その目は―――――。
「僕が君に対してどれだけ本気かを、教えてあげます」
「!!」
まるで、獣のようだった。
いつもの優しいあの眼差しではなく
今、目の前に居るバニーの表情や目つきは、獣そのもの。
いつもと違うバニーに私の体は震え、ゆっくりと近づいてくる彼に私は後ずさりをする。
だが、後ずさりをしたところで後ろは大きな窓しかない。
彼の横からだったら抜けれる。そして玄関まで走ってしまえば何とかなる。
そう思って、バニーの横を抜けようと走った。
「何処に行くんですか、」
「きゃっ!?」
あっさりと腕を掴まれ、すぐさまバニーの腕の中に収められた。
抱きしめられる力が強くて振りほどけない。
心臓が痛いくらい鼓動してる。
「逃げなきゃ、逃げなきゃ」って何度も何度も繰り返し鳴っている。
それなのに強く抱きしめられて逃げることすら叶わない。
それこそ、獣に捕まった子兎のようで。
「・・・・・・」
「バ、バニー・・・んっ!?」
顎を無理やり上げられたかと思ったら、唇が重なった。
でも、いつもと違う。
息つく間もなく激しく舌と唾液を絡め合わせてくる。
いつもは激しいけどそれでいて優しい。
それなのに、今しているキスはまるで噛み付かれているようで、そして唇を貪るような激しいキス。
「バ、バニィ・・・んぅ・・・ふっ・・・んんぅ・・・」
微かに出来た口の隙間から息をしようとしたら、すぐさま塞がれた。
でも、これだけでも腰が砕け落ちそう。
激しくキスをされて、いつもと違うキスをされて、怖いはずなのに・・・なんで?
「んぁ・・・はっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
ようやく長く激しいキスの雨から唇が解放され私は呼吸をする。
口端からは唾液が零れ落ち、目からは薄っすらと涙が浮かんでいた。
私を見ているバニーの顔が少し揺らいで見える。
そっと、バニーの手が私の頬に触れ
揺らいでいる私の視界も徐々にクリアなモノになり、バニーの顔が見えた。
「」
「っ!!」
でも、クリアな視界に入ってきたバニーの目は・・・獣の瞳をしていた。
怖い・・・怖い、やだ・・・やだっ。
「、愛してます」
そう言いながら、バニーが私の首元に顔を埋める。
チクッと小さな痛みが走る・・・痛くて、ザラッとした感触が伝わり神経を刺激された
ダメ・・・ダメ・・・怖い、怖いよ・・・。
「イヤッ!!」
パァンッ!!
叫んだ瞬間、弾ける音がして・・・体が自由になった。
叫んだときに私は目を閉じていて何が起こったか分からなかったが
目を開けた時・・・私を抱きしめていたバニーは私から離れ、壁に寄りかかっていた。
また・・・・能力でバニーを吹き飛ばしてしまい、壁に叩きつけてしまった。
「・・・うっ」
壁に頭をぶつけたのか、バニーの苦しそうな声が聞こえてきた。
私はそんな彼に近づこうとしたが――――。
『』
先ほどの獣のような瞳を思い出し、近づくのを留まる。
そして、私は怖くなり部屋を飛び出した。
部屋を出て、マンションのエントランスへと出てきた。
ドンッ!
「ご、ごめんなさい」
後は外に抜けるだけ、と思ったがエントランスで人とぶつかってしまった。
「いや、こっちこそ悪ぃ・・・って、」
「タイガー・・・さん」
ぶつかった人に謝ると、相手はタイガーさんだった。
「どうしたお前。何泣いてんだ?」
「え?」
腕で目元を拭うと涙がついていた。
どの涙なのか、もう自分でもよく分からない。
「バニーとケンカでもしたのか?ん?おじさんに言ってみ?」
タイガーさんの口からバニーの名前が出た途端―――。
「ご、ごめんなさいっ!!」
「あ、おい!?」
何も言わず、私はどこかへと走った。
何処に走ったのかなんて分からない・・・分からないまま私は駆けた。
あんなバニー知らない。
あんなバニー見たこと無い。
怖い、怖い・・・それでも、体の奥底で分からない熱を感じていた。
射殺されてしまいそうな、獣にも似たあの瞳。
奥底に感じた熱に絆(ほだ)されたのか、もっと触って欲しいなんて怖いながらも思ってしまった。
兎もやはり獣でした-Beast-
(時に獣にだってなるんです)