パオリンのマンションに戻るつもりだったけど
どうすることも出来ない、この熱を何とかしたかった私は
一旦、バニーのマンションに戻ってきた。
しかし、タイミング悪かったのか良かったのか・・・バニーが居た。
玄関で顔を伏せて、重いため息を零していた彼が其処にいたのだ。
久々に見たバニーの表情は、とても優しく
それだけで私は、すごく・・・体が熱く震えた。
そして手を握られたまま、一緒に部屋に入る。
何も喋ることなく、無言の空気だけが其処に漂っていた。
自分から飛び出して行ったくせに、何を行っていいのか迷っていると――――。
「ごめんなさい、」
「え?」
突然、沈黙をバニーが破ってきた。
しかも始まる文章が謝罪の言葉で、私は驚きを隠せない。
違う、謝るのは・・・貴方を壁にたたきつけた私なのに・・・どうして?
「あの日・・・君に怖い思いをさせてしまったことを、僕は謝らなければなりません。ごめんなさい」
「バニー・・・でも、私だって・・・」
「いえ、君は正しい判断をしたんです。僕を壁に叩きつけて当然なんですよ。
あの時の僕は、冷静になれなかった・・・信じられなかったんです、君からそういう言葉を言われたのが」
「・・・・・・・」
あの日・・・私が口にしたあの言葉。
『私に興味がないから、私がまだ貴方にとって子供だから、だからそれ以上のことしないんでしょ!!
好きじゃないならその気にさせないで、好きじゃないなら一緒に住もうなんて言わないで!!
引き取ったりなんかしないでよバカ兎ッ!!』
怖かった。
だって、あんな記事見ちゃったら・・・そう思うしかなかった。
「好き」とか「愛してる」とか、それはただ私が1人で浮かれていただけだって。
本当はバニーは私みたいな子供よりも、ずっと素敵な女性がいるんだって・・・最初から不釣合いだったんだって。
そう、思うしか・・・そう考えるしか、できなかった。
「でも、誤解をさせたままでは君にも悪いんで・・・それだけは訂正させてください」
「え?ご、誤解って」
バニーが言う言葉に私は驚いた。
誤解って・・・一体?
「君が見たであろう・・・有名な女優さんとの密会の記事のことです。あれは全部お芝居なんです」
「お、お芝居って」
「アニエスさんに芝居を打って欲しいと頼まれ、わざと写真に写るようなことをしたんです。あの女性は
旦那さんのDVに耐え切れずに離婚を考えていると・・・もちろん、女性の方は既にお付き合いしてる方が居るそうなんですよ」
「嘘、じゃないよね?」
「カリーナさんにも言われましたが、アニエスさんに其処は直接聞いてください。それが君がしていた誤解。
僕は決して君以外の誰かを好きになるということはない、ということです」
バニーの話が嘘というのはゼロに近い。
彼が私に対して嘘をついたことがあっただろうか?
思い返してみても、数える指を折り曲げた記憶があまりない。
こうやって、ちゃんと話してくれている時点で・・・彼は、自分の誤解を解こうとしている。
「でも・・・じゃあ、なんで・・・私に触れてきてくれないの?・・・やっぱり、私じゃ・・・ダメなの?」
その話が嘘じゃないなら、どうしてバニーは私に触れてこないの?
どうしてこんなにも大好きなのに、触れてこないの?
私以外の人好きじゃないなら・・・―――――どうして・・・?
「ダメとかじゃなく・・・・好きすぎるあまり、逆に君を傷つけてしまいそうで・・・できないんです」
「え?」
私のことが、好きすぎて・・・傷つけてしまいそうでって。
「君は以前・・・不快な思いをしています。出来るなら、その思いごと消してあげたい・・・だけど、僕には出来ません」
「バニー・・・何で?」
「、僕は君を愛してるから・・・愛してるからこそ、その分歯止めが利かなくなって・・・傷つけてしまいそうで。
君自身思い出したくない、過去の事を思い出させてしまいそうで・・・そう考えたら、君に触れることが出来ないんです。
僕は・・・君が悲しんだり傷ついたりする姿を見たくないんです」
バニーは苦しい表情で私に訴えた。
間違っていたのは彼じゃない・・・私だった。
愛してるからこそ、触れて欲しい。
愛してるからこそ、傷つけたくない。
バニーはずっと、私のこと・・・好きで、好きで・・・愛してくれていた。
「本当は、もう自分を抑えるのが精一杯なんです。に触れたくて、触れたくて・・・。
だけど、考えれば考えるほど・・・傷つけたくないと思うばかりで。矛盾しまくりですよ本当に」
「バニー・・・」
「ごめんなさい、。こんな醜い気持ち、僕は最低です。
やっぱり、今は君の側に居るべき人間じゃない・・・・もうしばらくは、ドラゴンキッドの部屋に行くなり
カリーナさんの家に行くなりしててください。こんな僕の側に居たら、君をいつ傷つけるか分かりませんから」
そう言ってバニーは私の手を離し、踵を返す。
私に背を向けドアに向かって歩くバニーの背中がすごく切なくて、寂しい。
やだ・・・やだよ、そんな・・・そんなの。
バニーの側を、離れるなんて・・・・っ。
「!?・・・?」
「バニー・・・バニー、ごめんね。バニーの気持ちも分からないで、傷つけて」
私は去り行く彼の背中に抱きつき、歩く足を止めさせた。
「バニーはずっと、私のこと大切にしてくれてたのに・・・私があんなこと言ったから、バニーのこと傷つけた」
「。君は何も悪くないのに」
「悪いのは私だよ。ごめんね・・・ごめんね、バニー・・・傷つけて、ごめんね」
「」
私が謝ると、バニーは私の手を握る。
ふと指先に柔らかな感触を感じた、きっとバニーの唇。
彼が私の手にキスをしてくれているのだろうと思う。
指先から痺れるような熱を感じ、それが体中にと回ってくる。
足が震えそうなくらい、体が熱くて・・・ドキドキしちゃう。
指に、手の甲に、バニーの唇が触れているだけなのに・・・体が、おかしくなっちゃう。
「バニー・・・」
「どうかしましたか?」
「私・・・もう、ヘンになりそう」
「え?」
おかしな子って思われてもいい。
もしそれでもいいなら・・・傷ついたって、構わない。
「バニーに、あの日・・・キスされてから、私もっとバニーに触れてほしいなんて思っちゃうの。
キスしてほしい、もっと触れてほしいって・・・考えるようになってヘンになりそう。こんな気持ち、どうすればいいの?
分からないよぉ・・・バニー」
「」
すると、彼の腰に回している腕を優しく掴まれ
私の入っていた力が抜けていく。
バニーが振り返り、今度は彼が私の体を抱きしめた。
「分からないのであれば、教えてあげます」
「バニィ」
「ですが・・・僕は今まで自分を制御してきた分があります。もしかしたら、君を傷つけてしまう事だってあるかもしれません。
それでも・・・それでも、いいと言うのなら―――――」
「僕に君の全てを委ねてください。僕に君の全てを見せてください。・・・・のこと、もっと僕に教えてください。
誰もまだ見たことのないを僕だけに見せてほしいんです、僕にもっと君を独占させてください」
「バニー・・・ッ」
言われた瞬間、体中の血液が沸騰して腰が砕けそうになる。
バニーの唇が頬に触れて、そのままゆっくりと唇に吸い付いて
それだけで頭が真っ白になっていく。
激しくキスをされているのに、あの日はこんなキスされて怖かったはずなのに
今はどうしようもなく、体中が熱くなる。
「・・・っん・・・はぁ・・・あっ・・・バニィ・・・」
「ベッドに行きましょうか、」
「・・・・・・・ぅん」
低い声色で、でもどこか優しい声で言われ私は小さく返事をし
彼にエスコートされながら寝室に行くのだった。
熱の行方は・・・-Heat-
(誤解が解けたのなら、私の熱を溶かして)