バニーのマンションを急に飛び出して
私はパオリンのマンションへと潜り込んだ。


そこならきっとバニーが探しにきても分からないだろうと踏んでのこと。


でも足りない洋服とかはやっぱりバニーのマンションに戻らないとないわけだから
私は彼が一番家を空けているであろう時間帯を狙って、洋服やら用品やらを取りに戻った。




マンションに戻るとやっぱりバニーはいなかった。


居ないことを確認すると、私はそそくさと
私専用で分けてくれたクローゼットを開けて、バックの中に洋服などを入れ込んでいく。







「これくらいで今は大丈夫よね。・・・・・・・・・ん?」





洋服をバックの中に入れて、クローゼットを閉めようとした途端
其処の片隅・・・ピンク色の何かに、私の目が止まった。








「何だろ?」






私は体をクローゼットの中に入れて、それを取る。
手に掴んで、光のある場所でそれを見てみると―――――。







「ウサギのぬいぐるみだ」






ピンク色をした、ウサギのぬいぐるみだった。


あのバニーがぬいぐるみ?しかも、ウサギ。というその組み合わせだけで笑ってしまったが
彼がこんなのを買う人間ではないし、ましてやあのバニーが可愛いものを持つわけがない。

私へのプレゼントというわけでもないし、ラッピングもされていない・・・そのままの状態。

さらに言うなら、見た目・・・ようするにデザインが彼の好むようなものではない。


じゃあ一体?







「バニー・・・」






彼への疑問が渦巻いていたけれど、なんとなく手放したくなかった。

もしかしたら、あの記事の女優さんへのプレゼントかもしれない。
だったら困らせてやりたい・・・自分の中で醜い想いが働いて、私は荷物と一緒にウサギのぬいぐるみを抱え
マンションを出たのだった。















「あれ?タイガーさん、パオリン・・・ドラゴンキッドは?」




皆がよくいる場所に私はパオリンと待ち合わせをしていた。
しかし、そこに居たのはソファーに座ってるタイガーさんだけ。





「何でも、親御さんから電話がかかってきたんだと。すぐ戻るから俺に此処にいろってさ」


「そうですか。パオリン親元離れてますからね」


「まぁな。・・・ん?お前、そのぬいぐるみ」


「え?」




するとタイガーさんが私が脇に抱えていた、あのウサギのぬいぐるみをみた。
しかもこの人の口ぶりからして、何か知ってる感じがした。

タイガーさんは立ち上がり私に近づく。






「なっつかしいなぁ〜・・・そのぬいぐるみ」


「し、知ってるんですか?」


「あぁ。だって、それバニーの誕生日、プレゼントでやったもんだからよ」


「え?」






誕生日・・・プレゼントで?


私は手に持っていた荷物を床に置いて、脇に抱えていたぬいぐるみを見る。







「大分前だけどな、アイツの誕生日にあげたんだよ。何処にあったそれ?」


「わ、私のクローゼットの中です」


「アイツ、お前引き取るとき恥ずかしいから見られたくなくて隠したな。でも、大事にしてるなら結構結構」








そう言いながらタイガーさんは私の頭をポンポンと撫でる。
すると、撫でる手が私の頭の上で止まる。
私は急に止まったことに戸惑い、タイガーさんの顔を見る。








「タイガーさん?」


「お前ら二人に何あったとか知らねぇけどさ・・・、あんまバニーのこと嫌いにならないでやってくれな」


「え?」





突然タイガーさんがそんなことを言ってきた。
あまりに突然のことで、私は戸惑う。




「今、あぁやってニコニコしてっけど・・・お前と出会う前、そうだなぁ・・・俺とコンビ組み始めた頃のバニーは
ひでぇ位にひねくれてて、スカしてたんだよ。毎回余計なことばっか言って、俺もイライラしてた」


「バニーが・・・・そんなんだったんですか?」


「今のお前からしてみれば、前のバニーの性格は考えられねぇだろ?仕方なかったんだよ、昔のアイツは。
そういう態度をとるしかできなかったんだ・・・誰も信用しちゃいなかった。小さい頃に色々あってな」


「小さい頃、色々って」





聞いた事がない。


バニーの小さい頃の話とか。
ただ、分かっているのは彼が大事にしているおもちゃ、それとご両親の写真だけ。

「両親は僕が幼い時に亡くなりました」とだけ彼は言っていた。
でもその後のこととか、本当のことととかよく知らない。





「あれ?バニーから聞いてねぇの?」



「バニー・・・そういうの、あんまり話してくれないんで。ご両親が亡くなったことしか私、聞いてません。
あと、彼が大事にしているおもちゃがいつも机の上に置かれていることしか」



「まぁあんまり言いたくねぇかもな、好きな子にとか。アイツの両親な、実は―――」






























『タイガー、今どこに居るの?仕事よ』






すると、タイガーさんのつけているブレスレッドから
警告音と共にアニエスさんの声がした。







「分かった。話の途中だけど悪ぃ、俺行くわ」


「え?あっ、で、でもっ・・・」







話を中断して、タイガーさんは駆けていく。
途中でやめられると、余計・・・気になる。








「とにかく、あんまバニーのこと嫌いになるんじゃねぇぞ!」



「タイガーさん!!」








そう言って、タイガーさんは仕事へと向かった。

私はそこに呆然と立ち尽くし、ぬいぐるみをみる。


きっとバニーも知らせを受けて、事件現場に向かっている。
テレビをつければ多分『HERO TV』が生中継で流れているに違いない。


私は思わずぬいぐるみを抱きしめた・・・強く、つよく。











「バニー」









嫌いになれない。


でも、どうしても今は不安が募りすぎてどうすることもできない。


怖いのに触れてほしいと思う。

あの目が怖いのに、もっと触れてほしいと心が意味不明に叫ぶ。



私だって貴方のこともっとたくさん知りたい。

知りたいし、もっと側に居たい。








「バニー・・・・・・バニー・・・・ッ」








ぬいぐるみを強く抱きしめて、私は泣いた。



何で私泣いてるんだろう?そんな疑問が頭をよぎったけど
多分自分でも分かっている、だから泣いているんだってそう思った。



バニーが何をしているのとか、バニーが私のこと本当に好きなのかとか。


そして―――これからも私がバニーの側に居続けていいのか、そんな思いばかりで耐え切れずに泣いているんだと思う。










「バニー・・・バニィ・・・ッ」








ねぇ、バニー・・・私のこと本当に好きなら、答えて。








私、貴方の側に居続けていいの?

私、貴方のこと好きなままでいいの?




私のこと好きなら、もっともっと触れてほしい・・・私をもっと知ってほしい。

誰も知らない私を貴方だけに見せたい。






抱きしめるぬいぐるみに、心で投げかけても彼に届くはずなんがない。

定期入れに入れている写真を見ても、彼に私の気持ちなんて伝わるはずがない。



どうやったって、私の気持ちが一方通行で彼に向かっている不安しかない。



でもそれでも構わないと、言ってくれるのなら・・・・こんな不安も、おかしな気持ちにもなることはない。




今はただ、このぬいぐるみを抱きしめて・・・貴方を想うしか、出来ないのだと
無力な自分に悔しくて私は泣き続けた。


ピンク色したウサギのぬいぐるみには、涙が滲んで灰色になっていた。


滲んだ場所はまるで、ウサギが寂しくて泣いたかのように目元に大きなシミを残していた。






桃色ウサギは曇った色の涙を流す
(ウサギは寂しいと死んじゃう。きっとウサギは彼じゃなくて、私なのだ) inserted by FC2 system

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