「これで全部?」
「うん。ごめんね、パオリン迷惑かけちゃって」
「うぅん。僕さんと一緒に居てとっても楽しかったから平気。またいつでも来てよ!」
「そうだね」
僕とが仲直りをして数日後のこと。
彼女がドラゴンキッドの部屋に荷物を置いていたので
それを取りに彼女の部屋へと僕らは向かい、それらを受け取った。
「もう、バーナビーもあんまりさんを一人ぼっちにさせないでよね!」
「分かってますよ。でも、のこと見ててもらってありがとうございますドラゴンキッド」
「どういたしまいて。あ、そうだ・・・さん、忘れ物が」
「え?」
するとドラゴンキッドは何かを思い出したかのように
急いで部屋の中に戻り、すぐさま玄関先に戻ってきた。
「これこれ、忘れ物だよ」
「あっ、ごめーん。ありがとうパオリン」
「!!」
ドラゴンキッドの手に握られていたものに僕は驚いた。
僕の誕生日の時・・・虎徹さんたちから貰ったうさぎのぬいぐるみ。
を引き取る前に
隠したはずなのに・・・なぜ此処にある?なぜ何食わぬ顔でがそれを持っているんだ?
あまりにその光景が突然すぎて僕の脳内処理速度が低下していく。
もしかして、同じもの?・・・そうだ、彼女が同じものを購入したんだ。
僕が持っていたことは多分は知らないはずだし
同じものを偶然購入したと、考えたほうが自然だ。
そう、心の中で結論付けた。
「バニー?・・・・どうしたの?」
「え?・・・ああ、いえ・・・なんでも。じゃあ帰りましょうか」
「うん。じゃあねパオリン」
「うん、まったね〜!」
に声をかけられ、我に返り彼女に帰るよう促して
僕らはドラゴンキッドのマンションを後にした。
「バニー」
「どうかしましたか、?」
「その・・・ごめんね」
マンションへ帰る道を運転しているとが突然僕に謝罪してきた。
横目でを見ると、彼女はぬいぐるみを抱きかかえ僕を見ていた。
「どうして急に謝るんですか?」
「だっ・・・だって、ぬいぐるみ・・・バニーの部屋から勝手に持ち出したから」
「っ!?」
「きゃっ!?」
の口から零れた言葉に僕は思わずブレーキを踏んでしまった。
それに驚いたは声を出し、反動で体が前後に動く。
僕はハンドルに覆いかぶさるようにして、顔を隠した。
やっぱり、そのぬいぐるみは僕の部屋にあったものか。
「ご、ごめんねバニー・・・あの、ね・・・服出してたら、見つけて」
「僕が買ったものじゃないですからね断じて」
「タイガーさん達がバニーの誕生日プレゼントにって買ったものでしょ。タイガーさんに教えてもらったから大丈夫」
大丈夫も無いだろう・・・何せ、女の子の好むようなものだ。
ぬいぐるみといい、顔といい、色合いといい・・・男が持つようなものじゃない。
が来る前にクローゼットの奥深くに隠して
今まで見つかるはずないと思っていたのに、よりによって見つけた相手が・・・とは。
同棲しているから仕方ないとはいえ・・・恥ずかしすぎて、彼女と目も合わせられない。
「ねぇ・・・バニー」
「笑ってもいいんですよ、どうせ・・・こんなものを持っている僕を笑いたい気分しょう君は」
「いや、そうじゃなくて」
「え?」
笑われてしまう、ならいっそ笑われたほうがいい。
そう思っていたがの言葉に僕はハンドルに被せていた顔を上げて彼女を見た。
「?」
「昔・・・何があったの?」
「それはどういう?」
「タイガーさんから聞いたの。私と出会う前のバニーは、とっても冷たかったって、誰も信用してなかったって。
昔のバニーに一体何があったのか・・・私、知りたい」
「、でもそれは・・・っ」
彼女に教えるべきことじゃない。
教えていいものなのか・・・教えてしまえば嫌われてしまうんじゃないだろうか。
心の中で僕は戸惑っていた。
「私、嫌いにならないからバニーの事」
「」
「バニーのこと、大好きだもん。私もっとバニーのこと知って、貴方のこと愛してあげたい」
戸惑っている心を、は簡単に紐解いてしまった。
「帰ったら話します、それでいいですか?」
「うんいいよ」
にそう言って、僕はアクセルを再び踏んでマンションへと走らせた。
不安はある、だけど・・・きっとなら大丈夫という気持ちが不安よりも大きく勝っていた。
「さて。じゃあどこから話しましょうか?」
「バニーの話しやすいところからでいいよ。無理しないでいいからね」
マンションに戻り、が出て行ったときの荷物を寝室に置いて
二人ですぐさまリビングに来た。
は床に座りあのうさぎのぬいぐるみ抱きかかえて
僕はそんな彼女の目の前に座った。
「そうですねぇ・・・じゃあ、以前の僕のことから話しましょうか。確かに、虎徹さんの言うとおり
以前の僕は、誰に対しても冷たく信用すらしていませんでした。信じれるのは自分だけ、そうやって生きていたんです」
「どうして、そんな風に」
「僕の両親が亡くなったことは、は知ってますよね?」
「う、うん。写真立ての横に置いてあるおもちゃも、ご両親の作っていたロボットのおもちゃだってのも知ってるよ」
が優しく僕の話に耳を傾け、返してくれるだけで
落ち着いて何でも話せるような気分になる。
「僕の両親は、21年前クリスマスの日に・・・殺されたんです」
「え?」
僕の口から、あの日・・・21年前の事件を零すとは小さな驚きの声を出した。
「ご、ごめん・・・何か、その・・・っ」
すると、はぬいぐるみを強く抱きしめて目を下に向けた。
僕は笑みを浮かべ、そんなの頭を撫でる。
「その日を境に、僕は誰も信用できなくて・・・唯一、信じれたのはごく僅かの人たちだけ。
僕は、両親を殺した人を許したくなかった。、君と出会う以前の僕は復讐を糧に生きてきた男です。
誰も信用しない、仲間もいらない、1人で・・・孤独に生きてきた」
「バニー」
「でも・・・虎徹さんに出会って、色々と教えられて、変わっていきました。
もちろん、復讐も果たすことが出来て・・・世界が変わりました」
あの人に、出会っていなければ多分・・・僕はずっと昔のままだったのかもしれない。
あの人を、信じたからこそ今の僕が居る。
そして―――――。
「・・・君に出逢えたことで、僕の世界はよりいっそう彩りを増していきました」
「私にも?」
「えぇ。初めて君と出逢ったときの事今も昨日の様に思い出すことがあります。
あの時の胸の高鳴りは、どう言ったらいいのかよく分からなくて・・・それでも君から目を離すことができませんでした」
復讐を果たして、世界が変わった。
暗く淀んでいた視界に、色が付いた。
そんな彩りを増やしてくれたのは・・・・・という存在に出逢ったから。
「、これだけは覚えておいてください。僕は決して君を哀れんだり、同情したりで引き取ったわけじゃありません」
「バニー」
「僕は君を救いたかった。目覚めたばかりの能力に怯え、辛い過去を持った君を救いたかった。
ヒーローとしてじゃなく1人の、君を好きになった男として・・・君を救ってあげたかった。まぁ、君を助けた虎徹さんには
やっぱり負けちゃいますけどね」
僕が笑って見せると、が突然ぬいぐるみを捨て僕に抱きついてきた。
「・・・?」
「私よりも、ずっともっと・・・辛く生きてきたのに・・・ごめんね、ごめんねバニー」
「」
抱きついてきたは、僕の胸で泣いていた。
震える肩ですぐ分かる。
僕はそんなを優しく抱きしめた。
「君だって辛かったでしょうに?あれは女性にとって怖いことですから」
「バニーの!・・・・バニーのそういうのと比べたら、私のなんて・・・ッ」
「過去の経験や体験は、ものさしでは決して計れません。ましてや、人はいろんな過去を背負って生きています。
それぞれの尺度というものがあるんです、己の秤(はかり)やものさしじゃ区別なんてつかないんですよ」
「で、でも・・・っ」
「僕は、虎徹さん達に出逢って過去を乗り越えることが出来ました。に出逢って誰かを愛する喜びを知りました。
君は言いましたよね?『怖い思いをした分・・・幸せはたくさんなんだ』と」
「あ」
の言葉を僕は思い出した。
過去の経験は僕にとって恐怖としか残らないものだった。
両親の死、孤独との戦い、信じるのは己のみ。
僕に幸せなんて、いらない。・・・そう、思っていた。
復讐を果たして、に出逢うまでは。
「に出逢えて、僕はたくさんの幸せを感じています。もちろん、君を愛する喜びも、君と共有する全ての時間も
僕にとってはそれが何よりの幸せなんです」
「バニーッ」
「あのうさぎのぬいぐるみも、あの人たちが僕と打ち解けたいと願ってのものなんです
ぬいぐるみだったのが驚きではあるんですが、でも捨てきれなくて大切に残しているんです。
貰ったときとっても、嬉しかったから。でも君に見つかったのは少々かっこ悪いかなぁとは思っているんですけどね」
「そう、だったんだ。でもタイガーさん羨ましいなぁ」
「え?どういうことですか?」
ふと、がそんなことを呟く。
僕はそれを見逃さずすかさず拾った。
「だって、タイガーさんはそういう昔のバニーも知ってるんでしょ?相棒とはいえ、ちょっぴり複雑」
「それはこっちのセリフです」
「ふぇ?何で?」
僕の言葉にがきょとん、とした表情で僕を見る。
「君は気づいてないようですけど、僕は虎徹さんに嫉妬してるんですよ。むしろ
僕が君を助けに行けば、真っ先に僕に心を開いてくれていただろうと思うと・・・・虎徹さんが羨ましいですよ」
今でも複雑なのは、僕のほうだ。
は気づいてないようだが、僕の前での表情と虎徹さんの前での表情が微かに違う。
どこか心を許している、そんな風に見える。
僕とはお互いを愛し合ってると認めている仲だ。
だけど、は虎徹さんを前にすると僕の知らない顔をする。
彼女が虎徹さんを慕っていることは分かりきっている。命の恩人で最初にシエル自身を理解してくれた人だから。
だけど、時々そうじゃなかもしれない・・・なんて、へんな考えをしてしまう。
「バニー・・・ヘンなこと言うのね」
「事実です。僕が助け出してたらよかったと、今でも思います」
「でも、タイガーさんが居てくれたから・・・私バニーと逢えたんだよ」
「」
僕の腕の中、は笑いながら言う。
すると背中に彼女の手が絡んで服を掴んだ。
「でも・・・バニー・・・辛いときはちゃんと言ってね」
「え?」
「バニー、すぐ我慢しちゃうから。だから、泣きたい時は泣いていいからね・・・辛いときは辛いって言っていいんだよ。
ヒーローでも、私の前では・・・バーナビーっていう大切な人で居てほしいから」
まったく・・・この子は。
がその言葉を聞くと、僕は彼女を強く抱きしめた。
「ありがとうございます、」
「どういたしまして」
また1つ。
僕らは互いを分かり合える仲になったような気がした。
君に永遠に続く、僕のこの愛を捧げたい・・・・彼女を抱きしめながら
僕はそう心に誓ったのだった。
ワンステップ、共に踏み出して。
(そうすればきっと素敵な未来が待ってる)