バニーの言葉で思い出した。
5月1日。アニエスから急遽電話を貰い
話を聞くと、どうやらその日はの誕生日。
だから、親代わりをしている俺達で祝ってやろうという
アニエスからの提案だった。
丁度夜は何も予定は入っていなかったし
むしろ、入っていたとしてもアニエスが「入ってても無理やり空けるから」と
本気モードで言っていた。
夜になり、アニエスが指定した場所に正装して俺はやって来た。
「来たわね」
「タイガーさん、こんばんは」
「よぉ」
やって来ると、アニエスとがカクテルドレスを着て店の前に立っていた。
「お!可愛い服着てるな。似合ってるぞ」
「アニエスさんにお誕生日プレゼントで頂きました」
「一つ大人になったんだから、こういう服くらいプレゼントしてあげないとね」
相変わらずアニエスのアイツへの愛情の深さは
他では見ることの出来ない事だ。
いつもは厳しい目つきとキツイ言葉なのに、と思って見ていると
俺の視線に気づいたのかアニエスは「何よ」といつもの表情で睨みつけてきた。
「タイガーも来たことだし、入りましょ。此処のお店のフレンチ、とても美味しいのよ」
「楽しみです」
アニエスの言葉に浮かれるを見て
ふと懐かしい情景が俺の頭の中を過っていった。
「ご馳走様でしたタイガーさん」
「大半はアニエスが出してくれたようなもんだって。悪いな、おじさんちょこっとしか出せなくて」
「いいえ。それでもご馳走していただいたことには変わりありませんから」
食事を終えて、帰ろうとした。
だが、アニエスが急に会議が入りを送って帰れないというので
俺が送る、と言ってアニエスとはレストランの前で別れた。
夜の暗く、街頭や店の明かりで灯された道をと肩を並べ歩く。
「それにしても、お前がひとつ大人になると思うと
俺達が出逢ったのも何だか早ぇ気がするな」
「・・・そうですね。もし、あのままの生活を続けてたら私きっと
タイガーさんともバニーとも逢うこと無かったと思います」
膝を抱え、泣いていた少女を救い出したのがもう随分前の事のように思える。
それからの生活の変化や周囲と打ち解けるまで、何日の時間を費やしただろうか。
それすらも、今は何だか懐かしく思えてしまう。
そしてひとつ、またひとつ、と少女は大人の女になっていった。
「まぁお前を大人の女にしたのは、俺じゃなくてバニーだけどな」
「タイガーさん?何か言いました?」
「んにゃ・・・こっちの話」
いつの間にか俺の相棒は、俺が娘みたいに思っていた子--を
大人の女へと成長させてしまった。
楓もいつの日かそういう風になるのか、と思うと寂しいような複雑な気持ちだ。
まぁ今でも十分複雑な気持ちではあるがな。
小声で呟いた言葉を濁し、咳払いをする。
「まー・・・何だ、アレだ。たまには腕組んで歩くか」
「え?」
「ん?おじさんの頼りない腕じゃ不安か?」
そう言うと、は首を横に振り「いいえ」と嬉しそうに答える。
腕を差し出すと小さな手が其処に優しく絡まり
そっと力が込められた。
「よし、行くか」
「はい」
またひとつ大人になったお前と腕を組んで歩く。
出逢ったあの頃小さかった光が、今は眩しいくらい愛おしい。
「大切にしたいよな、こういうのってさ」
「え?」
「おじさんの独り言」
本当、大切にしていきたい。
この光も、そして、コイツも・・・全部、俺のかけがえのない大切なものだから。
「虎徹さん、どうかしましたか?」
「へ?ああ・・・いや、何でも」
ふと、バニーに声を掛けられ現実に戻る。
しかし言えないだろう。
確かにアニエスとと3人で食事に行ったけれど
その帰りの事をバニーに話してしまえば、の誕生日を知らなかった
バニーのメンタルは相当やられてしまうに違いない。
「(黙っとくか)」
追い打ちをかけるのも何だから、俺はとりあえずその日の食事後のことを黙っておくことにした。
ひとつ大人になったきみと
(腕組んで帰ったとかバニーには言えねぇよな。多分かなり落ち込むし、怒られる)