「嬢ちゃん返せって・・・意味分かんねぇよ!」
「そのままの意味です。を返してください」
ライアンが来た途端、僕は溜まりに溜まった怒りを彼にぶつけた。
「おいおい。だから話を噛みあわせろって。なー・・・頼むから誰か俺にも分かるように説明してくれ」
「あー・・・実はな」
困り果てたライアンに虎徹さんが覚束ない感じで説明をし始める。
僕はその傍らで黙って聞きながら、ライアンを睨みつけていた。
そして説明が終わり、ライアンは溜息を零して僕を見る。
「要するに、ジュニア君は僻んでるワケ?」
「僻んでません。腹が立っているだけです」
「同じじゃねぇか」とため息混じりにライアンが言う。
確かに捉えようによっては同じかもしれない。
だけど、僕自身これは「僻み」というよりも「腹立たしい」という気持ちのほうが
正解とも言える。
「別に、俺が何やったっていいだろ?嬢ちゃんの誕生日だったんだし」
「その点は別に構いませんよ。ただ、に『何をあげたか』という問題です。
その部分で僕は君に腹を立てているんです」
「もう完全に八つ当たりじゃねぇか、それ」
八つ当たりかどうかなんてどうでもいい。
いや、でも彼の言うとおり確かにコレは僕の「八つ当たり」かもしれない。
だけど多分今の僕はこうでもしないと、腹の虫が収まらない。
の誕生日を祝えなかった。
あの子の笑顔を一番最初に見れなかった。
何より、生まれてきてくれた事を感謝してあげれなかった。
本来僕は祝ってあげるべきなのに
皆に祝ってもらえて幸せそうなの顔を思い浮かべると
「どうして僕だけしてあげれなかったんだろうか」と思い悩むばかり。
それだけで、腹立たしさと、落胆と、悲しみが入り混じりこみ上げてくる。
「ブレスレットなんて、ジュニア君があげれば嬢ちゃんはそれ付けてくれるだろうから
あげればいいじゃねぇかブレスレット」
「他人と同じものをあげて、何が良いっていうんですか」
「ジュニア君。何をあげるか、じゃなくてさぁ・・・誰があげるか、ってのが問題なんじゃね?」
「は?」
ライアンの言葉が不可解すぎて理解できなかった。
「俺がブレスレットあげたところで、嬢ちゃんの心は動きゃしねぇよ。
ただ純粋に喜んでくれるだけさ。でももしそれがジュニア君だったら・・・多分、反応は違ってたと思うぜ」
「反応は、違ってた・・・?」
「だからさぁ、つまり」
「アンタ達、揃いも揃って。トレーニングしないで何してんの?」
「アニエス」
ライアンの言葉を遮るかのようにアニエスさんがいつもとは違う格好。
つまり、私服の状態で腰に手を当て僕ら全員を睨みつけていた。
そして、その後ろに―――――――――。
「うわ、ホントだ皆揃ってる。あ、ライアンさんも此処にいらっしゃってたんですね」
「おー!嬢ちゃんじゃねぇか」
が顔を出して、笑っていた。
の顔を見た瞬間僕は酷いまでに胸を締め付けられた。
誕生日を祝えてない罪悪感がこみ上げてくる。
の顔を見たライアンがすぐさま彼女にと近づく。
「良かったライアンさんが此処にいらしてて」
「ん?俺に何か用でもあったのか?」
「はい、実は・・・」
すると、が両手のひらで作った皿をライアンの前に出した。
その中の物をライアンが見ると、彼はため息を零し頭を掻く。
「あー・・・やっぱ切れちまったか」
「すいません。ブレスレット、せっかくくださったのに切れてしまって」
ブレスレットが切れたことを彼に伝えていた。
胸が痛い。
軋むように痛い。
やっぱりは僕が祝ってあげなかったことに対して呆れている。
こんな風にわざわざライアンにブレスレットが切れたことを告げに来ているのだから。
僕の目の前で、それをして・・・誕生日を忘れていた僕に失望して、敢えて彼女は――――――。
もう、一分一秒と・・・こんな場所に居たくない。
そう思ったら勝手に足が動いて、その場を逃げ出した。
虎徹さんが僕を呼び止める声も聞こえないくらい・・・僕は、離れた。
しばらく歩いて、立ち止まり、息を整える。
息を整えるあたり自分が相当足早に其処を去りたかったことが頷けた。
「・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・僕は一体、何が出来たんだろうか」
人々が賑わう街の中。
僕は1人其処に佇み、呟く。
のために、僕は一体何ができたんだろうか?
考えればきっと、たくさん浮かぶはずなのに
今はそれすら考えたくないのか、脳が上手く機能してくれない。
「」
顔を上げて、空を見上げた。
嗚呼、青い。
清々しいまでに青い空が広がっている。
空はこんなに青いのに、僕の心は太陽すら見えない雨模様だった。
晴れない心に続く雨
(軋み続ける胸に降り続く雨)